・アパート価格の上昇が続くHCM市
HCM市のアパート価格はこれまで前例がない1平米あたり平均1億2000万VND(約4700ドル)に達し、現地紙に拠れば新たなピークに上昇したと報じています。
これは今年度第1四半期に分譲されたアパートなのだが、前年同期比で47%というとんでもない上昇率を記録したのです。だがこの価格を構成するのは、ハイエンド及び高級セグメントであり、不動産価格の調査を行っている企業はこれらの開発に関して、Vinhomes、Masterise Homes、Keppel Landなど高級アパートを分譲する有名企業の販売によるものであるためとしています。
これらのプロジェクトが集中する地域はHCM市の東部、及び中部地区であり、第1四半期に分譲された2390部屋の約53%を占めており、新規取引ではこれ等の企業が常にアパート業界をリードしていると言われています。
しかし南部と西部地域では幾つかのプロジェクトが1平米あたり約6000万VND約2350ドル)で分譲されており、この供給はそれぞれ19%と15%となっており絶対的供給量は少ない。
とは言え、これを日本流に坪で換算すれば776,000円で、この国の状況を考えると決して安い買い物ではなくなったのです。この価格高騰が続いているためアパートの販売戸数は前の四半期から58%も減少し、わずかに1,100戸に留まっているに過ぎません。
したがって一般市民が楽に買えるものではなく、各開発業者は優遇措置を採り、最大で3年間の支払延長や10~25%の割引をするというインセンティブで需要を押し上げようとしているというから、販売は決して楽ではないのです。
また他の調査会社でも同様の傾向との結果を報告しており、此のひとつであるDKRA社は、HCM市の第1四半期に於けるアパートの平均価格は1平米あたり9,200万VND(約3600ドル)に達し、前年同期比で12%上昇、取引が昨年後半と比較して47%減少したと報告している。
同社のデータでは今年最初の3カ月間でのアパートの販売は、前の四半期から50%も減少しているとあります。
さらに別の企業では、HCM市では第四半期に約9,500戸の新規アパートが分譲されると予測しているが、この殆どはハイエンドでありその平均分譲価格は1平米あたり1億2000万VNDになっているとしています。
もはやHCM市でのアパ―ト分譲価格がここまで上昇し続けることとなれば、価格がまだ手ごろな郊外物件や、近隣の都市へと開発がシフトし、また購入者が流れて行くことになります。
・もはや若者にアパートなど無理な買い物
不動産の価格が収入を上回っている状況では、無理して住宅を買うというより購入できない。そこで考えることなく仕方なく賃貸を選ばざるを得ない。
HCM市内の銀行で働くクアンさん。月収は2450万VND(約960ドル)なので平均を上回っているけれど、それでも買うことを諦めたのです。大学を卒後以来貯金して来たのだが生活に余裕などなく、この間の不動産価格の値上がりは、これを大きく上回っている。少なくても20億VND(約78,500ドル)をローンで借りなければならない。だがこうなるとこの先15~25年の間に単純に計算して、収入の60%を支払い続ける必要があります。であるならむしろ家を賃貸して老後に備えて堅実に貯金したいという訳です。
これは日本でも全く同じで、週刊誌ではいつも賃貸派か購入派かという論議になっているが、誰も何十年先の経済情勢や人口動態、ましてや国、不動産事情がどう変わるのか分らない。それどころか十年先の都市の状況、計画だって知る由などありません。まして社会主義国であり、土地は国も物だとしながらも、自由に売買が出来るということは、資金があればこそ投資を繰り返して行い、一定期間は外国人などに貸してインカムゲインを僅かの期間でえることが可能だし、適当な時期なれば売却すればキャピタルゲインを得ることが可能になるのです。こうした流動性がある資金を保有、しかも現地通貨ではなくドル建てであれば殆ど心配なく積み増しができる。こういった格差が増長されているのが現実であり、この様な矛盾の中で一般の市民は翻弄されているのです。
