ベトナムは2026年12月までに南北高速鉄道の建設を開始する予定となっています。4月に発表された政府決議では、2026年11月までに請負業者を選定。この工事費の予定は670億ドルとなっている。
同年8月までに建設省は包括的実現可能報告書を含む必要な手続きをまとめ、翌月首相が最終承認する運びとなっているのだが、何とも拙速的な話です。
以前にも概要を記したが、計画では全長1541キロメートル、円滑な工事が進むように必要な用地を確保するため、通過する20の省・市はベトナム電力とともに2026年12月までにすべてを完了するように指示されたとある。
建設省が鉄道の建設と設備関係を担当、2035年に完成するとあるけれど、鉄道建設工事、車両製造、運転システムなど、どれをとっても技術にノウハウがこの国にある訳など無い。地下鉄を建設するに際しても中国、日本に資金も含めて全て丸投げ状態。とどのつまり資金難、既に営業運転を行っているが、日本企業からHCM市地下鉄運営会社を相手取り未払請求の裁判を起こされた。
この様な不名誉かつ国際的に信用を落とすことを平気でやってのけるのが実態。
新幹線は日本が建設するため調査を行なったことがあるけれど、国会では多数決で否決されており、その理由は、国会議員だけでなく一般国民にしても無駄ではないかとの意見が大半。しかも資金調達の目途さえ立たない状況だし、仮に稼働しても経費を賄えるだけの乗客がいるのかなど、問題を未整理のままに「見切り発車」しようと焦ったのが間違いです。
さて何故急に降って湧いたようにこの話が再燃したのか。これは昨年、今年と二回に渡って習近平が訪越し、ベトナムへの投資や企業進出などに関して協議。
元々はトランプが撒いたタネでもあるけれど、恐らく鉄道インフラ整備と物流について要求したのではないかと考えられます。これは習近平が帰国後に地元経済紙に掲載された首相の建設に関する指示。また中国のデジタル紙には中国企業が有利という記事を出しており、おまけに日本などの競合があっても勝てる様な素振りを見せおり「ほぼ決まり」を如何に筋書通りに演出するだけ。
となれば資金調達は?と必ず大問題が出て来るけれど、これも既に双方で秘密裏に合意が出来ているから、と識者がみれば疑念は拭えません。
こうなると公平さなど一切考えられない。益々政権中枢が中国寄りの姿勢を出してきただけで、これなど解放記念日に中国から軍がパレードに参加してことでも証明できるほど緊密になりかけていると思わざるを得ないのです。
増々中国に良いよう振り回され、インフラを牛耳られる、こんな気がする。
・中国企業がベトナム高速鉄道建設を希望
現地発の記事。3月14日に、ベトナムのチャン・ホン・ハ副首相は中国鉄路建設公司(CCECC)の陳総経理を招いてレセプションを開催したとある。
この席で副首相は、ベトナムの党と国家が特定したように、近代的で高速鉄道の開発は国家の戦略的課題であり、最優先事項と強調。ベトナムと中国は包括的戦略的パートナーシップの枠組みの中で、両国を結ぶ国境を越えたルートを含む近代的な高速鉄道網を開発。強い政治的意思を反映して両国の党と国家の指導者に拠って課題の上位に於いていると説明したと、記事にあります。
だがこれは副首相が簡単に言える話ではありません。事前に上からシナリオを渡されているとしか思えず、首相や書記長が出てきては後々示しが付かない。または日本やドイツなど先進鉄道国への仁義なのか、お笑いの茶番劇でしかありません。
ベトナムは中国のCCECCを含む中国企業がベトナム企業と積極的に協力し、高速鉄道への投資と建設を行う際、技術、品質、コスト効率面で競争力を向上させることを歓迎すると、持ち上げている。またこうした技術を中国から学ぶ熱望している、ベトナムのパートナーにその技術を移転し、鉄道技術を習得したい、と愚かにも何の技術もない未熟さ、手の内を暴露しているのです。
さらに中国とベトナムの企業間で緊密な協力の重要さを指摘し、両国の友好に長期的な投資ビジョンを採用、相互利益の追求をCCECCに呼びかけ、ベトナムのエコシステムに貢献するよう伝えたとあるが、どう見ても相手が数枚上。
もはや本決まり、だがしっかりと技術やシステムは下さいねとも言っている。日本が与太話にまともに乗る道理など一切ありません。
中国の公共技術建設公司は、二国間での貿易を促進するプロジェクトを含め、高速鉄道建設への強い関心を示しているという。
陳氏はまたCCECCが中国国内、海外で多数の高速鉄道プロジェクトを実施してきたと述べ、選ばれた場合、高技術水準、厳格な品質管理、スケジュール通り納品を確約したという。副首相の言に対して緊密に協力して技術を共有、移転と共同開発、ベトナムの鉄道における持続可能な開発に貢献すると応えたとある。どこ迄いい加減。日本の技術をすっかり取り切ったが、未だ車輛製造に関しては部品を日本から輸入しなければ出来ない。こんな事実を抜きにして、言いたい放題。事故が明るみにされるのを恐れて車両を埋めてしまい事故原因究明をしなかったなんて、誰もが先刻承知なのだが口を避けても言えない。
あれだけ高速鉄道網を造りながら実態は赤字なんて話も出ているけれど、これを赤子の手を捻じる様にしてまで、儲けようという企みが隠されている。
こんな子供だましの節操のなさを日本企業は分かっているのか?
