外国人観光客受け入れ始まる

2022年6月7日(火)

前回に示した通り、観光はベトナム経済を大きく支える柱のひとつ。そのため一時停止していた外国人の入国ビザ免除を復活、3月15日から外国人観光客の全面的受け入れを決定しました。免除されていた国とは日本、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、韓国、ロシア、ベラルーシの13ヵ国で、現在の状況からロシア人専門の旅行社は既にロシア人観光客の取り扱いを当面の間停止している。実質的に意味はないが、外す訳にはいかないオトナの事情が垣間見られます。だがこの先の見通しは立たないし、露国通貨の大幅安が続けば旅行代金が上るため、かなり困難な状況を迎える事に相違ありません。来越したロシア人観光客は幸運にもこの会社が手配したチャーター機で300名が帰国しており、タイに留め置かれた約3000人ものロシア人と異なり好待遇を受けたと報じられています。
では入国に関連する取り扱いはどうなるのか。報道に拠れば出発地で陰性である証明書があれば入国時の検査、待機期間は必要が無いとされています。また一部の有名観光地では、管轄省がワクチンパスポートの提示を求めないなどのソフトな対応を行ない楽しんでもらおうとする姿勢も打ち出しているのだが。
ところがこうした状況に異論を唱えたのが保健省。当然と言えばそうなのだが、役目柄、ハイ分りました、ごもっともと言える立場ではありません。保健省が求める感染予防策では観光客は宿泊先から外出する際、入国時から72時間を経過するまでは毎日PCR検査の義務付けを求めているのです。また高齢者には旅行を推奨しないなど要求は厳しいもの。これはいくら何でも行き過ぎであって、外国人観光客は来るわけがないと反発が起きるのは当然です。しかし政府のガイドラインでは、国内の社会・経済回復と発展を促進するため柔軟に適応し、効果的に制御して行く戦略を実施するとの見解を記載している。
この解禁は外国人労働者が入国することでビジネスと経済が回り、人的交流が活性化されて投資機会が提供されるとして大歓迎。各当局が政府の指示を実行する様に努力をする。保健省には政府と情報を共有するとあるが、何れの国でも行なわれている答弁の繰り返し。如何に切羽詰まっているか明らかです。

・変わる観光 地域に根差したCBTに転換

前回のコラムでも触れたが、COVID-19を切掛けにして新しいトレンドとなるのが地域住民を主体にしたコミュニティー・ベイスド・ツーリズム。即ちCBTだが、隣国にはベトナム人団体客が押し寄せていた。行きはヨイヨイなのかな。
ベトナムでCBTは盛んとされ地域再生の切り札の一つとして2015年から始まり、7年の間で観光総局に拠ると約300カ所の村落で行なわれており、山岳地域や沿岸部では収入増加や産業発展に寄与していると胸を張っている。
ベトナムの観光開発は世界から出遅れたが、むしろそのため多くの地域で個性豊かな歴史遺産、伝統文化が残されCBTに繋がっていると考えられます。
これを有効活用しビジネスモデルとして生活改善に結びつけると言うのが政府の思惑で、25年までの行動計画を纏め財政支出や雇用創出、人材育成を支援する方針を出しました。だが観光業界では離職が増えて人が戻らないのが現状。
観光開発で産業が発展するなどで雇用が生れ、寒村が貧困から抜けだせることが出来、等しく教育が受けられるチャンスが出れば目的遂行。これまで能力はあっても不幸な実態を随分見てきた。一方で環境破壊が起こらない様な方策、然るべき保全策を講じなければ、何れ社会問題となってくるのは目に見える。
旅行者にも意識や価値観に変化が見られ、旅に求めるものが違ってきており、多様化している今の時代。選択肢が増えるのは誠に結構なことです。
このCBTのはしりと言えば、HCM市郊外のクチ・トンネルかも知れない。日越経済交流センターの創始者で大学の先輩でもあった人見美喜男氏が埋もれた観光資源だと開発をHCM市に提案。その功績で名誉市民第一号になったのです。観光用に外国人が入れるように広げられたが、それまでは歴史的構築物を活用するなどの思考は無く荒れ果てたまま。また5区チョロン地区の歴史的建造物も都市化の波にのまれ解体の憂き目にあっている訳は京町家と同じ保存する上での困難さ。維持費用に問題があり所有者と行政が認識の違いで平行線。行政が郷土の誇りとして歴史と生活文化を伝承し、末代に残す責任があるのに気概と思想に欠ける。知恵と賢策が無ければ志ある民間に委ねるべきだが外国企業に買収され、ビジネスの道具として供されているのは忍びない。
ベトナムの観光地開発は民間資本主導型で、益々大型投資の高級リゾート化。今なお外国資本参入が続いているも、自然環境を変え人工的な演出過剰がみえみえ。良く言えば新しい価値の創造に違いないが、外国の焼き直しそのもので、独自のコンセプトや「らしさ」はまだ必要。植民地時代の別荘、歴史ある民家で宿泊など一部にあるが小規模で文化保存という視点は乏しい。何処でも本物は敢えて主張しなくても存在感や品と風格が備わっており、人を魅了します。
ビジネス交流会で出会った経営者は事業経験がなく手法も知らないのが実態。土地を保有するのみで開発ノウハウや技術、企画力を持たず日本の協力企業を紹介して欲しいと資金や運営も含め、おんぶに抱っこという共通点が抜けない。
感性や民族性の違いか、豊かさの価値は国地域で異なる。日本は伝統的に自然と混然一体となる思想や精神文化が風俗習慣として根付き空間を大切にします。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生