COVID-19沈静後 企業と不動産市場が直面している問題

2023年2月3日(金)

・経済が順調に回復していると報じられる反面

今年も余すところあとわずかとなりました。ベトナムのCOVID-19罹患者は全国で数百人、また死亡者も殆ど無しとの状況が連日続いている。この要因は定かでないにしろ、これで社会、経済が回れば良いことには違いありません。
ベトナムはアジアの国・地域で経済が最も顕著に回復している国とされ、当初に目標とした今年の経済成長率は政府をはじめとし、国際機関はもとより各国の銀行にコンサルタント会社までが上方修正を行っています。

また1~10月の統計に拠ると、国内の起業も前年比を大きく上回っているし、自動車販売台数増加率はアジア圏2位、国内では52%増と好調。国内小売額も前年比で20%を超えるなど内需も旺盛だと数字が示している。
輸出額は約16%の増加、輸入額では12%強の増加をしており、この黒字額は94億ドルに達していると報じられ、貿易も堅調であると評されています。
さらに海外からの直接投資は若干減少しているものの、実行額は前年を15%増加。新規投資より追加投資が目立っている。これは進出済企業が現地生産を増やしているためで、この先もこのような状態が続くものと思われます。
ただ欧米企業の進出はこれから増える可能性があるのではとされる一方、ドルの一人勝ちのような状況。ベトナムでも通貨VNDは下落、政府は政策金利を上げました。

エネルギーや食糧確保の問題から、各国で通貨安が起きている時代に、海外の進出先から母国へ帰趨という流れも一部にみられるが、単なる円安だからでは思想や長期戦略なきもので早計。それよりもヨレヨレ・ガタガタの我国政府は国家戦略をどう考えているのか、よく見えない方が問題です。
こうした中で3年間の沈黙の後、国内でベトナム進出セミナーが復活してきているが、またもや進出ブームが再燃するのでしょうか。

しかしベトナム国内に於ける産業構造の変化と消費の変化を併せて考慮すると、必ずしも企業業績は思っているほど順調でありません。
然るべきタイミングにどのような業種の進出やシフトが適切なのか、これまで以上に熟慮と判断が必要ではないかと考えます。
また日本円の極端かつ短期間での下落が国内外にどのように影響してゆくのか、全体を包括して慎重に観て行かないといけない局面になっているのです。

ここに来て先の記述と違い、必ずしも全てが順調に進んでいるという訳ではないという状況が露呈している。HCM市では地場企業がレイオフを始めたというニュースが出て来ました。株価は年初来の底値を更新するなどネガティブな話題など日本では報じられることは極めて少ないが、現地の複数の報道によればかなり詳細かつ連日報じられているのです。
水を差す訳ではありませんが、現地事情を真に知りたいとなればこうした現地から発信する記事にも目を通すのが良いと考えます。

つい最近の現地報に拠れば、ベトナム総同盟の統計から縫製業、靴・履物製造、木材加工など、ベトナムが得意とする二次産業分野で世界から受注が減少している影響がある。このため年末までに24万人が職を失う羽目になるとの懸念が深まっているとあります。
労働総同盟ではこうした業界において、労働力と労働時間の減少は世界経済の状況から判断すればさらに減って行くとみている。雇用を維持するため各企業は年次有給休暇を消化、さらに翌年分まで先取りしているという現状さえある。
問題は一国一企業がもたらすものでないため、出来れば労働争議やストライキはこの時期双方にメリットはなく避けたいと、各労働組合は解決策を検討する様に求めている。流石に単一の組合だけで解決できるような筋合いでは無く、総同盟の単なる棚上げでしかありません。

鞄・靴業界に拠れば第三四半期までで受注は既に30%の減少。9月以降も輸出が減少しているのは心配だが、打開策はあるのでしょうか。
また繊維業界でも同様で、注文が減少しているにも関わらず経営側はボーナス、食糧を始め、従業員に週4日の労働。しかも受注が減少するにつれ休日シフトを替えるなど苦慮している。何時か元に戻る。そんな時に従業員がいなくてはもの作りなどできないと、コストはかかっても従業員が安心して生活できるように努力しているという。これはCOVID-19の初期段階で故郷に戻った従業員が戻らなかった教訓から、市場が回復した時には直ぐに製造に取り掛かれる状態を維持するべく、あの手この手で辞めない様に引き留めている訳なのだが。

また深刻な問題が原材料・資材の調達。今更ではないが、原材料などの多くは輸入に頼っている現状。時には闇市場で2倍の価格で仕入れているとある。
こういう時にこそ知恵が必要。これまでと違い新しい市場に目を向け、新しく開拓した顧客のニーズに対応するため高品質化へ製品をシフト。あるいは反対に雇用を確保し、ラインを維持するために低価格製品を受け入れるとか、赤字を覚悟で機械を稼働させている所もあり千差万別という。
さらに授業員に別のラインも受け持たせるなど臨機応変に複数の仕事が可能になり、むしろ従業員のレベルが上がった工場もあると報じているが効果は続くのでしょうか。
この繊維業界でも10~30%受注減がある模様だが、これまでの経営手法と違い、従業員に無利子で貸し付けするとか、子供の育英奨学金を提供している企業も出てきたとある。こうした手厚い福利厚生の考え方が奇しくも出てきたのは怪我の功名かもしれないが、劣悪環境と長時間勤務を考えれば時代の進化も感じます。
しかし木材関係の企業はさらに苦しいという。多くの海外向けに雑貨など制作している木工企業があるビンユン省は7月以降軒並み30~50%受注が減少。いよいよ以って耐えられなくなり閉鎖している所も出てきたが、年末(テト)にかけてどうなるか。思案しても始まらない所まで来ている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生