ベトナムの不動産上半期の概要

2021年11月11日(木)

COVID-19禍でも外資系企業の進出は続いている。現地法人が設立されて、経営や管理のため事務所を借り、本国から赴任する人達の住居を用意する。工場が建設されワーカーやスタッフが必要になる。すると地方から仕事を求めて若者の流入が相次ぎ、この人達はやがて定住し家族を持つ。そうなれば広い所に転居。この循環が繰り返されています。
また都市部での人口集中は高等教育機関にも及び地方から優秀な学生が集まる。こうした人は故郷にその能力を生かせる場が少ないため、卒業後は居残り大企業や外資系企業に職を得ます。この構図は日本と変わっていません。
外国人が住むための設備や仕様で建設されたアパートがHCM市やハノイ、その周辺の省・市にも造られ、なかには法律の改正で外国人も条件があるけれど購入できるようになったので、アパートなどを購入した人も居らっしゃいます。こうした高級アパートは当初、外国人向けの賃貸やサービスアパートが多かったけれど、ベトナム人の所得が増えてきたため日本を始め韓国、シンガポール等のデベロッパーが進出して質の高い住宅を分譲。これがまた現地の富裕層を中心にして人気があり次々に完売しています。
こうして所得の高いベトナム人がこの様な高級と言われる住宅を確保して次世代に受け継がれて行きます。私が住んでいたアパートを購入した方は、夫婦共に地方の出身者で有名大学卒。外資企業に在籍、子供2人の4人構成で全員が英語を話す教育熱心な家族。TVドラマそのまま、他人が羨む典型的なハイレベル層。
市域はどんどん拡大しHCM市やハノイ市はこのため地下鉄網が整備中。駅ターミナルを起点として、其処からバス便という都市計画がこのところ論議されています。これは当然の成り行きで、日本などは東京・大阪などの都市の交通インフラ事情を観れば良く解る。こうしてどんどん都市整備が加速、空港とも直結して名実ともに近代的都市が出来上がり、5年も経てば街はすっかり変貌している。
並行してスマートシティー開発が各地各所で行われており、これは海外資本とのJVでそのノウハウと資金を得てと言うのがこの国のシナリオ。だが徐々に段階を追って進展してきたと言うのではなく、如何にも性急な事業がこの不動産開発でも行われています。
点と点が集まり、やがて面へと過去の流れを20年見てきました。さらにHCM市を例にすればほぼ同心円状に拡大してゆく市域だが、どこの世界とも共通するのは土地価格がこれに比して上昇していること。また段階ごとに住宅性能も良くなってきている状況もみえて来る。
ビンユン省では東急が開発する新都市から、HCM市へとモノレールを建設する計画があったほどだが、これは費用や用地確保から見て常識的にできる可能性など無く頓挫してバス便に変更した。東京で田園都市線を延長して住宅地開発を成功させた夢の続きをもう一度は通用しませんでした。現地事情を充分理解せずして理想先行というだけの話。
無理すればヤケドするのは目に見えています。

・COVID19第4波で感染拡大が原因 不動産価格は低迷~下落

うなぎ登りであった不動産価格。もはや一般の人がいくら頑張っても買える値段ではなくなり、HCM市当局はこれ以上人が増えれば市の行政が機能しなくなるとし、アパート建設を事実上押えるため建設許可を出さない事態が起きていました。このため上半期の販売数は低迷。取引数はわずかに1400戸と前年同期との比較で36%減少。販売率は37%と前年同時期10%の減少でした。
また戸建ては上期・第2四半期の統計ではたった173戸という少なさ。反対に近隣のロンアン、ビンユン、ドンナイ、バーリアブンタウの各省で合計2913区画の住宅地が供給され、価格はいずれも最高額を示していると言う。
地域差にもよるが1㎡当り平均土地価格はロンアン省で約20万円、ビンユン省では約12万円、ドンナイ省では21万円、少々離れたB・ブンタウ省でも約6万円と、とんでもない状況にある(HCM市ではゼロ供給)。
一つに銀行の住宅貸出金利が低くなり、6年ぶりに低水準になったのが要因で、年率9,2~9,5%とされるが、こんな物件誰が買える。
日本のバブル期と異常さと動きはよく似ているが、明らかに金を持つ富裕層にとって有利に運用できる状態。政府の政策の誤りでしかありません。

取り分けこの4波で顕著になっているのは外国人の入国制限の厳しさ。そしてワクチン接種の遅れが感染者の急拡大を招き、外資系企業では社員を帰国させるという事態になり、空室の増加に繋がる。こうなればベトナム人への賃貸にと変えざるを得ず、賃料は低くなってきているのです。
この結果、賃貸市場は下落する。これまで何とか維持できたが今は国内不動産市場全般に変化が出てきていると言う。先行きを危惧する人にとれば賃貸だけでなく売買にも影響が及ぶ事は、一旦下がり始めると急坂を転げ落ちるのと同じく価格の下げはなかなか止まらない。また過去の経験からして、市中心部と郊外の地域とでは何処の世界でも同様に自ずと下げ率に大きな開きが生じる。これ注意しながら動向を見てゆく必要があると考えます。
現地報では賃貸アパートは場所などにもよるが、最も影響が高く20~40%も落ちているようです。住宅は当初中国から生産拠点のベトナムへのシフトが声高に叫ばれ期待が大きく、5月くらいまでは活況の様相を呈しており、前年比で123%の供給量の増加をみたが失速。しかも最も住宅を必要とする人へ供給すべき低価格帯の物件はゼロ。この辺りの政策はどうなっているのか。
此処まで感染者が拡大してもワクチン接種の見通しが立たなければ、不動産への影響は今後一層大きくなります。収束後を見据えて状況を改善するのなら、中間層が購入できる価格にまで下げ、安定的に供給させる英断がなければ不可能に近い。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生