・ファム・ニャット・ブン氏が高速鉄道などに出資するとか 思惑はなに?
この様な状況になり、Vinグループ創始者でVinSpeedなる企業のオーナーでもあるブン氏は、南北高速鉄道が動き出したことを受けて資金の20%を拠出するとしたのです。670億ドルの20%とは約122億ドルだが、こんな金が何処に在るのか。ただでさえ自動車を造っても赤字が嵩む一方だし、EV車に方向転換したところ、トランプのエネルギー政策で風向きがどう変わるのか全く分からない。頼みとするのは不動産部門だけで、儲けの出ない小売業など資金調達のために仲の良い企業に売ってしまった。本当に商才はあるのか?
これをどのように判断するのかだが、彼の計画には鉄道部門を充実させることが盛り込まれているのです。即ちVinグループの利益に繋がるという野望を持っていて、グループ企業であるVinHomesと提携、鉄道建設に力を入れそこに駅を造ることで住宅開発を行なうという仕掛けです。これは阪急の小林一三は鉄道の利益を上げるため沿線の開発を進め、住宅地を造りまた宝塚歌劇団を造るとか、阪急百貨店を駅ターミナルに直結したアイデアマン。この反対で先に鉄道ありきの話。手を広げ過ぎて利益追求、そこに理念などあるとは思えない。
記事には日本、中国、ドイツの主要な企業と交渉しており、電車や信号などのシステムの技術移転と国内生産を目指しているとある。だが何十年も掛かって作り上げて来た技術にノウハウなどそう易々と出せるものではない。余りにもいい加減、甘い考えでしかない。こういう状況は自動車生産にも明確に表れていて、国産車生産と言うけれど自国技術で作ったモノなどひとつもないオカラ。
欧米から韓国、中国に至るまで部品の寄せ集めに、設計やデザインまで外国に依存している。このやり方を踏襲するだけ。ふざけるのもいい加減にしろと、言いたくなる。EV車が売れているのは系列のタクシー会社や、一般では政府の補助金があるからで、実際に現地で購入した日系企業の日本人現法社長が乗った実感では殆ど張りぼてと厳しい。歴史と経験が無く、系列に物作り企業が無いうえに、また研究施設も海外に造ったけれど自国で造らなかった理由とは何か。はっきり言えば自信がないからだけのこと。他国企業を利用した、要は他人の褌で相撲を取ってきただけで手元には何もない。図に乗ってはいけない。
さらにHCM市の地下鉄建設に付いて7区とカンザーを結ぶ路線に40億ドル全額を負担すると市に提案した。ベトナム最大の民間企業になったいま、営業許可を得る為に資金を出すとあるが、官民で協力して銀行、債券や株式の発行で調達するとか。カンザー地区はHCM市の南端部、此処にVinグループの開発する2900Hrの開発地があり、将来人口が23万人になるという計画。
どのような匙加減が効いたのか。首相は民間が出るべきだなんてことを言っていると伝わるが、これまで表には出てこないインサイダーで作ってきたと云うのが定説。どこまで行くのか、牛耳ろうとするのか、潰されるかが見物です。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生