労働問題 ② IT分野でも解雇が始まっている

2024年1月9日(火)

前回、HCM市で失業者が増えているとしました。しかしながら4月に遡って民間経済発展調査委員会なるもの(首相の行政改革諮問会議に属するという)が実施した調査がある。これに拠ると、輸出量の減少に拠る人員削減の波は、今年末まで続く可能性があると指摘していたが、対策を講じなかったのです。
調査に参加した企業9650社のうち、82%が下半期以降に事業を縮小せざるを得ない可能性があると回答している。また7300社以上は事業を継続するとしているけれど、しかし71%が人員削減の計画があると明確にしている。
最も多かった業種は建設と製造業だったことが判明しています。
また人員削減を実施している企業の多くは民間企業で、此の半数はHCM市とビンユン省で操業する企業であったという。
此の理由として、企業が直面している問題とは受注の減少であり、労働・社会傷病兵社会省も経済環境がこのまま回復しなければ、大規模な人員削減が行われる可能性に踏み込んでおり、危機感をあらわにしていたのです。
こうした状況は既に昨年に始まっており、アメリカ、EU、日本などの需要減の拠ってであり、昨年末にはかなりの企業が受注を失っています。
今年初めから、10月までにHCM市の企業約25,000社が操業を停止しており、前年同期比では約30%の増加。また10月までの輸出額は13,4%減であり、FDI誘致も32%減少しているという実態がある。
また製造業の在庫は前月比で4,1%増え、これは前年同期比で20,5%の増加となっている。取り分けアパレル関係や食品加工業で大幅な在庫が増えている。
こうした状況から、受注の減少を理由に市内の多くの企業が数千人規模で従業員を削減せざるを得なかったという。外資系企業のP社は9千人以上を解雇、また国内ガーメントのS社でも2千人を削減。経済ニュースが報じている。
HCM市人民委員会のマイ主席は、関連機関が失業者の転職支援を行うために職業訓練などのプログラムを策定すると述べ、また職業紹介やオンラインを使ったマッチングで失業者が就業し易い様に支援するとか、雇用センターは削減を行う企業に対応するため、専門チームを立ち上げて労働者へのサポートとか無料紹介を実施しているが、技術系にも解雇の波が訪れてきたのです。
失業者への就業支援に行政当局は努力しているが、前回の統計の通り単純労働者が多く訓練や能力には限界がある。同様の作業であればまだしも時代が要請する高度人材を育成するのは難しいのが現実。産業構造の変化を正面から受け止めて政府が本腰をあげなければ、解決するような簡単な問題ではありません。
日本でも同じ、企業が不況に陥ると、真っ先に現業労働者、中間管理職にしわ寄せがくる。経営責任がある役員や無能な部長クラスは保身と逃げの一手です。

・技術者のレイオフが拡がっている

HCM市だけではなく、ハノイでも解雇の嵐が訪れています。大手外資系IT企業で5年以上データ分析の専門家として勤務したH氏は、突然解雇されたと憤っている。市場は大きく変動しており、会社は実の所この2~3年はかなり厳しい環境に置かれていたが、今年になって財政的に厳しくなったという。
そこで管理職を中心に大量解雇を行なったとあるが、実際は準備万端の確信犯。
IT技術者の能力不足や、教育に関しては以前のコラムにあるが、技術系社員にもレイオフが起きているのが実態なのです。個人の実務能力もあるけれど、企業が世界的水準レベルを維持できないとなれば、このような抜き打ち的解雇もあるということで、日本的な終身雇用ではなくあっさりと首が飛びます。

現地報では、今年初めから国内のIT企業ではスタッフの採用を停止するとか、解雇が行われていたとあります。
IT関連の調査を行うレポートに拠れば、90%近くの企業が今年に50%程度のプログラマーの採用を計画しているが、予算は減少しており、多くの企業は採用コストを削減しているというのが現状。このため採用数を減らし、条件を高く設定して優秀な人材のみに絞り、大量に採用する所は少なくなったとある。
ベトナムIT事業環境は国際市場の影響を受けて明るい見通しでは無いという。
ベトナムのIT企業は製品を開発し、海外企業にアウトソーシングしているが、市場が縮小しており、ハイテク製品への投資も減少、製品開発は停滞している。
海外企業も困難な状況に変わりがなくパイが減少。このため採用も少なくなっており、給与も減額している状況にあるとしています。

情報通信省はこうした事業環境の中、今年上半期のIT関連の売り上げは前年同期比で9%減少していると発表。また世界経済の停滞という外的要因の他に、IT企業に勤務する社員の解雇は、急成長期を経て起きている「人材の浄化」の対象となっている。まさか政府がこんな本音を今更ながら言うなんて。だがそれって何のこと!
即ち、数年前からベトナムでIT市場が活況を呈してきたけれど、こうなると人材が必要になる。ところが国内にそんなに多くの人は居ない。急激な需要に間に合わせるため、多くの養成機関が素早く教育訓練を行ったのだが、これはまさに粗製乱造に近い状況。一部の学校ではわずか半年でプログラマーを速成、充分な経験やトレーニングを積ませずに企業へ送り込んだところもあるという。
こうした実態が今になって禍根を残し、基準レベルにも満たない能力しかない技術者がまともな業務が出来ず、解雇されていると説明しているというのだが、あれっ、ベトナム政府はIT立国を目指したのでは。何ともお粗末な話です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生