・ベトナムは2045年までに計画的な成長率を維持しなければならない
ファム・ミン・チンベトナム首相は、ベトナムが中所得国の罠から脱出するため日本、韓国、中国の過去の例を見習い2045年までに、高度で持続可能な経済成長を維持する必要があると語ったと、現地報が報じています。
この成長目標の達成について、国内経済規模、一人当たりの所得、世界経済のランキングが重要で、今から2045年までに高い経済成長を維持するため、党、政府、国会がこれ等に同意しているとし、行動を起こす必要があるとした。
国会は今年の経済成長の目標を8%以上とし、GDPを5000億ドル以上とすることを承認したとある。
中所得国の罠とは、国民一人当たりの年間平均所得が4000~6000ドルのレベルになったとき発生すると言われる。多くは経済発展を始めた時点での利点と労働市場の低迷、資源への依存に拠るとされるが、昨年4700ドルを超えたので該当するけれど、どうやら既に罠に嵌って藻掻いている状況にある。
またこれまでの経済改革でベトナムは平均6,4%の成長を遂げて来たけれど、これからは2045年までに高い成長を達成する必要がある。だがマクロ経済の安定とインフレの抑制、社会福祉を進めなければならない、ともしている。
首相は経済発展を実現するために、社会の発展を止めてはならないし、国民の公平性とか環境を破壊するのは良くないとし、投資効率の向上と公共投資資本の支出増加を重要とする。このため各省庁、地方行政機関へ制度的、技術的、人的資源を動員することを求め、行政改革と投資手続き迅速化、ビジネス環境の整備と障壁を除去するべきとしているが、末端の動きは緩慢で旧態のまま。
特にハイテク産業案件について政策や特別なメカニズム、画期的な規制を実施しなければならない。さらに時代遅れの制度、重複や不完全な規制の見直しと改善を提案。公共投資、即ちインフラ整備に焦点を当て最優先事項とすること。
しかし技術やシステムに資金の国内調達、また規制緩和が可能と言えば難しい。
今年は小売りとサービスの収益を少なくても12%増加させ、国内消費を刺激し国内観光を促進させるため税制改革と政策を策定することが必要だとする。外国人観光客を2200万~2300万人、国内の観光客は1億2000万~1億3000万人にするために魅力ある観光地作りを行うこと。これまで締結された諸外国との自由貿易協定から得られる機会を効果的に活用、特に海外のトップレベル専門家や海外に在住するベトナム人の科学研究とイノベーションに取り組む有利な条件を創り出す必要があると述べています。
流石にマトモで筋の通ったことを言っているが、果たして盛沢山な案件が順調に推移して実現、バラ色の未来を迎えるか、消化不良で白昼夢で終わるのか。
・日本企業への呼びかけとは
首相は3月1日にハノイで開催された日本企業と会談する機会で、日本企業に対してベトナムの信頼と関与の深化を継続、ベトナムを投資、生産、事業活動を拡大するための戦略的拠点と位置付けるように呼び掛けたとある。
だがこれは、同日に開催された中国企業との会合でもハイレベルな合意を具体的な行動を通じて実現する様に努力し成果をもたらすべきと促したし、さらに同日にアメリカ企業との円卓会議でも、ベトナムがアメリカ経済界に対して強く明確なコミットメントを表明。ベトナムがアメリカ企業に保証できる三つの側面を強調したとある位、相手かまわず見境が無い動きとも捉えられます。
COVID‐19で中国からサプライチェーンが移動するという事態になったけれどこの所の中国の経済政治の動きからみて、生産拠点を移転する動きが出て来ているが、さらに中国企業自体がベトナムへ急激に進出、公共インフラへの投資を増やしているなか、難しい舵取りになるのではと思えてきます。
同じ日に日中米三国の経済界の代表団に面会して精力的にベトナムへの投資を促進する様に呼びかけ、その為にベトナムが用意するとしたメリットを話したようだが、今世界各国がアメリカのトランプの言動に振り回され、ともすればベトナムも輸出と貿易赤字の莫大な格差を持ち出され、経済と社会に影響するのではないかとの恐れが背景にあると感じます。トランプがベトナムに対して何らかのイチャモンを出せばひとたまりもない。それほど海外企業への依存度が高いままに流され、何の自主的な政策を持たずに来たのがここにきて慌てたけれど、それでも海外に依存するという方針に変わりはないように思える。
