外国人の失踪 日本のメディアが知らない根本事情も考えられる

2020年5月1日(金)

読売新聞に連載された外国人失踪についての追跡記事。技能実習生や留学生として来日するのだが、職場や語学学校から姿を消すケースが後を絶たちません。
記事はこの背景や日本側の問題、今どき簡単に仕事が見つかるSNS を使った外国人ブローカーのヤミ求人の実態。またそうした手口に付いて識者の見解と共に問題を探っています。
この所新聞に頻繁に掲載される外国人実習生や留学生の事件と犯罪。法務省に拠ると不法残留者は昨年7月1日現在79、013人。ベトナム人は13、325人と16、9%を占め、半年前に比べて19、7%の大幅増加でトップ。
実習生7、187人、留学生3、161人と不名誉な記録で過去最多を更新中。もちろん多くの同胞は真面目に仕事をしているが、このような人のため迷惑を被っているのは残念なことです。
不法残留者に拠る不法行為や犯罪が増え、本国の犯罪組織からの指示で詐欺や窃盗事件を起こし、金品は自国へ送って売り捌く悪質な事件も増えています。これに介在するのが日本に居る自国や外国人の闇のブローカー。
日本の悪質企業よりも、こうした手口で不法残留者が危険な罠に陥るケースが増えています。彼らは全く気が付かないどころか借金をどう返すかで頭が一杯。法律がどうとか、何が間違いなのか考えないまま次第に感覚がマヒ、悪の度合いが深くなり抜け出せない状況に嵌り、果ては強制送還の憂き目。
かつて元毎日新聞記者でジャーナリストの出井氏や、移住労働を調査、著書に「奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態」があるジャーナリストの巣内尚子さん、移民問題を共生の立場から取材を継続している西日本新聞など、早くより真摯に外国人労働に向き合い問題提起してきた時代から、日本を舞台に悪事を重ねる外国人同士が暗躍する状況へと変わってきた様に思えます。

失踪する人物はある日突然職場から逃げ出し、足が付かないよう遠方の仕事場に居を移すと言います。原因は賃金。少しでも高い所へ行くのです。
これは故国でも状況は同じこと。大学を卒業して、語学を活かし外資系企業に勤務している人から、田舎から出てきた工場勤務のワーカー、小さな個人商店やレストランで働く人もみな同じ。月額僅か10万VND(約500円)高くても、昼食の内容が良さそうと言うだけで移る先の状況がはっきりしていないにも拘らず二つ返事でOKし、居なくなります。テト明けなどは最たるもの。話題は常に幾ら給料をもらっているかという関心しかなく短絡的。そうなるとSIMを替えて連絡すらできなくするのです。現地ではこんなモラルの無い事が頻繁に行われている断面があります。
目の前で見た出来事。辞める理由を知った日本企業が、早速給与を改定するとあっさりと辞意を撤回。彼らは節操のないことを恥ずかしいとも思わず、金が全て、絶対的価値観。二度・三度と続きます。
ロイヤリティーなど期待してはいけない。彼らは自分のスキルや経験を金銭的対価としてどれだけ評価してくれるかに興味がある精神構造。日本の様な過程を重視するとか丁寧温厚などの要素は必要ありません。むろん全ての人に共通するものでは無いが、こんな意識にも根のひとつが表れるとの印象は拭い切れません。
記事の最終稿で根本的な解決策はないのかとして、失踪の原因に日本で受け取る賃金に見合わない程の借金があるという問題を指摘しています。
日本に行けば何とかなるという妄想を抱かせる原因に格差問題が背景にあり、地方の無知無辜な人間の、家族を豊かにしたいという期待感を甘い汁で誘い、騙して借金させ多額の金を先取りする業者の存在があります。
過去には家を建てたとか弟妹を大学に行かせた事実もあるが、今はそんな時代ではありません。両国政府は監視を強化し悪質業者の公表を始めました。だが日本側の制度そのものにも歪みがあり、根本的な解決にはなりません。
日本の人手不足を背景に、偽造在留カードだと知りながら、来てくれるだけで有難いと不法就労を黙認するが、罰則だけでは解決しません。元々無理のある実習生制度、留学制度を改変するのが一番。
記事はまた、ある実習生を受け入れた善意の会社を書いています。親身になって世話をした、給料も決して悪くなく他所と変わらない。真面目に働き文句も言わず安心。だが部屋は突然もぬけの殻で愕然。
また別の語学学校は寮を整備、無断欠勤が2日続くと訪問するというルールを作ったが居なくなる。要するに初めから学業を続ける意思などは無く、働きに来ているという意識。だから言葉も覚えない、端から必要ないのです。
こうした裏切りは現地でも幾つも事例があります。特に金銭がらみが一番多く、信用して集金に行かせたけれど帰ってこず、電話もつながらない。親が病気で入院費を前借りとか、知り合った日本人の帰省先まで連絡する。入社して前からの病気の診断や薬代まで当然の様に払わされた。また留学費用が足りないので貸して欲しい等々ダメもとで平気で話す。だが返す事はありません。こんなことはローカルであるほど誰もが経験します。
さらに日本の事業所での労災事故。安全基準を守らず、ヘルメットや安全靴を履かない。訓練を重ねても機械で指を切断する事例。現地でもこれは同じ。
規則を守らないのは自己責任。だが企業の責任にするジャーナリストや弁護士がいる。本質的と思える現地の実態、精神的貧困。これを知らずに日本と同質化した一方的押し付けは間違いです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生