日本人はエビが大好き。スーパーなどで売られているエビの大半はベトナムやインドネシア、タイ、或いはインド、スリランカなどから輸入されています。
総菜売り場で販売されているエビフライ、これは現地工場で加工された冷凍品を油で揚げただけ。また剥き身や殻付きの冷凍エビも、現地で水揚げしたものをその日のうちに加工したもの。
なにしろエビは鮮度の落ちが早く、養殖池に出来るだけ近い所に工場があるのはこのためです。
おまけにベトナム南部は年中暑いので如何に早く加工に回すかが大切。傷んでしまうと一目でわかるくらいで、もはや売り物にはなりません。
かつて日本の大手冷凍食品企業のエビフライ加工工場がソクチャン省にあって、日本に輸出していた事がありますが、今ではHCM市の工場に運んで各輸入元の仕様通りに加工。冷房が完備された工場内ではスタッフがひとつずつ手作り。ラインに流れてきたエビに小麦粉を付け、卵液に浸し、パン粉をまぶす作業の繰り返し。全身白い作業服にマスク、ゴム長靴という出で立ちだが、なにしろ日本企業はこんなところまで清潔さを厳しく要求、衛生面は完璧でした。
完成するとケースに入れて最新式の冷凍庫へ。マイナス40度程の低さで急速冷凍しないといけません。こうして販売会社は違っても、日本へ送られたエビは製造する所が殆ど同じという次第です。
店頭でよく見るのはブラックタイガーですが、この所バナメイが増えています。病気に強く成長が早くて養殖しやすいとかで、生産業者にとっても実入りが良いそうですが、ベトナムはブラックタイガー(TOM SU)が多い。
ベトナムは2019年に40億ドルのエビを輸出しました。増々需要が高くなり2025年には100億ドル、110万トンの出荷が目標だとか。
主産地であるメコンデルタでは、チャビン省、ソクチャン省、バクリュウ省、カマウ省が有名な水産県。海に近い所、見渡す限り広大な平地に幾つもの大きな養殖池が造られています。これは汽水を使い、養殖が終われば排水するため。この池、実に深く4mはあった様に思います。水を抜いて底を乾かして綺麗にしますが、それでもヘドロは溜っている。今は抗生物質や化学薬品を使わないが、代わりに何種類かある日本製天然由来の浄化材等を投入していると聞く。かつて日本の検疫で残留薬品が見つかり、全量廃棄処分されたという事もありましたが、日本の検査は厳しいと定評で現在は検査を行い安全と言った所です。
化学薬品を使った池は土が白く変色し固くなります。これは素人目にもわかるくらいで、過去には数年使い放棄されたままの池を彼方此方でみかけました。
またバクリュウ省などには稚エビを生産する業者がいて、養殖業者が買い付けに来ます。この稚エビを生産する家に一週間ほど寝泊まりした事がありました。外国人は来ることが無い地域でかなり生活は不便だが、高い空は青く澄んで、緑の大地にクリークが走り、吹き渡る風は心地よく、一寸間の至福の田舎暮し。
だが此処に来るまでが難儀。何しろ公共交通が無く合作社の小型バスしかない。おまけに定員無視の状態で一般道を夜中に突っ走るが、こういう超ローカル旅はなかなか味わえず、実に楽しい。持つべきものは仕事を離れた友人知人です。
其処はマングローブの中に小屋があって、ボートで行かなければ辿り着けない場所にある。周りには何もなく一見すると何の建物か分からず秘密基地の様。
薄暗くした内部には水槽が並んでおり、成長段階に応じて幾つかの槽に分けられているけれど、生まれ立ては白いミジンコの様で何なのか良く分からないが、
まるで宝石を扱う様に丁寧な作業をしている。
養殖して売るために、広い土地や大きな設備投資などは要らないので、一見、かなり有利な商売の様だが、一日中見張っていないと泥棒に入られるので気が抜けないという別の苦労があります。親戚である小屋の管理者は海外留学して水産の勉強をしたそうで、それなりの知識と技術、繊細な育てる経験があればこそできるビジネス。こんな鄙の村ながらもお金持ちなのです。
養殖地で採って来た活きたエビを思う存分に戴いたことがあります。此処ではココナツジュースで茹でて食べます。甘く美味しくなるのだそうで、南国ならではの食の知恵。HCM市内の海鮮レストランでも同じ要領で調理するのです。
籠に採れたてピチピチ山盛り。気前よく次から次へと放り込んで、赤くなったぷりぷり特大のエビを養殖場で頬張るのは野趣満点で最高の贅沢。味付けは塩胡椒と果実の絞り汁(Muoi Tieu Chanh)と至ってシンプル。旨さを引き出すため余計な事は一切しません。
今の値段は大きさなどにもよるが、1キロ当たり2千円~4千円程。大サイズで(約25g)大体40匹はある。国際基準があるそうだが詳しくは分りません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生