先行してきた海外ファーマシー勢と最も注目する国内複合企業

2023年2月1日(水)

随分前だが日本から現地の薬局事情を視察したいと、日本で全国展開する薬局チェーン店や製薬会社の若手後継ぎがHCM市のドラッグストアに個人薬房、病院を回りました。個人薬房のガラス越し販売方法には驚いていた。
この時には日本からココカラファインが進出しており、これまでの概念と違い開放棚に商品を並べ自由に顧客が選べたのです。万引きが日常なのでこの対策には大丈夫?と思ったのだが最近は見かけない。
この時に出店を始めたのがアメリカ系のガーディアン。今は主要都市に100店舗が出店している。
また現在では香港系のワトソンが自社ブランドを含めた日用品や化粧品を主体として、HCM市内を含む南部で8店舗を運営している。
日系はマツモトキヨシが出店したが、海外勢は自社ブランドを持つ強みがある。地場チェーン企業は、安定化して行くためにこうした独自の企画や商品開発が必須であり、如何に差別化が図れるかにかかってきます。
また法令上はコンビニにも医薬品販売が認められているため、ドラッグストアとの競合や熾烈な買収合戦も考えられ、市場での小売流通の再編成もあるかもしれません。
ともあれ、生活水準の向上に拠る食生活の変化、COVID-19の世界的感染により市民の健康への意識が高くなっている。こうした消費者の取り込みをどのように各社が経営戦略を講じるか注目したいところです。

・最も注目する企業 マサンの積極果敢で意欲的戦略

此処までにあげてきた各企業の歴史は比較的新しい。また初めから巨大企業でもありませんでした。しかし経済成長とともに業績を軌道に乗せ、急速に店舗展開を拡大してきた感があります。
なかで筆者が大いに関心を持つマサン。スーパーで見かけるインスタント麺の製造をして来たのが原点になっている。だが今はとんでもない優良企業に成長、個人消費者に近い業態の有名企業のM&Aを積極的に進めてきました。
人間の本来的欲求に最も近い食品からの出発で、現在は畜産飼料、飲料、鉱山、金融事業を手掛けるグループ。日常の生活をワントップでサービスする複合型小売店舗である「ウィン」を発表、年内にも100店舗を開設するとあります。
この店舗には食品販売とコンビニのウィンマート+とテコムバンク、カフェの人気店フックロン、ドラッグストア・ドクター・ウィン、移動通信サービスのReddiがテナントとして入ります。既に27店がオープンし、主にHCM市内とハノイ市に拠点を置くが、多店舗化で消費者の支出を抑えると共に時間の節約と高品質なサービスを提供して差別化を図りながらシェア拡大を狙うとある。
また店舗の外観デザインをフランスの超有名企業に依頼、ヨーロッパ風にしたというお洒落感覚は若い世代へ訴求、ファン化する戦略とみます。
こうなると外資系企業が何処まで太刀打ちできるのか見ものだが、この経営者はビジネスセンスに優れており、急速に地場企業が進化、力を付けていることに気が付く。
ではこの複合店舗のテナント。21年に茶・コーヒーのフックロンに20%の資本投下。9月に新興通信会社モビキャスト株式70%を取得、テコムバンクにも約20%出資しこれらを有機的に結んで生活に直結。小売店舗を核にしてトータルサービスを行うという多角化戦略。これで消費者を囲い込み離さない噛みつき亀作戦を展開する。アミューズメント性が高く、ついつい浪費させられる劇場型モールでなく、生活密着型は好意的に受け入れられるのでしょうか。
既存店の業務効率もグループ一体で挙げられるというが、ベトナムのこうした複合サービスは大都市でも事例はなく初の試み。これを22年度中に既存店で業態を変換して全店で3300~3600店舗体制へと持って行くというから、競合他社、或いはECにとっても脅威になるかも知れません。
今年の決算は210億円もの利益を計上。しかしM&Aと新規出店には資金が必要。このため資金調達を海外のファンドに求めており、アメリカ、アブダビ、中国・アリババ、韓国SKから20億ドル近い投資を得ています。さらに海外株式市場への上場を目論んでいるが、実現すればベトナム初となり知名度共に一層の事業拡大が見込まれます。

・拡がる安心のトレーサビリティー(生産流通履歴証明)

商品が何処で作られどう流通したか。これを明らかにするトレーサビリティーが関心を呼んでいる。日本人が発明したQRコードでスマホを使って商品履歴などを読み込むが、消費者にとっては偽物や粗悪品を排除するのにも有効だし、企業や生産者もグローバル化の中、サプライチェーンにとって必要不可欠です。
HCM市当局も積極的に取り組んできました。安心して安全な商品が購入できるというので2016年から試験的に野菜から取り組み始め、この認証を付けた野菜出荷量が現在約5倍にまで増加、市は19の市省の4300の畜産施設や130カ所の処理施設、400社の小売業者と提携し7000カ所の小売店でプロジェクトを実施。消費者にも意識向上の啓蒙活動をしていると言います。
この様に近代的小売り店舗では外観だけの見せかけの綺麗さではなく、急速に食の安全確保へ改革を行っており、内外ともに小売り流通業で大変化、進化が認められるのです。また此処数年来のこと急速に生産者・企業、大手小売業者、消費者という官民での意識的取り組みが見えてきます

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生