否これしか現状では発展継続への道など無い訳です。
また先に述べたチン首相に拠る2025年までにベトナムが成長を維持して、中所得国からの罠を極力避けるためにはかなりの努力が必要だが、ベトナムの社会、企業が自力で成し遂げることに関しては全く自信が無い。これから20年掛っても自国の企業で開発できる技術や研究が世界の進化、先端技術レベルが同水準になること自体不可能との認識があるのだと考えます。従ってこれ等の先進国の経済界・企業の投資や支援を得なければ到底実現できるものではないとの考えが、これら企業との会談ではっきり具現化したとも思えるのです。
即ち他人のフンドシで相撲を取る訳で、何時まで経っても外資頼みの姿勢に変わりがなく、自国での教育を改革し企業の能力やR&Dを積極的に政府が支援、僅かでも自助努力で経済成長を得るとする政策を明らかにしないのはその表れ。
さらにこれまで全方位外交を行なってきたけれど、ここ何年かの動きの中で、明らかに中国寄りの親密な姿勢をとって来たけれど、忖度とまではいかないにしろトランプのこの先、対中国への方針についてどのような評価をするのか、実に頭が痛い所だが、怒らせて弁慶の脛を蹴られないようにする必要がある。
さて日本企業への呼びかけとは、即ちラブコール。毎年という位に首相が来日。
何らかの資金に技術を日本から引き出してきて、この国ほどベトナムに都合がよくて贔屓にしてくれるところは少ない。日本企業もまた大きな問題を起さず、ベトナム人スタッフとも上手くやっているし、進出時は赤字続きだがそれでもベトナムの将来性を買ってくれ、追加投資に事業拡大を今後1~2年で考える企業が約56%とアセアンで最も多いが、これは日本企業がベトナムを有望な投資先として考えていることを示していると首相は述べている。
という事で、チン首相は過去52年間の越日の関係と協力、成長を強調したという。これはアジアと世界平和と繁栄に重要で、包括的なパートナーシップの確立であるとする持ち上げる訳です。二国間の貿易投資と協力は引き続き重要な役割を果たすとしている。
日本はODA・政府開発援助と労働協力では最大の貢献をしており、世界3位の投資国という重要な経済パートナーと話すが、何処の国にもリップサービスは何か良い点を話すもの。 ODAは200億ドル以上の借款と7億5千万ドルの返済免除、13億4千万ドルの技術協力をしているので親日は当然。日本は金の成る木、何とかなると思っている。
だが日本企業はこれまでの進出で様々な問題事項が山積。一向に改善する気配がない事から、この会合で首相に要求したのは、行政での許認可の合理化と、意思決定の迅速化、法的枠組みの改善に輸出する際の賄賂の撤廃などです。
取り分け主なインフラ案件のボトルネックの早急な解決を求め、HCM市での地下鉄1号線やギソン製油所で起きている様々でかつ重大な約束の履行などが出来ない状況という問題の解決を強調したのだが、裁判沙汰に発展した行政の怠慢にもはや堪忍袋の緒が切れたほど動きが鈍く、稚拙で適当な行動レベルにこれまで耐えて来た鬱憤をぶちかましたのは当然の成り行き。
首相はこうした懸念事項を認め、地下鉄での問題をさっそく可決する様に指示したけれど、国内の政治制度とか組織の機構など合理化への取り組みを行ない、企業へは最高のサービスを行い高い、効率を目指していると保証するとした。だが、政府と地方行政府との認識の差や、通達を無視する傾向に大きな変化がない限り、こうした約束は首相であっても空手形に終わってしまうと思われるベトナム政府は日本のイノベーション支援を望んでおり、外国投資を積極的に誘致し、品質改善、効率性、技術革新と進歩、環境保護を優先する事業案件を行ないたいとする政策を述べたという。また部品供給の強化、思う程で進展がない裾野産業の発展、熟練労働力の育成に協力を求め、グリーン、デジタル、循環型経済の知識と科学技術、イノベーション、電子部品、EV、半導体、再生エネルギーに水素、金融、バイテクにヘルスケア、ハイテク農業などこれでもかという案件への投資を歓迎すると表明したのには恐れ入り屋の鬼子母神。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生