国は低所得者のために社会住宅なるものを建設する目標を持っているけれど、予定通りに進んでいないし、住宅購入に際して公的資金を借りられるという所まで行かないので、多くの人は一定の金銭を用意する必要があるのです。
地方から出て来て都会で就職、地方には高学歴の能力を活かせる企業が無い、となればそのまま残って家族を持つ。これもかつての日本の様相と同じであり、ベトナムの勤勉な若者が夫婦で働いたとしても住宅購入を諦めなければ仕方がない、という結論に達するのです。
そうなればキャリアアップのために自己投資する、というのもひとつの考え方であり、実際にこれを実行した人も筆者のかつての仕事仲間に居ます。
不動産大手BatDongSan社(ズバリ不動産という意味)の調査に拠ると2024年度の賃貸住宅の検索数は22%増え、25歳から34歳の人が64%と最も多く調べていることが判明したとあります。
またベトナム不動産協会の調査では、ハノイ市、HCM市、ダナン市の35歳未満の60%以上が住宅購入よりも賃貸を選ぶ傾向にあることが判ったとある。
もはや住宅を購入することは若者にはストレス以外のナニモノでもなく、時間を浪費するだけと考える人が多くなったという証拠なのです。
実際アパートの価格は、過去5年間でハノイ市では72%、HCM市で50%、ダナン市は34%上昇したとする統計があるけれど、収入は6~10%しか上がっていない。仮に購入するとなればローンを返済するため年間収入の5~10倍も支払わなければならないのです。
こうした事から賃貸に住む人の41%が家を買う余裕など全くなく、ローンの支払よりも安い賃貸を選ぶ、と調査したB社は考えているという。
仮に60㎡のアパートを30億VND(約11万8千ドル)で買ったとすれば、月額950万VNDという国民の平均所得で、4,5%の利率で返済すると考えれば26年掛ると計算されるため、此処まで長期にお金を借りるという概念がほぼないベトナム人にすれば相当きつい。また生活をするのに大幅に他の支出を削ってまで長期間に渡り借金を背負込むとするのにも無理があります。
以前にベトナム人も日本人と同じ農耕民族なので、土地が欲しいという遺伝子がある。できれば一戸建住宅が良いけれど、そうはいかない。しかしどうやら不確実性が強い社会で将来が見えない。そうなると若者から住宅に関する考え方や見方が変わってきて柔軟になったと云う。
日本の様な転勤はベトナムでは殆どないと言って良いけれど、それでも不動産の購入にはこれまでと違ってきている事情があります。
しかし賃貸住宅に人気が高くなったという社会現象はあるが、協会では賃貸市場は十分に整備されておらず、また多くの制限がある。殆どの賃貸物件は個人が所有し管理しているケースが多く、賃貸を専門事業としている不動産会社もないので、様々な条件は貸主に都合のいいようにされ、入居者の権利の保護は法的にも社会慣習にもありません。これが問題で、突然の一方的な賃料値上げ、期間を置かず退去通知、所有者の変更に拠る予期しないトラブルなどが生じても個人間で解決するしかないのだが、実際には貸主が強くて対抗は出来ません。
実際にこれはベトナム人だけでなく、貸主に比較的有利になっている外国人との間での見かけるトラブルにもある。ある日、突如としてこの家を買ったので直ぐに出て行って欲しいと通知された日本人がいた。商売をしていたのでそう簡単に行かず、移転先を探すとか、補償なども一切なく勝手放題。ベトナム人の従業員も居たけれど対抗は出来ない。こういう不安定な状況に置かれるということを肝に銘じなければなりません。日本の様に借主保護の法律はなく供託して裁判するなんて事なども馴染まないので結局は泣き寝入りするだけ。
不動産協会は入居者の権利保護は必要であり、年間賃料の制限を設けるとか、長期リース権を促進するなどの条件を明確にすることで、安定した賃貸期間を保証するなど、先進国で行なわれている法的規制を求めているというのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生