COVID-19禍の中で実習生はどうなった②

2021年8月6日(金)

・ベトナム人実習生などの駆け込み寺のこと

ベトナムの日刊紙タン・ニエン(青年)に、東京港区にある寺院「日新窟」が紹介され、COVID-19の影響で経済的に苦しんでいる日本に在住するベトナム人支援に取り組んでいるとありました。
先のゴールデンウイークには延べ1120人へ支援物資を此処から届けられ、希望者はスマホからアクセスすればいいとの記事。しかし漢字の間違いなども多くあり、届け先不明とされ届けられない事があると伝えています。
一昨年NHKスペシャルでも放映されたが、今や多くのメディアでも有名になった理由は、同寺がベトナムの若い人たちの心と身の置き所となっていて大変な思いをした人達が保護されているから。浄土宗僧侶でもある吉水さんが代表理事を務めているNPO法人。6年前に立ち上げました。
此処では単なる生活相談や医療・就業支援などの他、日本語教育、社会活動の実践を行う他、労働・人権問題にも幅広く取り組んでいるが容易なことでない。
活動へ多くの企業が賛同し生活物資の提供などを行っている。
真面目に過ごしてきたがもはや限界。外地で身寄りが無く孤独に苛むのは辛くてどうしていいか分らない。伝手を頼りやっと安堵の地に辿り着けたのは御仏の導きか真摯に生きた方。これは経験しなければ分かる事ではない。
日本の大学を卒業し、然るべき企業で正規社員だったが突如解雇通告にあった女性も居る。また悪意のある監理団体や企業から理不尽なイジメ、道理を尽くそうとしても帰国させると不条理に脅されたなど、様々な境遇の人が起居する。
この寺でベトナム人の様々な相談に乗り、故国を離れ不幸にも亡くなった人の葬儀、供養を続けているのがティック・タム・チー(釋心智)師という尼僧。2001年に来日、大正大学・院を卒業。東北での地震の際には現地に駆け付けてベトナム人被災者のケアを始めました。こうした功績によって2014年日本政府から在日ベトナム仏教信者会の設立が認められ、現在まで理事を務めていらっしゃいます。
現在は2018年1月に開山された埼玉県の大恩寺(CHUA・DAI・AN)に移り、常時若者の世話をしている。また名古屋にも日本人の高岡住職が40人程を受け入れている徳林寺があり同様にメディアで報じられている。仮に彼らが運よく帰国出来ても、そこに暮らす人が減ることはありません。

・技能実習機構とは

技能実習法が施行されてから不法行為で摘発されると許可が取り消されるため、多くの事業者は真摯に取り組んでいる筈なのだが、COVID-19や実習生の所為にした無責任な言い逃れがこのような無慈悲な結果を生んでいるのです。
技能実習生の人権を守る職責は、公的機関である外国人技能実習機構が義務を負うべき。これは平成29年にできた機関で、出入国在留管理庁のページには技能実習の適正な実施と技能実習生保護を図る事を目的とし、技能実習計画の設定や技能実習生に対する相談・支援などを行うことが明記されています。
機構によると、母国語ホットラインに寄せられた相談や保護養成2019年度の案件は、賃金・時間外労働など労働条件に関する相談が1,320件、技能実習生の在り方に関する相談が1,673件にも上っており増加の傾向にある。このためホットラインに加えて「技能実習生SOS・緊急相談窓口」を設け、実習生へ暴行、脅迫、その他人権を侵害する行為に対し外国人技能実習機構の専門「SOS対応チーム」が迅速に対応。一時保護や実習先への検査を行うとしています。
ある監理団体の責任者に拠ると実際には機能していない。または彼らが役所に相談しても徒労に終わるだけと思っているのではなかろうかと話す。
状況は少し良くなったと言えなくないが、行政はトラブルがあっても実際には動いてくれた試しが無いのは我々も経験している。同情するなら金をくれ、となるのはこんな背景。世界の合言葉なのかもしれません。

・現地との格差は歴然 始めから過度な期待や要求は無理

多くの実習生は来日前に日本語を学習しています。だが僅か数カ月で日本人との会話は理解を超えたもの、まして業界用語や専門用語など分かる筈などない。事実知り合いの大学院生(N1)は通訳で実習先の勤務先企業へ定期的訪問。言葉の拙い実習生を弱者として企業側が助け舟を用意した例。企業の社長の娘がベトナム留学したほど好意的に処遇する社長の例、なども無くはないが多くありません。始めから日本語が分るというのは雇う主の勝手な思い過ごし。
策を講じなければ端から意思疎通は難しくて誤解を生じる場合が多く、双方の齟齬があらぬ方向に向かえば問題がこじれ、事故に繋がった事もあると聞く。

また日本で通用するだけの職業訓練を受け、技術を習得している事はほぼない。これでは不慮の労災事故に巻き込まれるのは自明の理。多くの人は単純労働に就いているとされるが、それでも慣れない先端機械を操作させるなどは無茶というもの。現地との格差は大きいので、教育訓練することなくいきなり仕事をしろと言われても出来るものでは決してない。日本の工科高校や高専を卒業、基礎ができている社員と同列に扱うのは間違っています。
真剣に向き合う企業はこうした現地事情を理解しているが、中には即戦力として考え無体な仕事をさせる処もあるだが、こういう姿勢の企業は実習生を採用する資格は無く、当局も十分な監視をすべきです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生