日本の建築基準法はこれまで大きな地震などがあった際に改正されてきました。
柱や梁など構造の強度を高め大震災に耐えるようにという安全面からなのだが、何しろこれに伴う費用の増大は避けらず、建物の販売価格も上昇する訳です。
さらにどうしても柱や梁が大きくなるので部屋内は狭く感じてしまう事になる。近年は免震構造が各社で研究されており、エネルギーを吸収するため高層住宅の上層階での揺れが減少するという利点が計算上明らかになっているけれど、何れにしても日本で生活する以上、家やビルなどの強靭化は避けられない問題。
筆者の現役時代、50年近く前、剛構造が主流の時代だったけれど、自社開発物件の超高層マンションで地震が起きた場合、数十センチの横揺れが起きるという想定を設計担当者が話していた記憶があります。
日本最初の超高層ビルである霞が関ビルは、関東大震災の時、五重塔が倒壊しなかったのはどうしてなのかとの疑問からエネルギーを分散させる技(柔構造)のヒントになったが、古の時代の大工さんの知恵とワザには頭が下がります。
これらは一般住宅の話でないけれど、今年4月に改正される建築基準法はこれまで2階建て、13M以下、建築士による設計であるなら必要がなかった構造計算が要求される、という所に大きな改正点があると感じます。
伝統的な軸組み家屋を長く建ててきた立派な仕事が出来る大工さんも、古来、培ってきた職人の継手や仕口という世界的な技術だけでは認められない訳で、余計な費用が加算されることになるのです。こうなると文化財や伝統的に保存するべき建築物はどうなるのでしょうか。
日本の木造家屋は春夏秋冬、季節の変化に対応できるよう建てられてきた経験と知恵の結晶。屋根の形状、軒が深いのは美しさの象徴であるけれど、陽光や雨を調節する役目もあるし、土を使った壁も、障子も自然を上手く利用するという意味で世界的に誇れるものと思うし縁側にも意味がある。座敷、畳は茶道や華道という文化に欠かせず庭と一体化し、日本人の合理的で癒しの原点です。
尺貫法は人間の摂理に適った物差、これはメートル法にない人間の体を主体にした優しい図り方で、日本家屋はこの摂理に応じた計算から出来ているのです。
しかしこの所はこういう事を知らないし、したくても出来ない。費用面や自然の材料が使えないなど様々な要因もあるけれど、どんどん省力化、簡素化され外観の美しさや遊びの空間など無くなって、無駄の効用は許さずそぎ落とされているのが現状。しかし一つ言えるのは、断熱性能からみると世界的に劣っていると言われているが、夏を基本としたもの。如何せんエネルギーの効率利用の観点からみれば考えなければならないのは事実であるに違いありません。
また能登地方でも地震での家屋倒壊。金沢に赴任してから仕事で幾度となく訪れたが、雪にはめっぽう強いと思っていた伝統的家屋がいとも簡単に倒壊した。これには筆者は驚きました。北陸の雪は日本海からの水分を含むので、やたら湿っぽくて重たい。能登の家の屋根を見るとこの雪の重みに耐えるだけの美しい構造が外からもはっきりわかるが、外に逃げる熱に対しては強くはなかった。
信州安曇野に親が家を建てた際、窓を二重にした。内側はプラスチックで外がアルミサッシ。当時は珍しく住宅雑誌に載ったくらいだが、窓から逃げる熱は50~60%にもなるというから何らかの断熱策が必要と思われます。断熱に関して雪国でもそれほど関心が高いとは言えず、木造住宅では精々100mmのグラスウールを使うくらいが関の山でしかありませんでした。
だが脆くも崩れた木造住宅と夏の暑さに冬の寒さへの断熱対策。これを放っておくのは良くない。おそらくはこれが今回の改正の主眼なのかもしれません。
さて、今年の冬。寒かった。ある記事に掲載されたのが、室温が18度以上の家に住む人に比べて、12~18度未満の住宅に住む人では、心電図の異常が1,8倍、コレステロール値も1,8倍ほど危険性が増えるという。また話題になったがヒートショックを引き起こす要因ともなり健康を害する恐れがある。今では三重構造でガス入など窓製品もあるが、それだけ重量が増えるのでこれに耐えるだけの構造計算も今回の改正の理由の一つであろうと思われます。
WHOは冬の室温18度以上を推奨するが、日本の家はこれにも達していない場合があるというのです。さらに室温が低ければ、気管支喘息やアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎に掛かり易いそうだが、むしろ近年の新建材に使用する化学薬品を原因とする人為的影響が高いと考えます。そういう意味では本物の材料を使ったと言える家はどんどん減っているのが今の世の中の実態です。
この住宅の断熱性能は1980年に初めて省エネ基準というものが制定され、まだ歴史が浅いのだが、このところよく見かけるのが省エネで政府の補助金が使えるというリフォーム会社のチラシ。窓やドアなど一定の省エネ性能を満たせばリフォームに掛かった費用の半分、最大200万円まで補助があるという。
さらにエコ給湯器にも一定の補助が出るというものです。
家の修繕(営繕)程度では問題が無いけれど、戸建て住宅の間取り変更などの大規模修理となればこれも構造計算をしなくてはならないので、工事をするのであれば今すぐ着工ということになるのでしょうか。
昔と違って構造計算はCPで容易に出来るので早くなったけれど、構造計算を学ぶ人は意匠よりも地味で結構しんどい仕事なので担当者は多くいなかった。しかしこれからは脚光を浴びることになるでしょう。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生