テトは開けたけれど

2022年5月17日(火)

今年のテト(旧正月)は1月29日から2月6日まで9日間の連休。徐々に長くなってきています。これまでさえ零細企業、個人商店など短くても2週間は休むため、恩恵に与れるのは公務員とか大企業などに勤務する人たち。
気になるのは帰郷した従業員がどれだけ戻ってくるか。まして南部主要地域はCOVID-19感染が最も酷かったため、早々と故郷に戻った人の中には怖くて仕事に戻らないため都市部では人手が足りない状況が続いていたのです。

政府はテト明け、授業再開に併せてファイザー社へワクチンを2200万回分の供給を要請。5歳~11歳の児童へ予防接種を可能にするとの方針を発表。なお12歳~17歳の生徒90%は既に二回摂取済みとなっている。
保健省はテト期間中、人の移動が拡大したことで経済活動が徐々に回復するも、並行して感染者、重症者が増加していることを認めています。
これはオミクロン株が出現し、社会活動が再開するにつれて地域社会へ感染を広げる可能性が高いことを示唆するのですが、一方でベトナムエキスプレスに拠ると、政府は事前に予測された範囲であり、デルタ株の際にワクチン接種が進んでいる。このため市民が感染予防5Kを守っている限り、それほど感染者の増加は心配するものでは無いと強気の姿勢を崩していません。
しかし世界各国の状況をみればこれは全くの錯誤であり、日本の状況では僅か1か月間でこれまでの感染者累計の2倍を悠に超えて急増。高齢者を中心に、しかも二回接種者でも多数の重症・死亡者が出ているため楽観視し過ぎ。
これは認識が甘いか、経済回復を優先するための抗弁なのか。それにしろ必ずしも安心できる訳でなく得意のプロパガンダかだが、そうはいかない。

保健省にかつて在籍した大学教師に拠ると、テト後に感染者が増えている原因はテト休暇中の人的交流にあると断言。また多くのワーカーや学生が都会へ戻って検査を受けたため拡大したと報じているが、いまさらながらの感。
やはり人の移動が主要因。現在ベトナムはウイッズコロナ策を採り柔軟に対応するために規制を緩和していますが、これは後に述べて行く経済成長を促すがための行動であることに違いありません。
事実ハノイのバックマイ病院の要職にある医師が語る所でも、COVID-19は通常の病気のひとつであると考え、もはや未知の病ではなく、恐ろしくもなく万一感染すれば家庭で治療できると公言する。オミクロン株でさえ軽症でそれほど不安視はしておらず、人々の生活や社会経済活動に悪影響を及ぼさない対策が求められるとある。ならば一年前の強硬策は何だった?と訝るが、一見妥当とも受け取られ兼ねない余りにも政治的に忖度されたような言動だと感じます。
同様の発言は日本でも厚労省の元技官もしており、見解の相違はあるとしても医療専門家なのに畑違いの経済にまで踏み込んだ話に納得できるものではなく、思惑通りに収まるはずがあり得ないのは誰もが承知していることです。

・実習生に関連して

この様な発言に後を押され、日本へ実習生を早く送り出したいベトナム労働者派遣協会は、日本政府が昨年11月から入国を全面停止しているため、日本へ行く準備をしているものの足止めを食らっている実習生数万人の入国を認めるよう要望を出しています。昨年は約30%減の19510人に留まっているため、政府ともども何としてでも労働輸出目標を達成したいのが本音の模様。
日本の受け入れ先としても何とか労働者不足を解決したいのは山々だが、かといって実習生だけ足抜けの如く安易に結論を出すべき筋合いはありません。

それよりも重要なのは日越双方で問題視されている事案を先送りせず、一度立ち止まって制度の欠陥を見直し、国の施策として確固たる方針を出さなければ禍根を抱えたまま未解決状態に終始する。これに関してご承知との前提で省略。フリージャーナリストと称する複数の方の記事をみると、立場の弱い者を擁護する正義感に溢れているのは結構な事。これをどうこう言う積りはありません。
だが殊にベトナム人の犯罪が多い事に触れ、彼らは不本意ながら反社会的行為に手を染めなければ生きて行けない、とのコメントを引き出して賛意しているがそれは間違い。単なる我儘、稚拙な言い訳にしか過ぎない。犯罪を正当化するこじ付けは卑怯、法治国で通用する道理などはないと身勝手を戒めるべき。
令和2年度、外国人犯罪の検挙者は11,756人。この内一位のベトナム人は4219人で約36%を占める。だが同胞間の殺人傷害、悪質極まる窃盗等が多く、連日全国ニュースで報じるベトナム人犯罪は氷山の一角に過ぎません。

もちろん雇用主に責任がある不法行為もある。取り分け労災事故など労基署へ届け出たくない気持ちがあるのは事実。イジメも度が過ぎれば刑事事件になるので程々で止めている悪質な企業もある。だが全てそうだと言えず相手が規則や手順を守らなかった故の事故も増えている実態。これは段々とレベルが低下している事情が背景にあり、派遣側の教育・指導能力欠如に依拠します。
こうした実態を深く知らず、一方的な見解を元に記事にするのは正当では無い。
過去からの経緯を知る者からして、また送り出し機関、受け入れ機関の双方に繋がりを持つ者に取れば、両者に問題がある場合が多いように感じる。まして日本離れが進むなどと論理性が無く感情的な脅まがいは偏見を助長するだけ。
双方ともあまりにも期待し過ぎた結果がとどのつまり。幻想が現実になると、かたや実務が出来るレベルに達していないうえに勉強しない。こなた一生懸命働いているのに評価されず賃金も低い。次第に齟齬が生れる。人に頼らない、期待し過ぎはいけない、他人と比較をしない。不幸にならない為の三原則です。
ジャーナリストに至っては現地事情も知らず悪戯に先入観を持ってはいけない。
鬼の首を取った如く、正義面をしてネガティブに偏ってはなりません。曇った眼鏡越しや知った被りするから制度を誤認、正しく評価できないからお涙頂戴。一方的ヒアリングで木を見て森を見させる。言い分は両者にあり、このままでは何ら進展はない。
上手く機能している事業者や、真面目に仕事しているのが大多数。この人達がバカを見る。
うやむやにすればするほど社会や現場では収拾がつかなくなるが、根本原因は日越双方の政府・行政にある。これを認識して訴求すべきです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生