ベトナムで躍進するタイ小売企業

2022年9月14日(水)

タイ小売企業がベトナムで活躍、急速に業績を伸ばしています。
微笑みの国タイはアジアの中でも日本企業が数多く進出している。植民地として支配された訳ではなく、日本と同じ立憲君主国であり、自由主義国でもある。企業に必要な人材が集積していることなども日本企業が操業する理由のひとつかもしれません。近代化もベトナムより早く、工業製品の製造力も一歩先んじているのが実情と考えて無理はありません。

一つのニュースがありました。ベトナムは発展途上だが急速に経済成長が進み、国民の所得もどんどん良くなっている。豊かになって行く段階にあれば人は良い生活をしたい。TVで放映されるアチコチの海外ドラマを観ると、何と素晴らしく豊かな憧れの生活が飛び込んでくる。まして近くの同じアセアン諸国であれば尚更のこと、やればできる。海外へ行く人が増え、帰国すると夢がますます現実ものとなってきます。なおさらアメリカに親戚・知人や友人が移住していると、表向きでも故郷に錦を飾れば完全にノックアウト、激震が走ります。世界にこんな素敵な暮しがあったのか、と直ぐにも飛んで行きたい気分になる。
10年以上も前であれば実習生で日本などに行くと、その仕送りで家を新築できるなんて羨望の的、神話に近いものが存在していたのです。

生活様式に変化が起きると綺麗な良い服を着たい、化粧したいとか、電気製品を揃えたい。もちろんバイクやスクーターも新車に乗り換え、金が出来れば車も買いたい。ごく自然な事です。美味しい食事、ファストフードにも憧れる。

・小売り流通の変遷

こうした中で、伝統的小売り形態である町の市場や露店商売から、スーパーが出現。暫くすると外国資本の大型ショッピングモールやコンビニエンスストアがどんどん増えて、若者を中心としてファッションに敏感な人が集まってくる。
小売り流通に大きな変化が現れる。初めは食品が中心だが品ぞろえが良くなってくる。はたまた電気製品の大型店も進出、町の電気屋さんからとって変わる素早い経緯がこの成長の過程にありました。

外国勢は日本、韓国、フランス系の商業流通企業。これが大都市圏から始まり、このところ地方へも進出攻勢をかけている。
力を付けた地場資本も栄枯盛衰や外国資本のM&B、資本提携としながらも、将来的に軍門に下るというシナリオで資本提携を結ぶ。こうした苦難を乗り越えて、商品戦略や出店戦略に運営ノウハウを吸収してきました。言い換えれば勢いシステムもなく店が大きくなっただけで、しかし基本はほぼ変わらない。
自宅に冷蔵庫が無い店員が冷凍食品を管理するなどできっこないのに、無理をするから溶けたままで販売しているなんて恥ずかしい状態が都心でありました。

ところがこの所状況が変化してきました。地場企業が力を持ってきて、外資系が不得意な地方へ進出し始めた。どんどん地方も変わって来て都市化の傾向。生活様式も段々と都市部と変わらなくなってきている。道路インフラや流通網が整備され時間軸が大幅に短縮されてきたことや、情報通信網が進化した結果かもしれません。

・タイ企業が本格的に出てきた

HCM市1区にあった電気量販店のグエンキム。ここもタイ企業に買われた。
幾つかの紆余曲折はあったけれどこんな歴史が続いた中から、今度はタイ小売大手のセントラル・グループがベトナム流通事業に日本円換算で1130億円を今年から2026年の5年間に追加投資、現地法人セントラル・リテールを通じて本格的に小売り流通事業に参入するとの報道がありました。これは即ち所得の向上と可処分所得の増大から消費性向が大きく変化したことに拠ります。

詳細は現在あるスーパー40店舗を55省・市に拡大し、現在ベトナムの国内シェア62%を握っているとされるが、売上高を邦貨換算で3800億円とする計画があること。
オンライン販売を強化。販売ウェブサイト、電子商取引がCOVID-19を契機としベトナムで急速に発展している現況を踏まえ、SNSなどのマルチチャンネルコマース・プラットフォームの開発を進めるとしています。
さらに小売り流通事業だけではなく、M&Aにより非食品事業や急激に価格が上昇している不動産事業にも参入する計画もしているようだが、これはVINグループが現在自動車を生産しているが、その創業はリゾートからであって、商業施設から住宅まで行い、爾後にリテール部門に参入したのとは反対の方向。
だがVINグループの商業はノウハウもなく、基本的に出店と売り上げに重点を置き、利益を無視した歪は戦略で失敗。これを食品企業でソビエト留学仲間のマサングループに売却した。しかし不採算店を受け取って後に事業を整理し、急速にコンビニはじめリテール部門を活性化しています。
こうなると、地方に強い地場企業、日本、韓国の老舗大手小売企業とアジアの対企業がベトナムで激突。熾烈な戦略と市場獲得競争が始まるという訳で、見ものでもあるのです。利益は結果として消費者にという事になる。
このセントラル、昨年に邦貨で250億円を投じ、ベトナム国内で店舗網拡大に向けたのです。既にGO!ブランドのスーパー、ランチーマートの名称でのスーパー、先ほどの電気量販店のグエンキム、ロビンス百貨店を展開している。
外国人観光客にも馴染みがあったBig Cも買収して、トップス・マートに店名を変更してしまったのです。

さらに今年に入ると、HCM市に隣接するビンユン省、此処で東急が省管轄のベカメックス社がJVで大規模な住宅団地を開発分譲しており、すでに日本のAEONと韓国・ロッテマートが開業している。そこへこのセントラルがベカメックス社と商業施設を共同で建設することになった。顧客にとっては競争が増えることでメリットはあるに違いない。しかし、これでは仁義がないと思われても仕方がないのだが、さて省の目論見はなにか?

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生