トランプ一族がベトナムで不動産開発を急速展開

2025年7月11日(金)

・政府訪米団が関税交渉に挑む

5月19日~22日にかけ、ベトナムの政府交渉団(団長ジエン商工省大臣)とアメリカとの関税に関する2回目の交渉が、ワシントンDCで行なわれた。
今回は双方が核心課題について率直に意見を交換したと現地紙が報じている。
交渉団には公安省、外務省、財務省、内務省、農業農村開発省、環境資源省、科学技術省、司法省、ベトナム国家銀行などからも代表者が参加するという大デレゲーションを送り込んでいるのにはタマゲタもの。
今回は基本的事項の整理と全体的方向性の確認をして共有。率直かつ建設的な雰囲気で進んでおり、各国の状況などの情報交換、協定文書の表現に関して、具体的なすり合わせが行われたとなっています。

この他にも重要なことが報じられている。商工大臣はウェスティングハウス社と会談を行い、ベトナムが安全保障の観点から、原子力発電計画を再始動することを検討しているとし、トランプに大きな手土産を渡した形となっています。
ベトナムは2基の原子力発電所建設を計画しており、現在6ヵ国を選定する準備に入ったとされている。2016年には日本とロシアに調査に基づいて始動に発展するかのように見え、中部ニントアン省が適地などとされたけれど、元々資金的に無理なのに加えて、様々な国内事情で立ち消えになってしまったままこの日の会談を迎えたことになります。

だが昨年11月に原子力発電の導入計画が再開されたとあるが、それまで密にダラットにある施設で何らかの研究をしていた。此処は湖の畔に近い所で滅多に人が来ることは無かったけれど看板だけが掛かっていました。本来マル秘事項なのだが、そうすると大した内容でなかったのかも。日本の某大学で原子力の研究をしていた人(女性)が居たと聞くが、当時大して気にも留めなかった。
表向きは電力需要の急増と再生エネルギーの不安定な状況があるからとなっているけれど、今回の大臣視察は現状を考えればこれは明らかにアメリカに対し、貿易赤字解消に寄与するためで、原子力発電建設を同社に依頼するかのような姿勢を見せたと思って間違いありません。
この会談の中で大臣は複数の有望な土地があるとまで言明。さらに大規模または小型モジュール炉の開発へ積極的に前向きに取り組んでいるとしている。
対してWH社はベトナムの計画に賛同(当たり前だが)、今後ペトロベトナム社との間で原子力発電に対する思え書を締結する方針を確約し、今後のインフラ整備、技術移転、人材育成に協力を強化するとしたのです。

・トランプ ベトナムで本領発揮か

そんなところにトランプ一族が、ベトナムでお得意の不動産事業を初めて行なうというニュース。さらに政府の認可も素早く下りて、起工式には駐ベトナム米大使、トランプ氏の子息でこの会社の副社長でもあるエリック氏、ベトナム政府からはチン首相までが参加したと云うのだから、政府肝いりと踏まれても仕方がありません。これ等は現地の有力紙に詳細記事が掲載されているので、何をか言わんや、です。また外信として日本のメディアにも配信されており、概要をご存じの方は多いのではと思える。

現地の報道に拠ると、フンイエン省での開発状況は次の通りとなっています。
まさに第二回目の関税の交渉を行っている21日、ハノイ郊外で総工費15億ドル規模の高級住宅地の起工式を行ったとある。
総面積990ヘクタール。53ホールの世界で最も権威があるとするトランプブランドのVIPゴルフコース、高級リゾートを備えたという贅沢な都市複合物件で、計画している居住人口は5700人。
また緑地とテーマパークと商業エリア、社会住宅エリアには29700人が住むと報じられています。
これはトランプ一族が運営するというトランプ・オーガ二ゼーションと、地元パートナー企業・キンバックシティーグループのJV。トランププロジェクトはベトナム初どころかアジア初。VIPゴルフ場付なんてまさにトランプ好みで、もしかして余生を此処でゴルフ三昧なんて余計な興味を抱いてしまいます。

このキンバックグループは工業団地開発の大手だが、1995年に設立されたHCM市の私立大学フンブーン大学を傘下に入れている。最近の現地記事には出資比率を51,8%引き上げて子会社化?したとある。

