石破首相が4月27日に訪越。ハノイでラム書記長と面会して1時間半会談。アメリカの関税措置や、中国の報復措置が世界に与える影響について議論した。
また石破首相はベトナム側と緊密に意思疎通を図る意向を示したとあります。
28日にはチン首相と首相府で会談。チン首相から日本は最重要かつ長期的なパートナーとして位置付けており、地域の平和と安定の維持に寄与して欲しい、と呼びかけた。これに対し石破首相は、自由で開かれたインド太平洋の実現、日越関係の強化に努めて行きたい、と応じたとしている。
両氏は外務防衛当局の次官級協議2+2を創設、初会合を日本で開く事で合意したが、これは中国の領海問題を念頭に置いている。安保分野では防衛装備品の無償供与を日本が行うことに関しベトナムは積極的に検討するとのみ回答。
経済分野では自由で開かれた国際秩序、多角的自由貿易協定の維持・強化に向けて連携することで一致した。と各メディアには書かれています。
さらにベトナムの半導体人材の育成に日本が協力して推進、脱炭素化とAI、DX、量子技術、宇宙開発分野、防災等々で協力を進める。実習生や特定技能については、年内に育成就労制度に関する覚書の作成を目指すことで一致した。
概ねこのような内容で各社が報じているが、具体的、詳細であるべき事項には触れていないのです。評論家などの如何にもこの大事な時期に海外へ行って、成果があったような論調など戴けない。今回ラム書記長とチン首相が食事会を開催したのは異例とヨイショしているが、腹の内はどんな魂胆があるだろうか。
これに対してベトナム側は国営ベトナムの声放送(VOV5)ではごく簡単に、27日午後、日本の石破首相夫妻率いる日本政府の代表団がハノイに到着した。
今回の訪問は、ファム・ミン・チン首相の招きに応じて28日までの日程で行われます。と日本向けにネット上で報じているだけです。
また別の現地紙にはベトナム駐在伊藤直樹大使は、石破首相の今回のベトナム訪問について、世界経済の成長エンジンであると同時に、地政学的にも極めて重要な位置にある東南アジア地域との関係強化を目的としたものであり、日本の外交政策の最優先事項のひとつである、と強調した。とのインタビュー記事を掲載しています。
中国の習近平国家主席が訪越して僅かの後、どうしても二番煎じは拭えない。それにしても日本のメディアはこぞって記事にしているが、習近平が来越してベトナム側と様々な具体的な協議を行なったのと比べて記事の掲載量が圧倒的に少なく余にもお粗末なくらい中身が薄い。如何にも悦に入っているが、なにをしようと支持率ガタ落ちの起死回生とはならず、喜劇的で可笑しくもある。
日本の各紙、各報道メディアはベトナムの現地紙が、習近平主席がどのようにベトナムと協議したのかを報じているのかさえ知らないのだろうか、と思ってしまい緊迫感が全く見えて来ない。これは当の石破首相にしても全く同じで、彼自身がベトナムの状況、置かれた立場がまるで理解できていないのです。
ベトナムは毎年主席や首相が訪日するが、この仕掛けとは一体全体何なのか。
その度に日本から多額の援助を引き出し、これまでのODA総額は世界一を占めるまでになったし、請われて大企業も進出をしてきた。いわばオネダリ外交だったのだが、今回はトランプの関税を引き合いにして首相がわざわざ訪越。これに拠って日本が主張する自由貿易が守れるのか、訳が分からず疑わしい。
さらに記事を見る範囲では相互に協議するとか、協力、連携するなどと記事にしているけれど、日本側が持ち出したITにしても、他の分野はベトナム側に技術がなく、喉から手が出るほど得たいので、まさに渡りに船だったのです。
相手から要望があったのではなく、お土産代わりで手の内を明かしたとなれば、手品師が種を明かしたのと同じこと。これではまるまるゼンジ―北京のごとく単なるエンターテイメントでしかなく、ほとんどお笑い草。
防衛装備品の無償供与にしても、日本はこれまで巡視船など引き渡してきたが、今回は「積極的に検討する」との回答。これはどういう意味なのか。領海問題を抱えるベトナムなのに、もしかして習近平への遠慮か忠誠心?解せない。
この先どうなるのかさえ分らず、すでに陰りが明らかになった黄昏状態の石破さん、ベトナムへ行く必要や意味などなく無駄の骨頂なのではと考えてしまう。
対して中国はしっかりとベトナムへの投資や企業進出を決めており、実務的に成果を出している訳で、日本は何ら美味なる果実をもぎ取ってきていません。
洋上風力や発電網整備など脱炭素事業に2兆9000億円を官民で投じる大判振る舞い。足許ガタガタ、消費税減税など政策ブレブレで、参院選挙も危ないのに農水省の不手際で米価格高騰、長年の農政無策。これをアメリカが農産物に引っ掛けて関税問題としてどう突いてくるのかなど、先に国内でやることが山ほど溜まっているのに拘わらず、外遊したから日本との親密さが深くなったなど錯覚なのか、もしくは個人的な満足感に過ぎないのです。要はベトナムにとって日本は金蔓なのだが、これを全く分かっていないほど能天気振りを発揮。
もはや20~30年前のベトナムでない。例えば貧困者が多く地方から出稼ぎに来た家族、子供たちは満足に教育を受けられないし日々の食事や衣服に困窮。そこへ日本のボランティアや篤志家が訪越の都度、沢山の物を持参したのだが、子供達は日本の文具や菓子、着古しだが綺麗な服に顔が明るくなって喜んだ。だが経済成長と共に豊かさを実感してくれば、善意を曲解して新品を要求してきた。今やそうではないけれど、彼の想いはこの当時と殆ど同じ心境なのか。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生