人手確保が厳しい状況が表面化 製造企業にとって直面する危機①

2022年4月5日(火)

・裾野産業・サプライチェーンへの影響

これまでにも述べた通り、移動制限や工場隔離などで外資系企業に与えた影響は少なくない。企業にとってワーカーが戻ってこないのは致命的なことです。工場が稼働しなければ物つくりに在っては意味をなしません。
また部品供給が止まれば顧客を失うことになる。然るに一部外資企業は顧客の信頼に関わるとして、やむを得ず拠点を移さなければならない事態も聞き及ぶ。ベトナムへの進出優位性が低下するのは必然なのです。
国際協力銀行の調査では、日本の製造業が3年程の中期有望進出先で一つ順位を落として4位との報道。現に国内では部品調達ができず、輸入も滞っているため生産に支障をきたしている事実。日本車がアジアで最も売れる理由が現地で丸ごと部品生産する為とあったが、国内回帰で安定供給だってあり得ます。
インドの経済学者が貿易は国を亡ぼすと書いていたが、遠からじ中るのかも。
海外企業は中国からベトナムへの世界サプライチェーンの移転に大きな期待を寄せていました。しかしその期間は長く続かない。進出企業先へ部品を製造・納品する地場裾野中小企業でさえ操業停止や廃業に追い込まれるほどの悪夢。大きく水を差した結果になりました。もしかすると自国の足許を正しく理解し、評価すればこれほどまで落胆することはなかったかもしれません。
いずれにしてももはや企業単独の努力だけではCOVID-19以前の状態に戻すことは限界だとし、優遇策や支援体制が求められている程の苦境にあると一部では報じられています。
商工省によると、せっかく国内部品調達率が少しずつ高くなり裾野産業が拡大する下地が整う機運にあった。だが今回の状況がこのまま改善されないとするなら、主要部品サプライヤーとしてベトナム企業を選択するのに躊躇することになる。このまま絵に描いた餅か、臥竜点睛を欠くこととなり、念願の世界的部品供国としての実現に多くの支障と課題を残すだけに終わってしまうとする。
もうひとつ挙げられるのが、電子機器、自動車製造、繊維や靴など製造加工業には優遇政策がある。しかし実行には一貫性が無く思うような成果が得られていないとの分析、此処に来て焦りを感じます。
また以前にも記したが、今回露見した地場裾野産業が外資系企業に部品調達先として選ばれない理由。これは製造能力に限界があり、製品の品質にバラツキがあることがその原因として挙げています。今回の感染で課題が期待より以上に出たことに拠り、進出企業への対策がどのように出て来るのでしょうか。

・現地視察をした日本企業の感想

これまで筆者が進出を考える日本企業に同行して、幾つかの地場企業を訪問した際に漏らした彼らの感想がある。日本の中小企業と異なるのは、独自技術が無く専門性も低く要求に応えられない。高度な特殊部品の委託製造は難がある。機械が旧く、ワーカーのレベルも低い。こうなると安定して高品質製品の供給など難しい。すでに進出したタイに比べると生産性に劣る。様々なプラスの噂を聞いて期待して来たが、思惑が外れた、という意見もある。100社が視察して精々進出が可能なのは2~3社でしかないが、この様な声が表に出てこなかっただけ。当初は視察受け入れに積極的だった地場企業も徐々に成果が無いと解かれば、自社の現実を知らずして視察を嫌がる様になる。これが実態です。
COVID-19が契機となって中国からの工場シフトは期待先行でしかなかった、というのが本当ではなかろうかと考える。それが事実となれば元の木阿弥になる。
中国から撤退するより残留するとか増えたとされる報道を目にすれば、不正確な情報などうかつに信じてはいけません。現場を知り精査すべきだと考えます。
そういう中でも海外留学組などが設立した企業は、聞く耳を持ち進出企業からしっかりと教育・指導される。製品が信頼され下請けから脱皮。競争力を持ち自社で開発まで行う処もある。そうでない旧態の所は淘汰され消え去る運命。近年は明らかにこの差が大きく出ていると感じます。
ベトナム部品製造業者は日本の様にほぼ平準化されていない。独自技術を持つ所が少ない事情が明らかになった外ならず、能力格差は大きくなっています。
こういう状況を確認した商工省は技術の獲得や移入する受け身姿勢だけでなく、新技術の開発研究促進、製品や部品に付加価値を創出することに依るサプライチェーンへの参入を後押しする方法を模索していると言う報道があります。

・もの造り 人材面からの課題をみる

先の様な状況が続いているが、部品製造などの産業は徐々に回復傾向に差し掛かっているとの論評があります。だが並行して課題として懸念されているのは、高度な技術を持つ職人と技術者の大幅な不足であり、タダでさえ労働者が居なくて確保が難しいのに、早急に育成を必要とされているほど深刻だとあります。
だが付け焼刃ではいけません。それこそ信頼を無くすことになってしまうだけ。
筆者は今になって始まったのではない。今頃気づいたかと考えますが、COVID-19が一つの切掛けとなり、HCM市人材予想・労働市場情報センターが調査した結果、こうした実情が明らかになったと言われます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生