海老養殖池で汚泥発電 実証実験始まる

2024年7月11日(木)

日本企業と大学などの産学連携で、ベトナムの海老養殖池の脱酸素化と生産性向上を目指し、汚泥を使って電力を発電するシステムの実証実験を7月24日から現地企業が保有する養殖池で始める予定であると発表した。
これは東京の空調機企業と九州大学、工学院大学などで、国立研究開発法人  新エネルギー・産業技術総合開発機構の「脱炭素化・エネルギー転換に資する我が国技術の国際実証事業」なるものの助成を受けて実施するという。
現地記事でもこの実証実験は、三菱総合研究所を始め、日越の研究機関・民間企業より技術支援を受けており、両国間の産学連携を通じて日本の先進技術がベトナムの主要産業に大きく貢献することを期待されているとある。
この技術とは、循環型エネルギー創出ユニットと、海老増産ユニットからなる省エネ型海老養殖統合システムとよばれるもので新たに開発されたもの。
循環型エネルギー創出ユニットとは、養殖池で発生した汚泥にレモングラスの加工廃棄物を混合して発酵させ、生成されたバイオガスを燃料電池に供給して発電するというのです。
こうして作られた電力は、水に空気を送り込むバッキ装置などの養殖設備で使用されるため、循環型創出エネルギーであると評価される次第です。
海老増産ユニットはIoTデバイスを用い水中の酸素濃度、PHなどをセンサーで計測する他、プラットフォームを設計して養殖池の水質データ、バイオガスなどの状況を監視し、このデータ保存と可視化を行ないつつ、通知機能などのシステム構築を行うことで養殖環境と、海老の生育状況を分析する。こうすることで海老にとって最適な生存環境を創り出し養殖の効率化を目指すとある。

日本にも大量に輸入されているベトナム産の海老。多くは養殖されたもので、ベトナムではあらゆるところで養殖池が造られています。また海老は腐り易いいので池の近くに冷凍工場があり、採って直ぐに氷を入れ此処に運搬されます。
HCM市郊外や、メコンデルタ地域では盛んに養殖されているけれど、何しろしこたま暑いので養殖業者は抗生物質などの薬品を使用している場合もある。
こうしたことが原因となって、せっかく造った池は3年も経てばカチカチに硬くなり、放棄されたままになっています。使われなくなった池の土は白く変色しているので一見して分かるほど見事な醜態を見せていました。
海老の養殖がおこなわれているメコンデルタ地域は、中々雨が降らない理由もあって、水温が高いことにも原因はあるけれど生存率は平均57%程だという。
エサを与えるけれど、食い残しなど過剰分が腐敗することで水質が汚染され、ゴミなどが沈殿して池の底はぬかるんで泥まみれという状態になっています。
業者は順番に年3回ほどの水揚げをするが、この後は水を抜き、池をカラカラにして太陽に晒して殺菌する。これを炎天下繰り返すのだから重労働です。
かつて養殖池を訪れた際のこと、海老をポンプで吸い上げていたが、昔は電気を流して気絶させ、網ですくって採ったと記憶している。またこの干している最中の池を見たけれどかなり深い。だがそれでもしぶとく生き残っている海老がいたけれど、獄暑の最中、臭いは少なからず漂ってくる。こうした人が働いている作業環境は変わらないままに、海老の生活環境が先に良くなるのです。
この厄介者の環境汚染を引き起こす汚泥を使って発電する。そしてネットに繋がっているのでリアルタイムに養殖池の状況が分かるという素晴らしい仕掛け。
この技術を導入すれば、海老の収穫量(生存率)は85%に上がると見込まれ、生産性も上がるという訳で養殖事業の収益性も向上するし、なによりも養殖池1000立方メートル当たりで年間40トンもの二酸化炭素削減と、環境への負荷が大幅に軽減されることにもなり、一挙両得なのです。
ベトナムの海老養殖は第一次産業の主要な分野。日本を始め世界各国へ輸出されている。だが国内では電力供給問題、養殖に伴う周辺土壌の汚染とか地下水への影響、温卒効果が図の排出、養殖地でさえも海老の病気などの問題があります。こうした日本の技術がベトナムの産業を支え、廃棄物を利用し環境負荷の改善まで行うのは画期的と言えます。だが実証実験が終って成果があれば、その後はどういう筋書きになっているのか分からない。
さらに人力で行っていた作業が機械で管理され、さらにこれがスマートフォンで確認できるシステムを構築するとなれば、重労働から解放されるという次第。
さらに成長ホルモンや殺菌で使う抗生物質などの使用が無くなれば、人の口に入るもの、安心安全と健康に役立つことになり、品質の向上が期待できます。
訪問した海老養殖業者はこうした薬品類は使用していないと答え、自然界に存する人間にも害を与えないものを使っていると見せてくれた。良心的な業者もいるもの。
夕食は社長が招待。この池の大海老をふんだんに使った新鮮プリプリの料理。
ココナツ水で茹で、ムイ・テウ・チャン(塩と胡椒、ベトナムの柑橘果実)をつけると旨さが極立つ。余計な手数や調味料を加えない方が美味礼賛。素朴だが高級店でさえ味わえることが出来ないほど、山盛りの最高のご馳走でした。