*余談だが筆者の記憶では2000年位にHCM市の最大のドン・ユー日本語学校の創始者でもあるホエ校長に面会した時、この大学で会ったのです。同校はホエさんが京大・東大を出て帰国。市の吏員になったが辞職して1991年に開校。日本の大学や語学学校とも交友・交流が深く、これまで多くの日本人教師が教えていました。しかし大学設立に関わったけれど沙汰闇になり、この大学は爾後内紛が続いたとある。そこに支援を買って出たのがこの会社という。

さて首相はこの開発に付いて、ベトナムとアメリカの関係をより深く実質的に効果的にする重要な意義がある。2027年までの工期内に完了する様に最大限の支援と調整を行うように地元当局に求めた(即ち指示)とあります。
まるで祟り目にあったとまでは言わないが、もはやトランプに忖度した曰つきとされても仕方がない。時期が時期だけにやむを得ないけれど、これが海外の大手であったとしても此処まで優遇しないであろうとは容易に推測できます。
エリック氏はご満悦の様子で、これから同社がベトナムで開発する事業案件はアジア全体、全世界からも羨望の的になるだろうと述べ、今後頻繁にベトナムに足を運ぶとした。おまけにベトナムはアメリカにとって、ナイキ、インテル、アップル、ボーイング、エヌヴィデアなど大企業などの投資家に魅力的な地であると賞賛。フンイエン省には雇用を創出、近代的な発展と技術を進歩させるとした。現場の者にとっては嬉しくないが、此の所トランプ氏の評判は余り芳しくはなく、関税にしても大統領の職権逸脱とまで裁判所が命ずるほどなので、もしかすれば逃げ場所を作っているのではないかと邪推してしまう。

しかしこれだけに終わったのではありません。南部でも食指を動かしており、エリック氏は、起工式の翌日である5月22日にHCM市に飛んで、HCM市人民委員会を訪問してドゥック委員長とホアン副委員長と会議を開催した。
すでに3月にも市の幹部と会談しており、拙速というか、HCM市のホアン副委員長は早速ベトナムのトランプ・タワー建設の開発候補があると、エリック氏を一区のサイゴン川対岸にあるトゥーティエム地区まで視察に連れて行ったとまで記事にあります。
話に拠ればベトナムのトランプ・タワーは60階建てとか。また建設に要する費用は10億ドルとある。

かつてこの辺りは中部からHCM市に来た人が移り住んだ地域で、決して豊かではなかったけれどのんびりとした地域。食べ物は安くて旨いので、当時川を渡る手段はフェリーしかなかったが食べに行ったことがある。またストリートチルドレンを受け入れ教育する施設があったが所だし、メコンに時間的余裕がなく行けない観光客は、この周辺は同じジャングル地帯だったので半日ツアーをしたのです。また戦争中だが日本の新聞記者が此処は夜になるとベトコンが出没する怖い地域だと著書で述べていました。実際にホテルに滞在していたにも関わらず、日経記者が流れ弾に当たって亡くなっている不穏な地域だった。

ところがトンネルが開通して便利になった事もあり、急速に不動産開発が行われて様相が一変している地域でもあって、懐かしい昔の面影はもうありません。
この案件にもキンバックは、サイゴンインベストメント・グループが事業推進に関与しているが、もはやアメリカの代理人にでもなったのか。

しかし、実はトランプ氏自身が大統領に勝利する前の2024年9月には、北のフンイエン省開発プロジェクトと同じくして、この南部のHCM市への投資について強い関心を持っていたとする報道もあります。
飛ぶ鳥を落とす勢いだが、何かしら陰りも見え隠れしているトランプ氏の現状。
果たしてこのベトナムでのプロジェクトが問題なく進行、無事に完了を迎えることが出来るのかは疑問でしかありません。
また一方では中国がベトナムへの関与、中国企業が進出を加速している現状があり、其処に殴り込みをかける様な形での不動産開発に、アメリカ企業の進出も急速に始まった感があります。
こうなると、睨み合っている米中がベトナムとい第三国で何らかの対立を生むマイナスの可能性は無いのだろうか。
間に挟まれたベトナム政府と一般国民。冷戦時代とはまた違った苦渋の闇黒の時代に戻るのだろうか。日本を始めとして韓国、台湾など、これまでベトナムに多額のODAの供与とか投資、支援、企業進出を行なってきた訳だが、先行きの見通しがどうなるのか、全く分かりません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生