ビングループ EV資金調達に不安

2024年7月13日(土)

アメリカのタイム誌は、「世界で最も影響力がある企業トップ100」の2024年度版でベトナムの地場系コングロマリット、ビングループ傘下でEV車を製造するビンファストを選出したと発表。これはベトナム自動車業界では初めてとある。もっともベトナムで自動車産業が勃興してわずかの年月しか経っていないので初めては当たり前の話でしかない。しかしそれ以上に最も影響を世界に与えるなんて、ド~ユ~いみ?と単純に疑問が払拭できません。
このリスト作成には世界の大企業や、専門家などが選ばれて作成したとある。
日本からトヨタ、日本製鉄、エーザイが選ばれたとあるが、多忙な経営トップが評している訳ではあるまい。実態を知らず数字と情報をみただけと想像する。

当初は何らノウハウがなく、デザインはイタリア、設計・工場管理はアメリカ、部品は中国などからの寄せ集め。要するに内燃機関は新興企業にとって難し過ぎて手に負えない。歴史もないので何が起きるか分らないので、海外メーカーに全てを依存してきたのです。だから国産とは転んでも言えない。
そこへきてEVが急速に発展してきた。願ってもないチャンス到来、構造も簡単で部品数も少なくて済む、もっと肝心なのは技術的に簡単で鞍替えしやすい。問題の燃料電池は韓国や中国から調達。要するに自国での裾野産業は整っていないけれど輸入でこなせる。研究所は自国に置かないで海外に設置。まさしくベトナムが大のお得意、組み立て・労働集約産業の延長でしかありません。
これが自国で生産というのだけど、所謂企業城下町があって、専門の部品企業が技術でしのぎを削っているというものでない。ネットを見ているとベトナム新興自動車産業は脅威と書いているけれど実情を知らないだけ。アメリカなどに工場を建設するとか、ナスダックに上場したら株価が3倍になったとかだが、大きな問題は資金調達。これまで論評を避けて来たし、脇目を振らず突っ走る中で回りがみえず、都合が良くなければひた隠しにして来た感は否めない。
元々はベトナム政府が国産車と張り切っていたのだから、その支援は大きい。税金の免除に、会社側も割引キャンペーンを張り売って来たツケは回ってくる。元来技術力が伴い車を作ってきた訳で無いからノウハウもない。その場凌ぎが蔓延し、万年赤字体質から抜け出せない超新興企業が真の姿なのです。

そこで仕方なくかつての旧ソ連留学組にスーパーを2019年に売り払った。
創業者も即席ラーメンの製造で成功した誼かも知れないが、その稼いだ資金でベトナムに戻り事業を開始したのが2000年。たった20年程で不動産事業を手始めに小売り事業に参入。これが時流に乗って一躍兆児にのし上がった。
だがこうしたリテーリングにもノウハウは無く付焼刃。思う様な展開が出来ず海外企業との様々な格差解消できる筈などなく、地方展開に利があっただけ。この問題児を引き受けた国内インスタントラーメン大手会社・マサン社、小売りは得意分野。店舗を整理しテコ入れした結果、それまで以上に良くなった。
要は大した経営力は無かったが、時の運、アレヨあれよと膨らんだ張りぼてに過ぎない。企業に戦略やマーケティング力、社員は教育と意識が低く、出店数のみが目立つけれど 小規模で単位面積当たりの売り上げや利益が伴わない。これが実態だったので競争力はなく、殆んどお荷物状態だったという訳です。
ところが一気呵成で出店は海外にしても一向に変わらずEVでも続けている。

