生産活動が再開

2022年5月19日(木)

テト明け7日、国内線は多くの乗客で賑わったと報じられており、HCM市のタンソンニャット空港は一日だけで乗降客が102万人。テト期間中ベトナム航空国内便は1000便以上運行させたとあり、これでも平常時の7割ほど。知らぬ間に飛行機を帰省に利用する人達がこれ程まで多くなったのは時の流れ。
しかしこの人の移動が曲者。感染者が増えないようにと思うのですが、政府は規制緩和で経済を成長軌道に戻す方針です。そこで一計を案じたのが1月からCOVID-19のリスク評価基準を変更、感染者数でなく重症者と死亡者数にするとしました。都合のいい身替りの速さと言えばそれまでだが、テト明け後の感染増を見越してのことに相違ありません。昨年の第3四半期は過去最大のマイナス成長を記録。厳しい都市封鎖が主原因だとして、この弊害をなくすため昨年10月にウイッズコロナ策に転じました。禁止していた飲食店での店内飲食や時間制限撤廃、公共交通機関の再開、その他のサービス業でも営業を認めると180度の宗旨替えをおこなったのです。我々は大丈夫、と鉄壁の規制でタカをくくっていたのだが、余程痛かったのか切羽詰まった末の妙策。以前の厳しい規制には戻らないと国内のみならず海外企業も受け止めているが、正解なのかは喉元をすぎないと分りません。
各企業の生産に好調の兆しがあると計画投資省では見ています。これは今年に入った1月、新規設立企業は昨年同期に比べ28,9%増加の13004社。また事業を再開した企業は194%増、19121社となったとあり、過去最高と統計総局が発表。解散した企業は3,3%減、2025社。手続き中26,5%増の7084社。一時休止は62%増加、29255社となっていて、これはCOVID-19の影響かと考えられます。
しかしこれが切掛けとなり政府は描くデジタル化の傾向の中、若い人の起業が増えているとの事情から事業転換が起きている可能性も否めず、分析が正しければ思い通りの、極めていい方向に進んでいると言えます。
各地域の工業団地や輸出加工区の国内外企業では、テト明けから生産が順調に稼働しているとの報告があります。COVID-19の影響が著しかった南部では思うほど心配する必要が無かったとされ、ビンユン省に進出する外資系企業数百社で約90%の企業で以前の100%稼働状況に戻ったとある。
ロンアン省では経済地区管理委員会が調査したところ、およそ1500社での工場勤務者が95%戻ったとあり、ほっと一息というところ。またドンナイ省でも約95%のワーカーが職場に復帰して、すでに就業しているとあります。
これまでもテト休暇中に罪悪感もなく平然と他社へ移るという伝統的シキタリとも思える状況にあったが、このような話題が本当なら画期的なこと。
即ち企業には風土が無く、帰属意識も定着することも殆どなく少しでも賃金が高いところへ誘導されるのだが、こんな事態ならば、企業にとっても安定した生産管理や品質向上が期待出来るため喜ばしいことです。
ハノイ市労働連盟の調査で新年明けには事業が再開されていますが、此処でも96%もの人が輸出加工区の工場に戻っているとある。これには仕掛けが用意され、新年のお年玉や、地方に帰郷した労働者には交通費を支給した成果だとされています。人手確保のため、他にも臨時賞与を出す企業も現れました。

・2022年は経済回復なるか

VOV5 ベトナムの声放送は、2022年ベトナム企業回復を加速と題してコメントを表しています。
これには2022年は企業の生産経営の成長が約束されている。新型コロナにより企業の成長力は7~8%に低下したけれど、今後成長率を引き上げるため、政府は生産経営活動の再構築や、成長の回復を目指す一連の政策を打ち出し、企業の発展に原動力を作り出し、COVID-19発生前の成長を回復させ失ったものを取り戻す。なおこれを達成するため、企業は100%から200%尽力しなければなりません。そうできないと銀行は貸出を取り戻し、企業の規模が縮小され、労働者は企業に対する信頼を失い、労働者の企業離れの恐れがある。とコメントしています。