日本では海老の陸上養殖がおこなわれている。しかも海老は環境によって自分の体の色を変えるというので、付加価値を得るために工場建屋や養殖プールの色を黒くしているが、これは日本で好まれているブラックタイガーに似せて、茹でた後の海老らしい赤色を出すためのマーケティングという。こうして天候などの自然条件に左右されないで一定の出荷数を確保できるため、価格の変動要因が少なく食品会社や高級レストランでも人気が出ているのです。
日本では元々淡水魚類の養殖は鯉、鱒や岩魚に山女など、冷たくて水の綺麗な山間部で行われていて成功物語が教科書に載っている。海上でも真珠や牡蛎等が養殖されている歴史を持ち、ノウハウが蓄積されていたわけです。

この他にも人工海水技術の開発が出来ていて、これを利用して陸上での水産物の養殖もおこなわれているし、日本人が好む鰻、鮭、河豚、ヒラメなども出荷されており、こうなると自然界ではエサに毒が含まれるが、一切この心配がないという大きなメリットがある。さらにこれまで輸入に頼っていた魚類は輸送コストが下がり、また鮮度の高い商品として需要が高くなってきている。
回転すし企業の一部では、鯛、はまちなどの30%は自社が所有する生け簀で養殖した魚になっているという。
海上ではAI技術を使った自動給餌機の導入により、これまで人手の70%をこのために時間を費やしていました。今では給餌機にエサを入れるだけで魚の食い付きや天候などをAIが判断し適切な量を最適な時間に自動給餌。余分に与えないので養魚場の水が汚れないし、少な過ぎることもないため健康で安定した魚の出荷が出来るようになっています。
またエサにしても研究と試行錯誤の結果、廃棄農作物を利用してブランド力を高める工夫が地方から発信されている。これを大学などの研究機関、行政担当、回転すし企業、さらに異業種まで参入しているのが現状。陸上養殖の利点は、廃校になった山の学校や生産を止めた工場で安価に問題なくできる所であり、これに拠って収入源の少ない過疎地域で成果が期待できるという訳です。

こうした研究開発は日本がこれまで海に囲まれた水産国であった故のことだが、自然条件の変化による天然資源の減少や、これまで海産物を殆ど消費しなかった中国などが蛋白源確保のため無茶採りしている状況を考えれば、もはや陸上水産物養殖は葉物野菜の様に工場生産になって行く可能性も高い。

この他にメコンデルタでは同じく日本の大学や企業の技術を使って、カントー大学とも共同で農業分野でもIoTが利用されようとしています。これまで全て人間が行ってきた水やり、農薬・肥料散布などがコントロールされ、もう民は過酷な重労働から解放されつつある。こうなるとベトナムでも家の農業を継ぐ若者が少なくなったという社会問題の一つが無くなることに繋がります。
だが水産物にしろ、農作物にしても自国のR&Dが機能していないのが現状。
研究機関や施設、さらに学問の領域でも極めてレベルが低いのも視察に行くと一目瞭然。これを改善してゆく努力は必要であると考える。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生