問題と考えられるのは、先の様な記事に惑わされてはいけない資金繰りです。EVを必死になって守ろうとする姿勢は良いけれど、先立つ金が無いのが本音。
ある記事はビン社が事業継続のため資金調達を急いでいる。主力事業を売却してきたが、それ以上に計画していた事業をストップ。観光事業とショッピングモールは黒字なので、これ等を自動車の赤字補填に注ぎ込んできた無茶振り。
また株式上場を行なって資金調達し、EVの生産増強などの資金に充てるが、こうした経営が財務体質を一層弱め、資金繰りを懸念する声が出始めているというけれど、なにもいまに始まったことではありません。心配はあったけれど誰もが国策なのでやり放題とその場凌ぎを言い出せなかった雰囲気があったという方が正しいとみる。そこに綻びと憤懣の噴出が記事にされた訳です。
問題なのが国内80箇所で大型商業施設を運営するビンコム・リテール。此処は各地で一等地の土地を保有し出店している。噂ではかなり無理した地上げを行なって確保してきた含み利益抜群の虎の子不動産。売上、利益ともに順調で昨年の純利益は前年比1,6倍の約4兆4千億VND(270億円)であった。
既に55%の株式を売却したが、ここにきて残りの全部を売るとハチャメチャ。
金額は約15億ドル(2300億円)で、海外小売企業の進出が続いているがベトナム消費市場はこれからも伸びる可能性が高いのだから、まさに優良企業で虎の子のビンコムまで売ろうとするのは余程の窮地。しかし今更引くに引けないので、窮鼠大博打をうつとしか映らないが、これで事足りるとは思えない。
さらにこれまでこの会社の守り神で操業の源、超高級リゾート・ビンパールを上場させるようだが、これは何れの時に保有株を売ってしまおうとする先鋒でしかないのは誰も考えること。手の内バレバレ、窮鼠の様に追い込まれている。
この他には病院や学校、他の製造事業なども目論んでいるけれどあれもこれもとやれるものでは無い。何れも重荷になるけど、あるいは資産として保有して、時が来れば同じ様に売却する腹積りなのだろうか。こういう事態となれば本気で国策に準じるとか社会貢献を願っての行動と思えない焦りを感じるのです。
創業者のブオン氏は、4月の株主総会でビンファスト(EV)は会社の未来、決してあきらめない」とし、正しい方向に向かっていると強調したのは単なる強がりなのか自画自賛。情熱だけは買うけれど、思いだけでは事業が出来ない。
今年1~3月期のEV販売台数は前年同期比で5,4倍の9689台だったとある。また2021年からの累計は約5万台に達した。インドやインドネシアでの生産を開始するために今年の投資額は10億ドル必要だともされている。
これまでの赤字体質は先刻承知、ブオン氏は個人資産を寄付という形で出している。だが当たり前のように不動産で稼いで投入してきたけれど、何時までも許されるものでは無く、これでは企業の体を成さず、全くの個人商店の様相。キャッシュフローは心配ないとするけれど、こうした無理矢理のグループ表向き黒字作りはもはや限界に来ている。ともすれば風前の灯の金融状況が実態。
営業段階だけで20兆VND、全ての投資を含めると50兆VNDもの赤字だとされる。このため今年に返済期限を迎える債務の85%は返済資金確保に追われ、借り換えの協議に入ったという。自転車以上の規模ならぬ、自動車操業。
一部の投資家とは米ドルでの償還に関して償還期限の延長に合意したとのこととあるけれど、言うまでもなく計画性や目標など伴っていない経営を実践してきた、ベトナム的経営の実態そのものでしかありません。
しかもEVの普及に欠かせない充電ステーション。これは国などではやってくれないから同社がしなければなりません。普及したらの話だが、さらにこの国の電力不足をどのように乗り切ることが出来るのか、課題は大いにあります。
このため、ビンファストから切り離し、創業者直轄にするという苦肉の秘策を今年になって繰り出した。EVの普及は電力が肝心要。だが中国製の格安小型車が人気だし、ハノイではEV車に拠る住宅火災があり住民が亡くなった。
この先2年間で10兆VNDが必要。これまでより3倍とかで、しからば資金をどうするか?これが解決できていないのが現状です。
実はこの他にも懸念材料がある。即ち品質面で、2022年から今年2月までリコールが4回あるという。この対象車数は11,000台以上で、実に販売済の20%になる。さらにハイブリッド車に人気が戻って来ている事情もある。
このためアメリカ工場の完成を延期する計画もあるとかで頭痛の種は切れない。
勢いだってアメリカに進出したけれど余りにも気が逸り過ぎ。株式発行とさらに鳴り物入りだったし、また隣国カンボジアやタイアジア圏で販売代理店設置などのニュースで賑わったものの、ヤラセとまでは言えないが会社の金融不安と世界の情勢がこの企業が暗闇に落ち込む可能性も無くはない。要は黒字化できる転換時期が全く見えて来ない。本当に国策ならば国がもっと動いて当然だがそうでもなさそうだし、創業者の独り善がりにしか思えまない。何れの時期が来れば従業員や協賛企業に少なからぬ影響が出て来るのは必至と考えられる。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生