ホーチミン市とメコンデルタ・カントー市を結ぶ鉄道プロジェクト計画

2024年2月15日(木)

兼ねてからベトナム政府は鉄道の新路線を計画していたのだが、現地報に拠ると中国・CTグループは官民パートナーシップ(PPP)方式で、HCM市とメコンデルタ・カントー市を結ぶ建設プロジェクトを政府に提案したとある。
これには全長174KMを、ビンユン省を起点として、HCM市、ロンアン省(ロンディン)、ティエンザン省(ミトー、ヴィンキム、ロンチュン、カイベの4駅)、ヴィンロン省(ヴィンロン、ビンミンの2駅)、カント―市と、この他に2駅の計12駅を設置、6地域を45分間で走行する。軌道は1435㎜の標準軌となっていて旅客車と貨物輸送を行うとしており、この投資額は9,8億ドルを必要とあり、合弁会社が85%を、国は15%を出資する計画だとある。
だが鉄道プロジェクト委員会は15の駅舎と11のデポ設置。最高速度は時速190キロ、貨物は120キロ以下と提案。若干ずれがあるようです。
かつてフランス植民地時代には、フランスが敷き設した鉄路がミトーまであり、収奪した産品を本国へ運んでいた。2000年台初頭までこの古い線路の跡は残されていたが、その後完全に撤去されています。またもや形を変えて中国の言いなりになるのか。190キロ走行で1435㎜軌道は大丈夫か。
交通運輸省は鉄道プロジェクト委員会を投資主体とし、実現可能性調査報告書作成と、地方政府と協力して各駅の設置位置、通貨ルートを検討する様に指示。
大規模かつ高度な技術が要求されるので、慎重で包括的な省さの実施、資源の配分と客観的で科学的評価をする必要があるとした。これはベトナムにはこれらに関する技術やノウハウは無いけれど、簡単にCT側のやり方を飲まないぞ、という矜持と反発の表れとみるのだが、当然のことです。

合弁会社とは、CTグループが中国道路橋公司、中国電力公司と協力して新たに投資合弁会社を設立。世界的な金融機関からもプロジェクトへの金融支援を受けることを予定しているとあるけれど、結局は自己資金が無いだけの話です。
このCTグループの計画は、ベトナムのチョン書記長が訪中した際に明らかにしているけれど、習主席の肝いりであると伺えるのです。これには抗えないが、むしろチョン書記長は渡りに鉄道、乗り気満々であったに違いありません。
CTとしてはメコンデルタ各省の経済を同時に発展させるため、TODモデル(公共交通機関と連携した都市計画)とやらに従い、計画する12駅の周辺に都市を開発すると提案してくるという。だが、もちろんの事、この計画は単にベトナムに寄り添ったものでは無く、自己利益のためであって、メコン地域が一層発展する可能性はあるとしても、投資の回収を早める手段でしかないのに相違ありません。一説には鉄道建設に拠って50年掛かる回収が25年に短縮されるとあるがあくまでも計算上のこと。過去の例から当てにしてはいけない。
また路線の敷き設は中国へメコンデルタの産物を輸出するという名目であり、ビジネスと言う側面からみれば、CTグループはその輸送の手段を自己の利益のため、あるいは中国の利益に上手に組み入れていることが透けて見えます。
メコン新路線敷設はこのための露払いであり、本当の狙いは中国にとって穀倉であり、魅力がある多くの南国の果実に加えて水産物・加工品なのは確かです。
では、このTODモデルは、どういう考えで進める積りなのか。
計画では地元の特徴を採り入れた現代的デザインだとあるけれど、これまでのラオスやインドネシアで中国が建設した鉄道を見れば分かるが何処が現代的?思い切り中国っぽさの域を出ない建物でしかない。半径500mに商業施設と住宅街、工業地帯?が建設され、10キロ圏内にグリーン構想に基づいた物流拠点とハイテク農業施設を建設する画を描いている。
しかし此の建設にしても協力企業が担当することになるであろうし、また何れの国でも問題となっているのが、技術者どころかワーカーまで中国から押し駆けるに違いありません。この下心がまる見えで誰がために鐘が鳴るのか。
もとろんベトナムもこれまでの経緯を知らない訳では無かろうが、しかし乍らメコンデルタ発展には金が無い。背に腹は代えられず、親分の意向が何処まで忖度されるのか注視しなければ足許を掬われる。
またこうした状況に、メコンデルタ出身の元国家主席のサン氏、この路線での新駅はないけれどカマウ出身の元首相ズン氏はどの様に考えているのか。八手を期待するどころか、さぞかし苦虫を噛んでいる?に違いありません。

CTは2024年までにプロジェクトの実現可能性の調査を完了するとしており何とも手際の良いこと。この年には投資準備と案件承認を完了させるとあるけれど、まるで予めベトナム政府の暗黙の了解があり、作って置いた筋書通り、狙い撃ち通りの戦略を感じさせ、気味が悪い。後味も悪くなる。
また2032年までに完成させるというようだが、このため資源を投入することに自信がありそう。さらに早過ぎる用地買収。2025年から始め2026年には終了。2027年から建設工事に着手して、人材育成を行うシナリオ。
鉄道後進国の中国が、各国の鉄道技術を真似して進化させたが、今度はこれを武器に丸ごとインフラ輸出。これまでは東欧から車輛を輸入していたけれど、この後は在来線も中国に代わり、列車は国境を超える可能性も出てきた。
建設されると、南部経済の重要拠点とメコンデルタ経済圏間を繋ぐことになり、発展に寄与し競争力の向上が見込める。また生産地から消費市場への商品供給をトラックから変わることで大量輸送が可能になる。2035年までには年間延べ1640万人の旅客と1910万トンの貨物輸送が実現すると予測。さらに2050年には4200万人、3100万トンの貨物量となる試算がある。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生