今年の起業実態をみる

2024年7月20日(土)

計画投資省に拠れば、今年1月~5月の企業の撤退数は97,300社に上るという。これは前年同期比で10,5%の増加となっており、月平均となれば撤退企業数19,500社となります。同じくこの期間に新規もしくは営業を再開した月平均の企業数は19,800社なので、この差は僅かに300社しかないという有様。即ち前回の記事の通り、新規に起業はするけれど、撤退するのも多いという事実が浮かび上がってきたのです。
これに関して同省・国民経済総局のタム局長に拠ると、企業は今以って市場、資本、法令という3つの大きな問題に直面しているという。一部の規定、行政手続き、技術規格、事業開始条件は依然として煩雑であり企業の負担となっている。しかしこれに付いて一部の省庁、地方行政機関は企業の実態を把握していないとし、企業に負担を与えていることに気付いていないと述べています。
市場に付いて課題は何かといえば、一つに国内消費のことで今年これまでの5カ月間は消費が順調に増加したけれど、一年を通して見れば低迷するとみているのです。輸出が伸びているのは明るい材料だとするのだが、世界市場を見るとロシアのウクライナ侵攻で低迷、競争圧力が増加、またアンチダンピング税の適用リスクがあり、新たな関税障壁など様々な不安要素があるとします。
また法的規制に関して大臣は、土地、法律、検査などの手続きに問題がある事を認めた。国内の大都市には数十年に渡る未解決の大規模プロジェクトがあり、この数は数百件で、このボトルネックを取り除けば社会と経済の発展に大きな原動力となるとしている。
特に不動産業で起業の障壁を取り除く必要がある。さらに経済的にはグリーンエコノミー、デジタル経済の普及、シェア経済、循環経済の認識を高める必要性を指摘しているという。これに拠って新たな経済活動が生れる機会を利用し、経済をより早く安定的に成長させる事が可能となるとの見解を出している。

如何にも国内消費と世界の問題から来る市場の減速感を指摘。法的手続き問題にも触れているが、これに関しては国内企業だけでなく、外資系企業も同じく法律に定められた期間に関係なく、恣意的に遅れた許認可で操業が著しく遅れている実情がある。
さらに不動産に関しては、国が無策に殆んど等しいことが金融にまで悪影響を及ぼし、不動産関連不況が起きている。これは社会主義国の土地公有制、即ち私的所有は出来ないとなっているが、実際には自由に使用権が売買されており、一部の富裕層が利益に与る形式的なマネーゲームの様なもの。大手開発企業と地方自治体に拠ってほぼ好き勝手にされ放題の結果、様々な事件が起きている。
一度目のバブルに懲りず、その経験を生かした政策がなされなかった事に原因があり、一部の業者に偏った結果、あり得ないくらいに急上昇した土地価格。金融機関にも飛び火し、銀行の上層部が犯罪を引き起こす切掛けを作ったとも考えられます。こうした所に経営者のモラルが疑われ、理念も行動規範もない状態で経営者は殆んど私利私欲で動き、企業を社会の公器だとも考えないで、単なる個人商店思考しかできない未熟さ。親の姿を見て子(社員)も真似る。
計画投資省のお偉方は、国内経済を発展させるため、高度な事業レベルの話をしているが、本来これ等は国が方向性を主導して施策として決めるべきもの。要は絶対的多数の小規模起業者にとって意味のない難しい話であり、前回に書いた通り、起業した人の多くは経営観が無く事業経験も浅く会社を作っただけで満足。さしたる能力などなく専門知識、実務経験が乏しいのに、これまでと違って大きな椅子に座っていることがステイタスと勘違いしているだけの話で、これは筆者のビジネスパートナーの実際の姿です。

ズン大臣は、企業は政府の支援を必要としているとしたのだが、これには実例として地場企業が外資系企業のチェーン傘下に参入したいと考えているにも拘わらず、思うように進んでいないという実態をあげています。
ここぞとばかり中国からの製造拠点の移転を持て囃した外資関係者にも責任はあるのだが、地場企業は大した恩恵を受けず、外資企業の技術に対応できないとか、サプライチェーンの新規参入に苦戦しているのが事実だとしている。
さらにこの一方で一般向け消費市場では安価で大量に販売される中国製品との競争に喘いでいる。EVにしても安価な小型車が輸入されており圧倒的な戦略と豊富な資金力、価格差で太刀打ちが出来ない例もある。品質の低さ、原材料の多くが中国から輸入している実態が絶対的な力負けを生じさせている要因。
この所、中国企業のベトナム進出が急速に増加している背景を考えると、閣僚クラスが訪中して相互の経済協力を約束しても、ベトナムから中国への投資や進出、輸入が増えることは無く、こうした状況は進む可能性が高く、ベトナム経済は中国資本に大きく組み込まれて行くものではないかと懸念されます。
大臣は企業が成長するために、政府の見えざる手が重要であり、実践的で生活により密着した政策でなければならないとしている。
政府は外資系企業で製造を担当し、この過程と技術を修得した人を起業させる必要があるとし、この様な人材をサプライチェーンに投入するべきと唱える。
さらにノウハウや技術、特許を保有した海外企業を買収、提携する方法も考えられるとするが応じる海外企業などあり得ない妄想。自主路線を放棄しており人材が居なく、教育機関や研究施設が殆んど無いとの証明。それ以上にM&Aが多く、地場企業に経営者が安易な道を選ぶ意識を何とかするのが先です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生