絶対に見ておきたいベトナムに関する映画① (アメリカ映画5本)

2020年10月5日(月)

ベトナムを舞台にした米映画と言えば、やたら戦闘シーンが続き、ラストは敵がバッタバッタと射抜かれて米軍が必ず勝利。お決まりのドヤ顔で上から目線。前線の幕営ですらアイスクリームを舐め、冷えたビールを飲めるほどの物量がバックにある。だが知恵と精神力でベトナムに劣っていたのは紛れの無い事実。

「ハンバーガー・ヒル」もその類。ベトナム戦史上最激戦で903高地を奪う10日間の死闘を描く。米軍の戦死者73名、対する北ベトナム軍は約10倍。だが米軍はわずか6日間で戦略的価値がないと放棄。一月後に再び北の師団が戻る始末。無意味な戦い、多くの犠牲は何やった?と反戦団体が指摘したが、誰も責任を取らない。何処でも大本営の嘘と真実を知れば阿呆らしくなる。

しかし為政者の言葉を信じ双方の普通の人間がバカを見る侵略行為、人種差別、憎しみや空虚さを提起する映画もあります。歴史的に人類は常に真実に目を逸らして騙しだまされ、何も学ばないまま未来永劫に愚を繰りかえすのです。
最近ベトナム国内では多くのコンプレックスが出来ており、現代ものの作品が多く制作されています。しかし国内外で制作された映画で、ベトナム人監督がメガホンをとっている秀作もあります。またフランス植民地時代を題材にした外国映画もありますが、単純に面白い。綺麗で異文化が楽しめます。
この幾つかを実際に観た中から個人的に印象に残ったもの、戦争ものであっても何らかのテーマを持った作品を挙げてみます。日本の劇場で観たのも、現地のDVDで見たのも含みます。(順・制作年不同)

オリバー・ストーンのベトナム戦争映画三部作
自らの従軍経験を活かして脚本を書き、監督をしたのがオリバー・ストーン。
何れの映画も上映時間が長く2時間を超える。しかし其処には戦争反対と言う信念が根底にあります。来日時に広島を訪問、自国の原爆投下を非難するが。
共通するのは原作があり、作者は戦争を経験した者。何故か正義派の軍曹が多く出て来る。戦争への憎しみと懺悔の念が何処かに感じられます。

「プラトーン」はその1。まさに自らの経験をなぞった感じ。前線の兵の多くは金と移民権を得るため入隊した黒人やヒスパニック。サイゴンの小隊に配属されたクリスの隊は解放戦線に悩まされ、人間関係もおかしくなる。お定まりの鬼軍曹Bがいて民間人を殺害しようとする。これを別の良心的な軍曹EがBを軍法会議に掛けようとするが、逆に恨まれ戦乱に乗じてBに殺害されます。
これを知った正義感に溢れたクリス。E軍曹の恨み辛みを晴らそうと、爆撃中にB鬼軍曹をベトコンの銃で射殺。という勧善懲悪型ストーリー。(1986年)

「7月4日に生まれて」 この日はアメリカの独立記念日。主人公のロンは
愛国者。ケネディーの就任演説に感銘を受け、反対されつつ入隊を決意。前線への配属を希望する。だが戦闘中に民間人を誤って殺害、さらにベトコンから襲撃を受けパニックになり部下を撃ってしまう。その後にロンも銃撃され脊髄を損傷、半身不随になり除隊して英雄気取りで帰還。だが反戦機運が盛り上がり世間は冷たく非難。精神が病んで自暴自棄、酒に溺れる虚しい日が続きます。
*枯葉剤被害も実は米軍兵に多いが知らされないまま、隔世遺伝の影響は続く。
再会したかつての恋人は反戦運動に参加。ロンもやがて戦争は間違いだったと悟り車椅子で運動に加わるが弾圧を経験。時、ニクソンが大統領に就任。戦いがほぼ終結を告げる少し前のことです。重たい映画だが、国に裏切られて目を覚ます話。主演は若き日のトム・クルーズ。(自伝小説を映画化 1989年)

「天と地」個人的に原作者と同年代。こんな壮絶な人生があるのか驚愕と感動の大作、何度も視聴しました。音楽は喜太郎、シナリオにマッチして美しい。
中部ダナン近郊の農村。兄二人は北の軍へ、主人公レ・リーも否応なく戦争に巻き込まれ、南政府軍から拷問、解放戦線からはスパイと見做されてレイプ。*僅か数十秒のレイプのカット、悩んで夜も寝られず数日かかったとの逸話が。
村を追われ母親とサイゴンへ。雇主の子を産んでダナンへ戻り、子を育てながら米兵相手に煙草売り、友人に誘われ娼婦に。軍曹と知り合ってアメリカ移住。豊かな生活に驚きつつアルバイト。旦那になったバトラー軍曹は、戦争の悪夢に悩み仕事が上手く行かず自死。子供が成長してようやくの帰国。飛行機の窓から見た故郷に嗚咽、常に味方であった最愛の父親も亡くなっていて涙します。
原作者ヘイスリップはアメリカでレストラン、不動産業でも成功。故郷で慈善活動を行い、母親や姉などが協力しました。ベトナムでは撮影ができず、タイなどでロケ。在米ベトナム人が無償で協力した作品。
主人公役レ・ティー・ヒエップは医学生の時、素人で初の大役を好演。46歳の若さで没。渋い演技の父親役、ハイン・S・ニョールは中国系カンボジア人。産婦人科医で、ポル・ポト時代にアメリカへ亡命。「キリング・フィールド」に素人ながら初出演。NYで強盗に襲われて不遇の没、56歳。両名共に勿体ない。

「グッドモーニング・ベトナム」バリー・レヴィンソン監督作品・1987年
兵の士気高揚のためDJとしてサイゴンに送られた空軍クロンナウア上等兵の実話に基づく物語。主演はロビン・ウイリアムズ。2014年死去(63歳)。
陽気でハイテンションな語りと賑やかな音楽のDJは、前線の兵士には大人気。
一番記憶に残っているシーンは、米兵が集まるバーを出たとたんに爆発が起き、多くの死傷者が出た所。米兵を狙ったテロで建物が破壊され呆然とする姿。
バーを出ようと誘いだしたのは主人公が一目惚れしたベトナム女性の兄。この人物こそ解放戦線の同志であり爆弾テロの首謀者もあったのです。これを知ってクロンナウは騙されたと激怒するが、兄はアメリカこそ無差別攻撃で家族等を殺害したと非難しそのまま別離。他の兵士は差別的に彼らを蔑視。上官からは嫌われ職務停止、おまけに女性の村へ行く時、危険地帯である事を分かっていながら許可。理不尽な戦争に嫌気がさして名誉除隊で帰国の途に。一般的な戦場での殺戮場面が多い戦争映画とは趣が異なります。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生