高齢化社会を迎えるベトナム ②

2022年2月9日(水)

ベトナム側のニュース記事では高齢化社会が急速にドンドン進むとあります。
「60歳以上の高齢者人口、38年に20%、50年に25%」という見出し。
ベトナムでは高齢者を60歳と定義している。そこで統計総局ではベトナムは2021年に高齢化社会(高齢率が7~14%)に突入してから、急に高齢化が進むと報じています。
2017年に高齢化率は11,9%であったが、38年に20%、50年には25%に達するとの予想が出ているほど。あっという間に老人が増え、気がつけばこれに要する厚生費が膨らんでいた、と危機感を持つ人がいます。
問題は高齢化のスピード。アジアで最も早いとされ、高齢化社会への所要年数が17~20年となっている。フランスの115年、スエーデンの85年、アメリカ69年、中国ですら26年なので、ベトナムはかなり短いと思われる。

さらに現在の高齢化問題。現実的に直面する事は約1190万人の中、老後の貯えがないとする人は多く、高齢者向けの職業訓練施設などがない。また事業を始めるにも融資を受けるのが困難となっている受難に満ちた世代です。
ベトナム戦争が終結して46年。この高齢世代はちょうど青春時代の真ん中にいた。
森田公一が歌うような道に迷っている余裕など全くない。とんでもない辛苦の生活を送っていた人が大半を占めていたのが実情。今さらほのぼの思い出したくもない、未来や夢を感じない、明日の命も分からない暗闇時代。

戦争に勝ったものの喰うに喰われずの人が殆どで、国・社会が貧しく何もない疲弊していた最中。東西の代理戦争の如く利用され、歴史に翻弄され、人生を奪われました。手に職や学歴はなく、教師でさえ小作に甘んじなければならないし、南部の人達は家や土地などの財産を接収されているから尚のこと。一部の人は土地を放さずそれで以ってバブル期に凌いだけれど、こうした金員は家族の教育や生活資金となってしまい手元にはもう無い。一部の人がようやく2001年に始まった株式、不動産に投資。実際に見てきた多くの一般市民はこんな芸当はできず仕舞い。地方から何とかHCM市に来たが仕事はバイクタクシーの運転手とかタクシー乗務員。女性は工員か販売員、露天商など。
なけなしの金を叩いた家は湿地のライセンスの無い土地。おまけに一帯の開発で立ち退きと踏んだり蹴ったり。難民としてアメリカに渡った親戚をうらやましく感じている。こうした人は周りに居たがそれなりに楽しい思い出も多い。

・高齢者法

ベトナムは元来高齢者のケアは家族が担うとする考え方が強く、施設に入所させることはもってのほかという意識はまだ根強い。けれども故郷の親元に残る子供は減少するうえ、物理的にも離れており時間的余裕もない。だが親は地元に骨を埋めたい。介護施設や家政婦が必要となる理由です。また若者は結婚前に600万VNDもするが、勤務先に近い新居を求める時代です。

ベトナムには2010年に制定された高齢者法があって、簡単に要約すれば、社会生活における権利と義務が規定されています。文化、教育など社会活動への参加を保証され、また国・社会、家族は、その世話や責務、高齢者のケアと役割作りに関し社会・組織、個人に対して奨励している、とされている。
さらに高齢者の健康、生活の質の向上も規定してある。このところ社会参加するためのコミュニティーが増え、これに参加する人も増えているとする報道もあるけれど、しかし実際には絵に描いた餅に過ぎず、生活に余裕などなく困難な場面に多数直面している人も多いのが現状だと言われています。

もはや世の中は世代交代。現在の若者は戦争を知らない時代に生まれ経済成長の恩恵を享受。物心がついた時点で親は痩せているのに、子供はありったけの愛情を貰って丸々と健康にそだてられ、スマホを持ち豊かな青春真っただ中。
高等教育を受け、海外にも行ける時代になったが、高齢者を敬うとか、家族で面倒を最後まで見るとの価値観、社会観も曲がり角だと言えなくありません。
福祉系社会保険施設の拡充、民間有料老人施設(ホーム)の認可。少なくても戦後生まれの世代で、筆者が知っている家族などこの様な事はない。一族郎党が集って飲み食らい。冠婚葬祭は積極的に関り、何度も招かれ彼の地の家族のあり方を身に染みて感じましたが、若い世代には煩わしいのかも。

・健康寿命と都市・農村での老年化率の差とは

昨年12月、ベトナム人口デーにあたり、保健省はハノイで人口発展に関するシンポジウムを開催しました。
この中でも高齢化社会に対する予測が統計総局・人口労働統計局から述べられ、
高齢化社会以降、2055年から2069年までの超高齢化社会の問題が論議されています。これを並行して出生率の低下もあり、長期的に人口規模を維持できるため必要な人口増加率減少危惧が伝えられました。
国民経済大学のロン教授はこの現象に伴う労働力不足、年金制度や社会手当の問題が浮上すると指摘。現在ベトナムは中所得国であり、子供や孫など家族に依存して生活する高齢者の割合は30%であるが、出生率の減少がこの負担を大きくすることになる。またベトナム人の平均寿命は74歳であるが決して健康である訳ではない。これは近隣アジア諸国のタイやマレーシアとほぼ同じだが健康寿命に関して下回っている。まるで日本の姿を見ている様だが、ベトナムはこれらの国が高い経済成長を遂げ、高齢者の保護やケア、出生率減少を乗り越えてきた経験に学ぶ事が必要と訴えています。

またとりわけ農村部では都市部の2倍の人口が居るが、2019年度での高齢化率は都市部が7,1%、農村部では8,1%と若干多いが、この傾向は高くなるとの研究があります。しかも高齢者:15歳以下の年少者の割合を見ると、都市部だと35,5%、農村部では48,8%と高齢者は年少者に対して比率が高く、また10年間でこの率(老年化指数)が2倍になっていることが判明しました。しかしこれは何処の国や地域でも同様で、経済発展が農村の若者を、労働力が必要とする都会に吸い上げられていると考えられます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生