・経済発展に欠かせない自由貿易協定

これまでに締結されたFTAによってベトナムは経済発展の機会に恵まれたと言えます。2021年の貿易総額は6685億ドルに達し、20年に比べ22,6%増。この内外資系企業が関与する額は4634億ドルとされています。
商工省の統計に拠れば、EU向けの輸出額が10,6%伸び、英国へは14,5%増となっています。またTPP加盟国への輸出も急増、中でもペルーへは84,3%、メキシコ43,9%、カナダが17,6%増となりました。これまで実績が乏しかった国との貿易が進んだ結果であり、当初から描いていたシナリオ通りに成功していることが伺え、新しく発効したRCEPが新たに加わると大きな力となり、一層の貿易額が増加すると目論んでいる。
ベトナムはFTAを巧みに取り入れ、海外との貿易に効果的に活用して輸出を増やして力を付けてきたことが分ります。
FTAを締結するメリットは、単に数字としての輸出量・額を増やした事だけではなく、先進相手国の厳しい品質基準をクリアできるまで製品の品質向上が出来たことです。これに拠り新たな輸出国へアプローチが可能になり開拓できたわけで、得意分野である農水産・加工品や、靴・履物、繊維・アパレル製品、このところは海外企業の製品も含む工業製品に及ぶようになりました。
ベトナムにとって二国間の自由貿易協定締結は極めて重要であり、経済・社会に与える影響は大きいとの証明です。
これから目指すべきはオンラインを活用した商取引や貿易振興、製品のPRや販促などマーケティングを積極的に進め、FTAのメリットを効果的に生かし輸出強化を図ることです。
また根本的な課題として、海外進出企業に頼ることなく自国企業が研究開発を行ない製品化した商品を本当の意味でMADE IN VIETNAとして誇らしく輸出することです。また一次産品や工業製品のみならず、産業構造の変換の中で若い人が運営する企業のITやソフトを輸出することが可能になってくるはず。
さらに新しい投資を呼び込むことも国際市場でのベトナムへの信頼と地位を高めることになります。これは単に輸出を拡大すると言うものでは無く、企業のR&D体制の強化と向上、また雇用を増やすことに繋がります。そうなって初めて国際的サプライチェーンへの本格参入をなし得ます。奇しくもCOVID-19がベトナムに供給網への期待を世界に発信したが、反対に脆弱さを見事に露呈する羽目になってしまった。以前から指摘されてきたことながら、経済が発展を続けてきたことをあたかも自らの国力と、企業力だと錯覚したきらいを感じる。
こうした反省に立って国内企業の競争力を上げること。そのためには製品力、即ち研究開発力、品質管理力、安定した供給力、多品種少量生産に対応できる能力、納期厳守、企画力、ワーカーの質的向上などが大切な要件になってくる。
世界の先進国へ肩を並べる、それには挑戦も必要だし、このためには資金力も適正な人材も確保しなければ一朝一夕に成し得るものでなく、付け焼刃になる。
たまたまCOVID-19は天啓の恵み。刷新と転換期と捉える、こうしたポジティブな姿勢も運のひとつ。新しい世代の、最先端のビジネス戦略理論と経験を装備した知恵のある若い経営者が台頭することで達成は可能だと考えます。
事実この様な動きが出てきており、例えばこれまで日本企業はベトナムへ進出するばかり。これを時の政府は大歓迎。更なる投資を世界から受け入れてきた。
もはやこのような考え方は旧い。能力のある人たちが海外へ留学しベトナムにはなかった知識を吸収し、幅広い海外人脈を形成してきました。語学を活かしリッケイ・ソフトの様な新ビジネスを立ち上げて成功している実例があります。
これからはまさにこの時代。変わろうとしている実態を知るべき。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生