高齢化社会を迎えるベトナム ③

2022年2月14日(月)

・チョーライ病院での日本の支援

数年前のこと、日本の介護施設や教育施設を運営する企業、また国内で大手の施設の副理事長もベトナム進出を考えられ、現地視察の依頼を受けました。
この時のスケジュールを読み直し、現在の随分進化している状況とは異なり、介護が十分理解されなかった当時の状況を振り返ってみます。
HCM市で最大規模の病院であるチョーライ病院。日本のODAで建設され、優れた医師がいてMRIなど高度医療機器も揃っている。全国的にみれば医療レベルは脆弱。地方では診断がまともにできないためドンドン患者がやって来るが、病状が進んだとか、手遅れの場合が多く、昔の日本同様に家族が一緒に来て付き添っているけども介護をどのように為すべきか分かっていない。
国立病院なので視察を依頼しても普通は簡単に許可が下りない。しかしそこは現地人脈。せっかくなら介護関係の現状をヒアリングすることと、JICAが派遣している日本人医師の話をお聞きしたい、というので実現しました。
国際医療福祉大学の先生であった女医のH先生。派遣期間を2年超過して残り介護の仕方等を現地介護スタッフに指導。機材を積んだバスで家庭を訪問するシステムを初めて採用して実践。ベトナムにこれまでなかった作業療法を採り入れ、訪問介護などの実務研修もされました。こんな熱意と努力が職員を奮闘させ、長年の功績が評価され政府から叙勲されています。
そこで海外留学組の先進医療や療法を知る他のベトナム人医師と一緒になり、帰国して後に大学を辞めてまで、ベトナムにはまだ無い療法の講座を開設したいと行政に直訴しても役人は無慈悲にも許可しない。何が何なのか全く知らず懐疑的、担当職でありながら勉強すらしていなかったのです。
介護スタッフは自分たちのレベルが分っているので、日本で研修を受けたいと言う。部屋をみると器具などは旧くて使えないとなるほどお粗末な限りで窮状を訴える有様。少し前はこんな状況にありました。

・用地探しの顛末

ならば勝算はあるかな、として用地案件。知人にHCM市当局へ事情を通してもらい、市が施設を検討中だとする土地を観に行くことになったのです。
依頼書に日本の経験豊富な介護病院がHCM市に来れば、初めての日本式介護施設の建設であり、福祉行政にも大きな貢献ができ、先進的な介護方法の見本となり人材育成が可能でと云々。と歯の浮いた美辞麗句を並べました。
この理事長は専門学校を持ち、ベトナム人の学生も居て卒業後は進出を見越して社員に採用したのです。ところが先に職員と結婚してしまった。
さてこの物件、開けてびっくり。川を挟んだ島で木が密生した小山。いくら何でも平地で取り付け道路はあると思いきや、嘘やろ。開発から全てを任せるそうだが、要は土地があるけれど金がないのでおんぶに抱っこなのです。
別の案件はダラットに行く途中、新しくできたゴルフ場の近くという話だった。
はるばる見に行ったがこれも斜面地。同行したのはHCM市在住の大阪出身者。早くに渡米しナーシング・ホームを共同経営しているが、ベトナムで新規事業が面白そうだとやって来た。いわゆる老人ホームとは違い、健常者が入所している施設であり事業は安定して運営できていると言う。幾ら何でもこれではネという感じ。全てに経験者は居ない、理解が乏しいと言う何時ものパターン。
参考に視察したのはクチにできた有料介護施設。ほぼ先記のようなもので対象は富裕層。理事長の施設を帰国時に見ていたので、これなら現地で事業機会の可能性はあるかもと思えたのです。だが単独事業はできず、この時分は行政も経験がありません。明確な方向性を出せないままに時期尚早、沙汰闇となった。新しい酒は新しい皮袋に入れなければならない。

もう一つ。既に進出しHCM市と共同で7区のフー・ミー・フン地区を開発していた台湾企業。台湾人の陳部長はこの地区で日本人を対象に、リタイアして海外で暮らしたい人が長期滞在できるエリアを造る企画を持っていた。
ある意味で彼に先見性はあったが、フィッリッピン、マレーシアの様に政府の考えはありません。ベトナム国民対象ではないけれど、この様な施設がモデルとなり時代を引っ張る種は随分前にあったのです。

・日本企業の参入可能性

未だ家族が高齢者の面倒を見る考え方が主流ながら、時を経ると社会の変化があって核家族化も進行、そうはいかなくなるのが実情。多くは都市部で有料の介護施設は増えてゆく筈です。
住宅事情などで介護が出来なくなり、家族の方が限界に達して参ってしまう。
費用は掛かっても専門職に依頼するのが安全で賢明、もはや後ろ指をさされる事もない。高齢化社会が進行して其の必要性が認識され、入居の希望者は増えているのが実情。資格制度は無いけれど介護人材も多少は育ってきている。
また費用などの観点から施設への入居よりデイサービスや訪問介護はこれから必要性が増す傾向にあると考えるが、制度化されておらず民間主導で進めていかなければ対応は難しいと思えます。
問題は支出できる限度。幾ら豊かになってきたと言えまだ十分な可処分所得や、これらのケアに回せるまで余裕はないのが現実。統計資料は大規模なものはないが概ね300~500万VND(1万5千円~2万5千円程)、少し無理できも1000万VND(約5万円)。これが施設なら1200~1500万VND(5万5千円~7万5千円位)。
まだ高齢者施設への認知度は低く、信用度も高くない。何よりもお金が掛り過ぎて負担には堪えられない。ならば昔からあるように家政婦を住み込みで雇う方が便利で何かと都合が良く、外見も繕える、という考えも未だ捨てきれない過渡期にあると考えます。
実際に訪問介護やデイサービスの会社もHCM市でも稼働しているが、聞くところでは簡単な健康診断やマッサージ。日系も参入したようだが本格的でなくこれからと聞きます。

日本企業はこれまでの運営経験を基に、ターゲットを絞り総合的なシステム化による差別化を図る。また日本で仕事を終えた実習生が帰国後に、身に付けた細やかなホスピタリティーや知識を武器に介護現場で地元の人材をリードする。
この様なシナリオを描けば参入できる可能性は大きい。
時は熟してきたみたいです。VCCIがフォーラムをする位。進出受け入れも広がりつつある様に思えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生