ベトナムは自動車産業の発展を期待したいが 部品等の国産化がネック

2021年3月15日(月)

ベトナム国内メディアが、ベトナム政府が育成に力を注ぐ自動車産業の事情を掲載していました。しかしこれは提灯記事ではありません。
昨年のこと、国内初の自動車製造工場着工式には首相が自ら出席するほど熱心。報道では自場企業が如何にも車を造っていると言いたげだったが、胸を張ってそう言えないのが実情で、簡単に行く訳がない。
現地事情を知っているなら誰もが感じるが、何しろ工業部品を造れる裾野産業が育っていません。現地調達率が極めて低いのは進出企業共通の悩みどころ。
この自動車産業にしても全く同じことが言え、多くは自国で製造できないため輸入しなければならない。自動車製造に必要な部品は約3万点と言われますが、これに必要な精密部品、電装品を専門に製造できる工場があるわけでは無い。さらに部品を作る上での素材さえ調達できない、職人も居ないのが実態。これなら「製造」というより最も得意とするワーカーの人海作戦「組み立て作業」という方が正解。昨年の販売は合計29,485台だったとされるが、ただでは国産車?が売れず、予約販売や記念セールとか打ち出して、値引きしなければ販売台数は稼げない。しかし売れるほどに赤字拡大が現状のはずです。

最初は自動車生産の規模が小さいのがどの国でも同じ、そこから大きくなってゆくので問題は無い。だが無理やり急成長させようと焦りが見えるが大丈夫?自動車を造れることが先進工業国へ成長する重要ステップなのは確かです。
アジアでは日本以外に韓国と一部台湾も製造するが、部品の多くは日本製だし、マレーシアやインドネシアの国民車は日本企業が支援、日本車がベースだった。ところが基本的には見栄っ張りの国。とても此処までの工業力がない事は先刻承知なので、設計、デザイン、エンジン等の基幹部分を外国の専門家に依頼。プレス機等の機械に、精密部品、ギアや制御システムに至っては何の事は無い80%以上が輸入品の寄せ集め故にコスト高。この種明かしは誰もが知っている。

記事にはこういう事情を踏まえ、自動車産業の発展を阻むのが輸入部品であり、近隣国より価格は10~20%高くなる原因とある。
要は国民が高い物を買わされているのだが、企業に歴史は無くノウハウの蓄積もないため品質への信頼は当然ない。走行テストをするにも適切な施設がないためヨーロッパで行ったとあります。重要な研究開発はやっと稼働させる状態。如何なるメーカーでも新車種を出せば暫くは性能評価やトラブルがないか戦々恐々。入念に定期点検を実施して問題がないか調べるほどで、トヨタのヤリスでさえ最近リコールに繋がったが、こうして信用を得てゆきます。
V社企画の自動車レースはCOVID-19禍で中止。こんなパフォーマンスをしても無理。日本メーカーが世界のレースに参戦したのは純粋に車の耐久性能を過酷な場で検証する為。こうした積年の企業努力と姿勢が安全で故障しないという品質への信頼、絶対評価が生まれるのです。

・国内市場の競争力引き上げをとの意見はあるが 無駄な努力かも

2025年にはベトナムの年間販売台数は年間100万台になる、との予想をベトナム自動車工業会が出していますが、正しくは期待値。
このためには国内部品産業を育成し、国内調達率を45%、さらに2030年までには70%に引き上げるとしているが現実は厳しいとの見方。要求を満たせる部品を造れる力はなく、タイと比較すれば現在使用する部品価格は2~3倍になる現状。金属、プラスチック製品であれ競争にはならないとしています。

現在は化石燃料を使うエンジン車だがEV車が台頭する日も近い。日本企業は出遅れていて、脱炭素問題の是非はともかく日本排除を目的に欧米の技術基準に統一されてしまうと数年でトップの座を奪われる事態になる恐れがある。
課題はあるにしろ現在日系EV車は世界10社に入っていない現状。

EV車は構造が簡単。根本的に部品点数は少なくなり、資金が続けば如何なる業種でも参入し易い。そうなれば車の命はモーターとバッテリー、電子部品。こうなると必死になって部品メーカーを育成しようと目論んでも意味はない。
モーターで世界トップのニデックは、EV車の普及をにらんだ強化を図るし、日本の発明である蓄電池。軽量・小型化や長寿命の全固定電池へと進化し日本の特許権数は世界一。安全性からすれば火を噴く様なKブランド製品と比較にならない。半導体も復活の兆しが無くはない。

こうした世界の情勢の中、記事は国産化のメリットがないと言い切る。ただでさえ基盤がない所に無理をしてまで国産化は必要か?と真っ当な意見もある。
現在でさえ、国内で製造できる部品は品質への安全性からワイパーや風除け等々、特段技術が必要のない物ばかりと部品関係者は不満だが、地場企業には資本や技術の蓄積は無く、R&Dも進まない現状。時代の潮流に逆らえません。
タイヤは韓国や中国から企業が進出して生産しているし、ワイヤーハーネスやシートは古くから日本企業が進出。さらに日本からアクリル板を輸入して日本メーカーが加工、世界各国の有名自動車に装備する製品を輸出しています。
こういう風に多くの主要車部品産業が、優秀な技術を以ってベトナム国内の保税区で生産しているので、免税措置を行って組み入れる方が得策と言えます。
政府は国内自動車産業を支援するため、2017年以降関連企業へ5億ドルの税額還付を行っているという。識者はベトナム企業が名乗りを上げるのなら、世界のバリューチェーンに参加する位の努力が必要だと賢察している。
ここまではいいが、外資系企業には国内市場への参入の際に技術供与や素材のノウハウを提供することを求めるとしている。所詮は他人の褌。そんな甘い考えなど通用せず馬鹿げているが理念や矜持が無いのか。普段の地が出たとしか言えない恥ずかしい話。こんな事では先進工業国に成れるはずはありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生