こういう場所、すなわち市内でも土地が低く、サイゴン河に囲まれた地域ゆえ、満潮になれば水が出るとか、道路の状況が良くなく交通に難があるなど、余り良い住環境でないとされてきた地域なのだが、筆者はベトナム人の知人と地場レストランを運営した事があるので環境は実によくわかるのです。
このエリアに数年前に住宅やリゾート、アミューズメント施設を備えるなど、総合開発の話がありました。一時は外国のデベロッパーが気に入ったけれど、用地買収が進まずにキャンセル。しかしまたもや復活の気配が出てきたのです。
HCM市人民委員会は、南部開放50周年記念事業と称して来年4月末までに事業の入札を行うという。現在はコンペで計画と建設のアイデアを開催中とか。
何しろ約427ヘクタールもある広大な地域。だが未開発地はいいとしても。すでに家を建てて居住している生活者たちをどうするのだろうか。同意を取り付けるにも、補償金や移転地確保など戸数が多くて波乱はありそうです。
実は以前にサイゴン不動産開発公社が開発しようとしたけれど経験不足などの理由から事業遂行能力がなく計画が白紙になっている悔しい経緯があるのです。
今回は汚名返上、だが自国のデベロッパーだけでは資金力と企画力などが不足すると踏んだのか、PMH地区の様な形式になると考えてもいい。
道路整備をすれば中心部へは至近距離だし、これほど広大でまとまった地域は無い。当局としても市内に適切な高層住宅を建設出来る土地は無い。従がって明らかに喉から手が出るほどに開発したい地域なのだが問題は分譲価格です。住宅が欲しい一般の家族には高額過ぎて購入など無理だろうと考えられる。
因みにこの近く、国道から少し入ったエリア。約500㎡の土地を母親のために買った日本に帰化した人が居た。実際に平屋の家を建てゆったりした生活を送っていたが、当時の価格はわずか2万ドル。それほど人気が無かったのだが、時代が此処まで変化したのです。
さてコロナ禍で二度目の不動産バブル・ストーリーが一旦崩れたが、この所は急速に回復してきている様子があって、HCM市ではほぼ筆者が10年間在住した東北部のトゥドゥック市、南西部に位置するビンチャン区などが凄まじい勢いで街の様相が急に変化しているのが現状です。
これまでHCM市は主に軸に東西へ伸びてきたけれど、これから南北に開発は進むであろう事は容易に推測できます。そして人口が最も多いゴーバップ区とかタンソンニャット空港があるフーニュアン区、南のニャーベー区などで開発が進められるのが読み取れるのです。
現在中心部から10キロ圏の分譲物件は用地不足と高騰で無くなり、元々都市交通が発達していないHCM市、中心部のビジネス街に勤務する人達はバイクでの通勤をどうするのか。酷くなる一方の渋滞は収まらず辿り着けません。
地下鉄1号線が開通するのは今年中とか。このエリアはなんとかなる、これは東の方向に位置するが、先行してこの沿線には多くのアパートが出来ている。
要するに都市発展進化に伴う都市交通の整備が出来ていないので、様々な問題や機会損失が増えると考えられ、ともすれば都市の機能や環境が整備されないままに人だけが増えることになる。都市計画と都市交通(電鉄と駅ターミナルを拠点にするバス路線)の重要性はこうした所にあります。
この傾向になる以前、多くのデベローパーは物件が売れずに資金がショート、大手と云われる企業もありとあらゆる会社の資産を売り払って凌いできました。
従業員の殆どは解雇せざるを得なかったけれど、多くはセールス要員であって歩合給のため会社としてはそれほど実害などありません。彼らは不動産に関連する技能を持っているとか、法律や建築等に関する技術に明るいなどの特別な能力がある訳では無いので、いわば役に立たなければ捨て駒のように真っ先に切られる立場であったのです。
モデルルームにいるスタッフでさえ可愛い子ちゃんで良く単なる案内嬢。専門的知識がある訳でもなく、必要性もなかったが、客の方も何を質問していいか分らない。しかし今、売ろうにも人が居ないというしっぺ返しに遭っています。
いまさら元の仕事に戻ろうとは思えないのが人の気持ち。無理を言わなければ仕事は幾らでも探せます。だから人が来ない。
日本であればこうはいかない。要するにベトナムは不動産に関連する諸法規が未整備のため購入者が保護されるという訳ではありません。一度ならず、二度までもバブルを経験しながらも、国として不動産に関する法律は改正されたけれど充分でありません。土地そのものは個人が所有できるものではないけれど、実態は自由に売買可能だし、資金と商才があれば(+インサイダー情報と権力)儲けることも出来るが、下手をすると大損する場合もある。我々自由主義国の不動産市場の実態と表向きは殆ど変わりがないのです。
おまけに価格に関して法的に規制があり、事前審査が無ければ売れないというものではありません。いわばお目こぼしもある不条理がいま以ってあると認識しなければなりません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生