速すぎる認可 Vinグループの住宅開発 地元紙が報じる

2025年9月25日(木)

現地報に掲載されたのが上記のタイトル。何を言わんとするのかだが、市や省の一介の開発企業へ余りにも認可が速いということへの憤懣なのか、疑問なのかだが、記事にはイベント開催と併せ、同社に仕事を発注したとする副首相とビングループとの密接な関係ぶりをさりげなく書いているのです。
告発では無いにしろ、記事の内容は1市、2省に於ける住宅開発について述べており、あからさまな批判でなく開発概要に関連する中で速いと書かれたもの。しかしこれは記事になっただけでこれまで同社が行ってきた住宅開発は、現地の事情通から伝わってくるのが正当な用地買収ではなくインサイダーで、かち合えば横取りのし放題。勇み足でも誰も文句を言えない独り勝ち相撲だと聞く。もちろん其処には役人が絡んでいるので大手が振れる訳です。

筆者の現役時分の話、住宅開発事業に席を置いたけれど大企業の系列は比較的物件情報が持ち込まれてくる。殆どの開発企業は売却依頼を受託した業者から、親しい業者間で幾つかに枝分かれて出入り業者から資料が届くのだが、現在では内輪で完了したとか、出し惜しみが無ければネットで簡単に検索できます。
地上げ屋というのが居て、マンション適地を業者から依頼を受けあくどいやり方で購入するなどバブル時はまさに不動産狂騒曲が巷に流れていた。不動産屋は銀行の応接室を一日占有。銀行は融資するだけで業績アップの異常な状況。
また大勢の営業マンを雇い飛び込み販売攻勢。成績が悪ければ直ぐ解雇のブラック企業が存在。むろん宅建資格など持っておらず、歩合の営業マンなど違法すれすれでアブク銭を稼ぐ奴もいた。しかし上場企業などは企画や品質と信頼で勝負、目標以上に売れても社員に給与や賞与には一切反映されませんでした。
ゼネコンは仕事が欲しいので不動産担当者を置いて物件を探し、不動産会社に持ってくることもあります。取り分けH工務店などは元々宮大工系だったけれど何時しかマンション専業となり、免許と資金はあるがそれ以外は何ももっていない名ばかりの不動産会社にアプローチして開拓。用地取得から開発許認可、建築設計施工、販売代理から管理まで全てお任せ受託していた訳で儲け放題。極論だが事業主は机に電話が一つあるだけで何もしなくてよかったのです。
彼らはまさしく打ち出の小槌。支払い条件も建設会社の言うなりで確実に入金、設計もそれほど難しくなく、規格品の資材だから大量発注でコストは安くなる。
エレベーションも部屋の間取りなど画一的、だから現場技術者の腕はサッパリ上がらず、経験の浅い社員など職人に怒られ、間違いを指摘されたなんてことをしばしば現場で見かけたが、この様なタイプのゼネコンは幾つかあり、住宅を必要とする団塊の世代には持ってこいだった。
アパートや住宅の購入など日本でもベトナムでもほぼ同じ。建築方法の違いはあるけれど、住環境など立地条件が良いのはもちろんだが、如何に建築品質が良いかで何年か後には精度の違いが明確に出てくる。
何処の国でも殆どの人にすれば一生に何度あるか分らない高価な買い物、良い設計者と建設業者を選ぶことは大切な要素です。また建築コストは使う建材や設備によって違いはあるけれど素人では見分けが難しい。贅沢する必要は無いがけれど、予算に見合った無理のない範囲で余裕が必要だし、プロにしっかりと相談することが肝心。そういう意味では資格とか免許は一つの判断材料だが、国家資格がないベトナムは分らない。

・記事にあった開発案件

ハイフォン市、カインホア省とバクニン省で4プロジェクトがあり、各自治体はビンから相談を受けて実施段階に入る準備をしたとある。
まず、このビンの自動車工場の創業地であるハイフォン市。タントラ工業団地でビンホームズ工業団地投資会社に拠る投資案件。227Hrで投資額が4兆600億VND。もう一件はグーフック工業団地で236Hr、5兆7000億VNDで、クリーンエネルギー、再生可能エネルギー、電気、電子、通信、製薬などの企業を誘致するとあるのです。
この2プロジェクトは今年に造成を行い、インフラ建設を2026年から開始して2030年に事業を開始する計画という。

2件目はカインホア省で、カムラン新市街地案件を3月に協議。これはビン他、4社とのJVで2050Hrとあるが、超巨大なもので想像しがたい規模です。
最大人口が40700人とあり、タウンハウス、別荘、公営住宅、商業施設とあるけれど、用地買収を2026年の初めから開始。2028年に完成するとの計画。これだけの大規模開発をたった3年で完了とは本当に出来るのかだが、技術的観点、施工能力から見ても疑問だし、さらにこの地域で新規に4万人もの購入者が居るなんてあり得ないこと。これだけの住宅は必要なのかいささか不信感が拭えないが、それ以上に2000Hrを超える開発地なのに計画人口がたったの4万人とはどう考えても少なすぎる。仮にニャチャンが海浜観光地で有名な地であっても不可能といえます。
カムランには軍港があって、ロシアが飛行場を利用していた。これを返還してカムラン新空港にしたのです。それまで市内にあったので不便になりました。
実は開発総面積というのが10,400Hrで、その一部を5社JVが開発するというが、総開発費は100億ドルと試算されている。但し旧住民を立ち退かせるというもので、この保証などは別途とあり、これでは資金が続くのか?
3件目はバクニン省。4月に新市街地案件が協議されたと記事にあります。
このプロジェクトもビンと開発投資会社4社となっている。
だが面積は277Hrで、投資額は41兆2700億VND、人口規模は33,000人なので妥当と言えます。だが少々費用が高すぎるのはどうしてか。
バクニン省は韓国企業が大規模な工場で携帯電話などの生産をしている。だが勤務する現地のワーカーに家を買うだけの所得があるのか。また必ずしもこの地で生まれ育った訳では無く、何時までこの町に居るのか、ただでさえ離職が多いのがベトナム。もしくは家族を持って長らく居住するという確実な保証があるのか分らない。そうなると開発計画は何を基準にしてマーケティングしているのか、だからと言って、近隣の都市から流入が期待できるのかといえば、全く以ってそうではない。
記事にはこれらの4プロジェクトが僅か10日足らずで建設開始の準備が進められたとしているが、これはこの国でもあり得ない話。一体どういった審査をしたのか不明だが、雲の上同士よくあることです。こういう状況もあって行政再編では現地報に拠ると多くの行政に携わる官吏が退職しているのです。

