ベトナム経済は回復基調にあるのか!

2022年3月31日(木)

・今年は経済が復活するか? GDP成長率予測は

ベトナムの社会・経済等を現地から発信する日本語情報ネットがいくつかある。
これをみていると最近バナー広告が少しずつ復活しており、COVID-19蔓延以前の様に日本企業向け現地進出支援や工業団地の案内、サービス事業などの掲載が次第に増えてきていることが分ります。
これらは概ねベトナムの都市封鎖や移動制限が解除され、本年はほぼ経済成長が元に戻るであろうとの期待感の表れであり、進出をストップしていた企業へ事業機会復活のアピールであると考えられます。
これを裏付けるかのように、昨年12月、香港上海銀行が発表したベトナムの22年度GDP成長率予測は6,8%。COVID-19で大きな影響を受けたFDIが今年は製造業などで増えると見込んでいます。
その兆しとして統計総局は昨年2,58%と(推計)、前年を若干下回るGDP成長率だったが、製造業は6,37%発表。また昨年のFDI認可額が前年比で約1%増加したこと。中間層の人口が増える傾向にあり、このため個人消費も増えると予測されること。併せてインフラ整備が加速する。などを判断材料として挙げています。なおインフレ上昇率は3,5%と予想している。
またHCM市は大きな打撃を被り、昨年度マイナス6,8%(推定)とドイモイ政策が始まって以来のマイナス成長を初めて記録したが、本年度の成長目標は6~6,5%に置いています。この中、域内総生産の内サービス業の割合を60%以上に堅持。さらにデジタル経済を2025年度までに25%まで持って行く計画を採択しています。
さらにハノイ市でも今年度の域内成長率成長目標を7~7,5%とし、このためCOVID-19の制御を第一に掲げ、生活水準の向上、経済成長への刺激などを発展計画にあげています。

・人手確保が厳しい状況が表面化

ある調査に拠ると故郷に帰ったワーカーの42%はHCM市には戻りたくない、あるいは考えておらず、無理しないで地元に残って仕事をしたいと考えている。
残りの52%は都市部では賃金が高いという理由で還る可能性はある。しかしそれにしても些かの不安を感じていないと言うものでは決してありません。
また統計総局の発表では130万人もが帰郷しているとされる為、これに当て嵌めると、即ち約55万人もが都会には戻らない、に該当することとなります。

ところがHCM市では雇用が拡大しているけれど人が足りない。このため賃金は7~10%上昇している模様だが、人材確保は厳しいとの報道。しかもこれはHCM市だけでなく、これまで地方から人が集積していた隣接するドンナイ省、ビンユン省、ロンアン省という大規模工業団地を抱える処も全く同じ状況です。
これ等の省は感染者数で国内トップ5位に入っており、いまだに上位を占めているため、危険を感じてCOVID-19が収束するまで戻らない選択をする人が居ても不自然でなく、責められるものでもない。イザとなれば金銭より生命を優先するのは人情だし、それほど仕事に矜持や信念を持っている訳でもないのです。
これを当局はどのように捉え措置を講じるのか。また2月1日にテト(旧正月)を控えて例年の通り繰り返えされることだが、今いる人が帰郷して実家にほぼ数週間前後滞在する間に家族と話し合い、どの様な結論を出すのか。果たして何人戻ってくるのか?企業が最も憂うる頭痛の種。この時期がやってきました。
これは多くの場合工場に勤務するワーカーレベルの話だが、もしかすると賃金の更なる高騰化を招き、福利厚生の改善などに繋がり、企業側に大きな負担が生じる結果、これがコストプッシュの引き金となり得ることだってあり得ます。
こうなると安い賃金で労働力を確保するという、これまで先進国が過去に繰り返してきた進出メリットが薄れ、移転を考える海外企業が出て来る可能性も考えられます。そうなると外資系企業の進出に拠って経済を成長させる国家戦略を採ってきたベトナム(政府)にとっても大変な事態となり、政策転換を余儀なくさせられるかも知れない。また地場企業の多くは経営基盤が脆弱であり、信頼度がイマイチである以上、厳しい状況に立たされるのは想像に難くない。
ベトナムでもテレワークが実施されているが、主に事務職や技術系部門などであって、もの作りを担うのは現業勤務のワーカー。COVID-19で明らかになったと思われるのが分断、この人材難は横断的でなく水平的なものでなかろうか。
工場は(エッセンシャル)ワーカーが居なければ成り立たない。もはや熟練だとか、初心者とか構っていられない事態が起きる恐れも企業は想定しなければなりません。こうなると良い製品が造れなくなる可能性が生じるうえに、タダでさえ帰属意識は希薄なので管理職や優良工員の引き抜き合戦が始まり、給与が上昇してゆき人材の空洞化も始まりこれが繰り返される。思ってもみなかったまさに人財危機にぶち当たる場面へ突入も懸念が出て来る。また労働者が強くなり、間の悪い時期に韓国企業で給与算定変更の不満からスト決行中とある。
こうした事態を一介の外資系企業、工業団地や現地にある各国の商工会議所で解決できるものではありません。企業進出を積極的に誘致してきた政府や地方政府が予めこうした状況を仮定し、矢面に立って人材を供給してゆく責務を果たさなければならないと考えますが、元の鞘に人が収まるものでしょうか。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生