其処に書かれているのは求職者約4万3千人の内、大学・中等教育を修了した資格を持つ人は僅か38%に過ぎなかったとする。これでは世界的部品供給網を構築するにはとてもでないが少ないとガックリと肩を落とす。育成を強化しなければ折角の機会参入を妨げる要因になる。だが資格とは学歴の話。高品質なモノを造れる職人が居るかではなく、評価基準となる国家資格もありません。
こんな事情は以前も書いたように現地事情を知る人には分り切ったこと。そうした実態を日本国内では伝えられないか、現地を熟知していないにも係わらず講釈師の如く知った被りでセミナーなどを続けてきたこと。企業も相手を現地事情に詳しい専門家と錯覚して納得、充分調査をしなかったのも原因のひとつ。数字や単にヒアリングで調査を済ます人は居るが、これでは無理からぬこと。幾つもの業種を識ってその工場内を観察。ワーカーの手付を見慣れているとか、実際に経営者と直に向き合って話した事すらない人は多い。まして大手企業に行くけれど、本当の町工場にまで足を運んだことが無い人はもっと多くいる。
日本の高専制度導入は技能職育成の一例。高等教育がされてこなかったとか、ワーカーの育成が主である工業・工科高校、技術専門教育機関の整備をしていなかったのが主な人材欠如の原因とみる。一部の職業訓練校などは海外へ派遣する実習生の為、自国の状況や地場企業の実情に併せたもので無かったと考えます。さらにこうした学校を卒業しても即戦力にならないのが現実。基礎教育や訓練などは就職後に企業が行うもの、大・中小零細企業でもほぼ変わらない。
技術に機械や知識は日進月歩、しかし職業学校などで実習するのに用いるのは旧式。外資企業、実習生として外国に行けば役に立たない。それ以上にものを造るという根本的なマインドが分っていない。これを知らなければならないが、教える側に経験が無ければ何ともできません。巣立った生徒が可哀そう。
また海外から戻った実習生も特別な職能を持っている訳ではない。これは派遣先の国の問題でもあるのだが、そうした事実を知りながらも労働輸出など称し、年間派遣目標まで揚げ、無投資で外貨獲得を目指してきた政府にも責任がある。しかし一部の大学・院への留学生で、海外就業経験があり自国に戻って起業し成功を収めた高度な人材が最近出てきています。これは今後に賭けてゆきたい。世界のサプライチェーンを模索し、自国の根本的な製造能力の引き上げが必要とするのなら、教育システムの改善と、能力向上は優れている先の人材を活用する方法もあるはず。積極的に起業を支援し、必要な資金を供与すべきです。
筆者が現地で行っていた会社でも同じ事が言える。手に職を持ち仕事をしたいと望んで面接に来たのではなく、全くのド素人で学歴が低いため、下働きでも構わない人もいる。そのうち使えるかもと思うけれど、少しでも仕事を覚えると恩義や気概など無く他社へ転がっていく。自らの仕事に挟持すら無く、給与が若干良いだけで即日辞めてしまう。期待するもあだ花、我慢が無く飽き易い。
さらに大手企業の知人の話。本社へ研修に行ったなら箔が付いたと慢心のタネ。俺はできると錯誤し、給与が上がらなければ跡を濁してサッサと他社へ流れる。
技術を身に付けようとする精神性も薄弱。元々職人文化・歴史が無い所にこんな原因から熟練のワザを持つ職人が育たないワケが見られる。
・日本企業のベトナム裾野産業への期待とある現地報道
こんな中、ベトナムの裾野産業へ関心は高まっているとの現地報道があります。
昨年11月に大阪で開催されたM―Tech・関西機械技術展でベトナムからも駐日大使館商務部がブースを開設。自国製品が出展され注目を集めたとする記事は多分に作為的なプロパガンダ。メディアとはそんなもの信用できない。
日本の製造業は新たな供給先や委託先や提携先を模索せざるを得なくなったと報じるがそうではない。これはベトナムから部品が輸入できず、日本国内で様々な製品の製造が出来なくなったことが要因。これらの原因は経済を側に置き、人の移動制限を実施、工場閉鎖などを強制した為だがこれには触れないまま。また未だ基盤が堅固とは言えない地場企業はむしろ世界の先進・先端企業が持つ技術に触れる機会に接し、こちらの方が重要であり刺激を受けたと考えます。
現実をみれば既に安価な労働力の供給先という訴求方法は害になるだけです。
原材料・素材の獲得や自国での生産を念頭に置いて、ハイテク製品や高品質・高付加価値部品の供給体制は、安定かつ完璧と発信できるだけの能力を如何に装備するか。民間任せではなく、政策として本気で方向を出して実行しなければ委託製造はおろか協力体制でさえも信頼を無くすことになります。
政府が先進工業国へと発展するために目論むとする海外からの技術やノウハウも移転もされなくなり、世界的部品供給網など成し得ないことは明らかです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生