・チン首相はビングループに文化スポーツ観光省開催の展示を一任

5月28日から9月30日までに開催される同省企画のベトナム展示センター及びコンサルティング部門のイベントと連携、展示エリアの設計と建設、また展示期間中に実施されるあらゆるインフラの運用に関しては、チン首相がビングループとコンベンション側に準備するよう要請したと報じている。言うなれば特命発注だが本来は入札に拠る競争と思いきや、此処では権力でミエミエの肩入れに誰も文句は言えない。だから下級官吏も悪い真似を平気でするのです。
このイベントとは、建国80周年を記念して「独立・自由・幸福の度の80年」をテーマにハノイで開催されるもので、展示会には多くのコンテンツが予定されこれまでの成果を展示、特に重要な産業分野、投資と貿易、農村地域における安全保障と防衛、教育部門では文化、スポーツ、健康、観光と多岐にわたっているとあります。
また4千年の歴史を持つベトナムの人と文化・伝統、54民族の文化的多様性と豊富な資源、北部・中部・南部の三地域の製品、優れた建築作品も紹介されると報じている。
首相は極めて大切な、また重要な行事であることを強調し、誇り高い80年に見合った規模を持ち、党と国家の指針に従って厳粛に開催されるべきであると主催者側に要請。また関係する省庁に対して、安全で経済を確保、大きな魅力を持ち外国からも注目を集めて成功裏に開催するため、各機関、行政も最高の責任感と決意、行動をするように指示を出している。

・Vinグループ 最新のニュース

話はVinグループのEV車になるが、8月にインドで工場が完成し年間5万台を生産すると記事にありました。この工場は同社の海外初進出となる訳で、インドの世界一の人口と、2000万台になると予想される需要を見込んで、同社のグローバル戦略の具現化で意気揚々なのだが、茨の道が待っている。
筆者が初めて訪越した1997年には、ベトナム国内は自動車どころかバイクも普及していなかった。旅行業者が使っていたバスなど日本の公共交通の路線バスを改造したものだし、タクシーは韓国製のヒョンダイだが時折エンコして道路上に泊まる有様。地方へ行くと路線バスとして使っていたのがTATA製、即ちインドの中古車であったくらいだった。だがこれは暫くして姿を消すことになったけれど、兎に角大きいのは良いけれどエンジンはけたたましくて煙が凄くあえぎ状態だったのです。あれから30年近く経って今度はベトナムからEV車の工場が進出するなど思いもしなかった。
インドはスズキの牙城、2024年12月に亡くなった鈴木修さんが心血を注いで今では年産223万台強、国内販売だけで190万台以上でそのシェアは実に50%近いとあります。輸出もアフリカなどに33万台強でインド経済にも大きく貢献しているが、これは政府首脳も高く評価している。この理由とは徹底した現地化戦略であり、現地ニーズに合致した訳だが、現地生産と国内販売を軸にした成果であるのは否めません。2030年には年産400万台と計画しているが、これには日本企業の持つ優秀な品質は元より、販売後のサービスにも拠るものです。こうした信頼を勝ち取っていったのはベトナムでのホンダ等のバイク販売と同じで他社がいい加減だったのに日本企業はユーザーに親切だし長く乗っても殆ど壊れないという評価からシェアを拡大していったのです。
2026年7月1日からハノイ市では一部の道路で電動バイクしか通行できないが、これを順次拡大するのが政府の計画。確かにハノイの空気汚染の酷さはとんでもないが、原因はこれだけではないが、其処にはVinの電動バイクを普及させる魂胆があるのです。こうなると日本企業は大きな打撃を受けるが、その体側はもちろん講じているが、余りの露骨なやり方は自動車も同じこと。
ではVinがインドへ進出は成果だが、こうした戦略があるのか。アバウトな国民性のスタッフが、これまたインド特有の生活や労働習慣を理解、現地化をテーマとしたマーケティングができるのか。其処までの海外経験など当然なく、鈴木さんの様に現地に乗り込んでという行動などベトナム企業は大小問わずにトップは全くしないが、現地のスタッフは何処の誰に信頼を置くのか。世界実績が無い企業の車も然りで、こうした背景もあって現地提携会社に販売を任せるとある。だが本当に現地事情を理解し現地化を進める気があるのか。得意の割引販売で活路を見出すかだが、こうなると先は真っ暗、赤字の上塗りです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生