先頃ニュースで報じられたのが、ベトナム人の年間牛乳消費量の調査結果。
ベトナム乳業協会に拠れば、一人当たりの年間牛乳消費量は約27リットルとなっており、その年平均成長率が7~8%になるとしています。
2020年の乳業市場での売上高は113兆7000億VND(約6380億円)。COVID-19禍でも影響はなかったとされ、2021年は119兆3000億VND(約6700億円)、10,5%の伸びとなったと推定。
統計総局に拠れば、2021年度の全国での飲用乳の生産量は、前年比で4,5%伸びて17億7010万キロリットル。粉ミルクが13,1%増加し15万1500トン、原乳は10,5%の伸びで120万トン。
また一頭当たり年間搾乳量は4,76トンと、10年前の3トンに比べ1,6倍ほどに伸び。さらに乳製品の輸出額はおよそ3億ドル(約380億円)。
さて、こんな時代になったのか!と思うのだが。日本と国交を回復した当時、ハノイに駐在した方が書いていらした本に、乳幼児も連れて行ったが、何しろ新鮮なミルクが手に入らない。くまなく探してようやくダラット産を買ったが温度管理が悪く臭いがする。とあった。何でこんな遠くから?ハノイといえば日本と気候が違うし、さらに物資自体が不足しており、ミルクを飲む事など一般人は考えられません。当時の状況では無理からぬことかもしれない。
日本では由緒ある老舗など事業を閉鎖。殆ど大手の独断場、幾つかの地方メーカーはアイデアと独自の製品力で生き残っています。
私が1999年にHCM市へ赴き、1区にあった唯一のスーパー・COOP MARTに出かけたが、牛乳やヨーグルトなど乳製品の置き場所は一応冷蔵ケースにあった。だがこの温度管理が出来ず他の冷凍食品等も溶けた状態で放置したまま。家に冷蔵庫が無いので分らず、仕方ないけれど誰も気にしないのは国民性。
20数年程前には豊かな家庭や外国人が住む家にあるが、一般家庭に冷蔵庫は普及していない。あったとしても精々無理して買った中古品。しかも電気代が勿体ないからワザと玄関の正面に鎮座しているが、ミエのカタマリでしかない物体。従って中にあるのは普通の食品と、笑うしかない時代でした。
知人の奥さんが市場で商売をしていた。自宅でBANH FLAN(プリン)を作って売っていたけれど冷蔵庫が無いので氷。だがとんでもなく美味。
この家、一区にあって観光客に部屋を貸していた。中々親切なので人気があり、青年海外協力隊でタイに居た邦人が久しぶりに来越。転居先の家に泊まったが友達だから宿泊費は取らないという。当時私が電気店をしていたので中古の冷蔵庫を宿代かわりにプレゼントしたのです。彼女は大喜び。
牛乳と言えば知人の奥さん。とんでもない辺境の出と聞く。一人息子にせめて満足な食事をと毎日1Lの牛乳を飲ませた。その甲斐あって日本語・VN語、英語、中国語に堪能。台湾大学医学部に進学したが、子供の時から知っているあのY君がね!この親にして鳶が鷹を生んだ。
さてHCM市に株式取引所が出来たのが2001年頃だったか、人気があった株式は1976年設立の国営企業、東南アジアでトップのあのビナ・ミルク社。社長は女性ということで話題にも上った優良企業、学生にも人気NO1でした。誰もがスーパーで購入するのがこの会社の牛乳にヨーグルト。だが多くの人は分らないけれど、同社が牧場を持っていて其処で朝に採れた新鮮生乳を使っている訳ではありません。輸入した練乳とか粉ミルク等アレやコレを加えた製品。なので、普通に日本で買う成分調整牛乳以上に造られた還元牛乳、常温可能のLL牛乳。これは日本のようにコールド物流が整備できていない理由もあるが、乳製品の致命的欠陥でもある。
この似非に舌を慣らされたベトナム人。本物の牛乳が飲めなくなったのです。他に売っているのはニュージーランドの製品。この方がまだいい。
新空港ができるロンタン。ここに牧場があって、乳牛から搾った本物の牛乳が飲めるけれど、HCM市内でも販売している。これを体に良いからとベトナム人の子供に飲ませたが、一口含んで飲めない。お口に合わず臭くてイヤという。低温殺菌技術が無いのです。ところが日本から持って行ったミルキーは美味しいと言う。このロンタン牧場、HCM市からブンタウへ行く途中にある。近所に工業団地が出来、国道も随分良くなった。多くの車やバスが来るレストランが出来て此処でも牧場が造ったミルク飴が人気商品だが、確かに美味。
最近人気の業界2番手TH社のミルクやヨーグルト。2006年設立の新しい企業で、私もこの会社のtrueMILKを買っていました。このTHの社長も女性。THAI HUONGさんというが、女性の戦いはどちらに軍配が上がるか?
成長するベトナムの乳製品市場だが、牛乳80%、ヨーグルト20%と多様化は進んでいないが、これで精いっぱい。
課題は生乳確保と品質向上、冷蔵チェーンという物流。すでにVM社もTH社も国内で生乳確保のため乳牛を輸入して自社牧場を整備しつつあるは何時までもごまかしは利きません。10年ほど前のデータだがVM社の保有する乳牛は1万頭、これに対してTH社は4万頭と水をあけている。政府の目標は50万頭だが達成は簡単ではなさそう。まず牧場の整備とか、飼育の技術、製造機械など莫大な金が掛るし、飼料も国産で賄えない問題が。
それ以上に食の安全とか、trueが示す通り本物志向で業界2位に急成長したのは、消費者の舌が肥えてきたのでTH社の姿勢が認められたからと考えます。VM社はこれまでの経営姿勢に甘んじて数歩遅れた。時代はどんどん変化する。
ベトナム企業に国営企業などの多くは経営理念が無くマーケティングも疎いがビジネスでは根本的な問題。
ある時、現地の農業生産企業から、日本に在住するベトナム人コンサルタントを通じて日本人の農業専門家を紹介して欲しいと依頼があった。
都合よくHCM市に在住する私の友人が農業大学卒業。家業は山梨の葡萄農家でワイン醸造家。彼の叔父貴が此処で食品関係の企業を経営しているので醸造専門家として請われて来た訳です。
その経営者と面談。彼女が借りている農場はHCM市の近郊にある省。
此処でベトナムが直面している牧畜を行ない、其の堆肥で有機農業が出来る。また農場にテーマ性を持った6次産業というシナリオを将来の展望として提案。
このために日本で彼の知り合いを訪ねて知識を広げる。こんなやり取りをした。
目先のことはできるが目標設定や将来構想が出来ないベトナム人経営者。また基盤は弱くR&D、好奇心に欠けている。目の前に専門家が居るのに事業機会を潰しているのです。5月下旬、VM社は新しい牧場を北部で作ったとの報道。観光牧場の様な施設もある様だが、先に手を付けていればベトナム第一号の施設になったのだが、理念が無く先進国の実情をも知ろうとせず現状満足。これでは成長できない。
日本企業にとって参入余地があるこの乳製品業界、伸びしろは大きい。しかも品質や製品の多様化、高級化は見込める。が何より生乳と冷蔵物流など解決すべき課題は山積。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生