経済は順調で人手不足というけれど 消費は低迷し小売業は苦戦

2025年3月19日(水)

テトが明けて2025年の経済がようやく動き出したベトナム。2月19日の臨時国会で、今年の経済発展に関してGDP成長率を8%以上とするほかに、一人当たりのGDPを5000ドル以上、CPIの平均上昇率を4,5~5%とすることが目標として採択されました。
またマクロ経済の安定化、インフレの抑制、経済バランスの確保、環境保護と調和した経済社会の発展、また国防・安全保障などを盛沢山にあげている。
こうなると投資や生産、科学技術の発展、さらにイノベーションに DXの推進に好ましいビジネス環境の整備、また未整備であった国際ビジネスに対応できる法律の整備が求められ、これ等の事業に必要な人員の育成が急務になってくるのです。
社会インフラの整備は、このほど工事が遅れると発表されたロンタン新空港、ハイフォン市でラックフェン新港の完成が近くなったこと、HCM市とハノイ市の空港の拡張、新しく新幹線計画が動き出し、中国への鉄道案件もほぼ確実に着工するなど、大型インフラ整備が次々と明らかになっているが、国の発展にとって極めて大事な事であり、まさに飛躍の年であると政府が報じるのは誠に結構なことに違いありません。
だがこれ等の事業に関しては、未だに資金面や技術面、さらに人材の育成という面で些か勇み足であるとの印象は否めません。このほど人口は1億1千万人を越えたとしているが、これまでの人口ピラミッドに変化が現れ、高齢化社会への道を進まざるを得ない状況にあります。また一方で十分に職業訓練されたワーカーや高度な教育を受けた技術専門職に研究者などの人材が不足しているという課題も解決できていません。
ノウハウや技術を自国で研究開発できず、この多くは西側の諸国や外資企業に委ねている現状を見れば、飛躍の年とは言うけれど、何時まで経っても変化が起きる可能性は低いと思わざるを得ません。成長の減速や後戻りなど出来ない。しかしそれどころか中国企業のベトナムへの動きを考えると、飛躍の中身とは
何なのか、何れの国や企業に拠り沿った形での発展を続けるのか、との疑問を払拭できないのです。さらにトランプがベトナムからの輸入過大の状況をどう判断するのか、これは戦々恐々でともすれば大きな痛手となり兼ねません。
この様な状況にあって、テトが終ってから企業の生産が順調に戻った訳では無いとの現地報道がありました。テトが終って毎年の事、各企業の心配ごととは、長期休暇で帰省した社員・ワーカーが何人戻ってくるだろうと、人事担当者がやきもきしていただが、年を経る毎に酷さが増している。事前にあの手この手で優遇策を講じて向上に戻れる様な方策を考えられる限り打ち出していました。
HCM市に隣接するビンユン省内の多数の企業や工場では盛んに求人活動を行っていて、この数がなんと数万人に達したとあります。
省の労働当局では省内1890社で約435,000人が復帰したとしている。
しかし依然として人手不足に変わりがなく、生産に必要とされる38,000人のワーカーが不足したままとなっている。この原因は企業の生産量拡大による新規要員不足と、テト中に地方から戻ってこなかった人が例年通り数多く居たとの理由があるとしています。
これまでCOVID‐19に拠り帰郷した人が、都会で野生活が苦しくそのまま田舎の実家での何不自由ない生活を望んだ事と、地方のインフラ整備が進んだため工業団地が出来、外資系企業が進出したので、安定した現金収入が見込める。
こうなると都会に出るメリットなど何もない訳で、労働市場の歪な状況が続いたのが未だに解消されていないという事実が浮かび上がった訳です。
これまでと違って都会への憧れがない訳では無いけれど、格差はそれほど感じなくなったのも理由かと思えます。このため各企業は人集めに苦戦しており、このままでは賃金ベースや福利厚生コストの上昇がのしかかってくるのです。
マクロ的にみれば、賃金上昇は想定されたことだが、予想以上となれば価格に転嫁できる限界を超えてしまい結果ベトナムに進出するメリットなど無くなる。
進出の大きな理由とは、若い労働力の確保が容易で人件費と生産コストが低いこと、これが今までの企業メリットであってこそのゆえ。このままベトナムで事業を拡大するという考えの企業は多いけれど、この様な状況が続くとなれば、また欧米や中国企業の進出が増えるとなれば優秀な人材獲得競争は熾烈になる一方で、更なる賃金上昇が必須となって行く筈。こうした状況にあるのだが、外資企業投資を積極的に歓迎する政府や省レベルの行政はどう考えるのか。

・消費が低迷して小売業が苦境に立たされている

こういう事情がある一方で国内小売企業は、市民の節約志向が強まり、テト前の買いだめもあるけれど消費の落ち込みは回復していない。
テト前は新製品が大量に売れ、電気製品なども新規需要に買い替えが見込めるけれど、テト後の月の売り上げは全く見込めないのを何度も味わってきました。
そかしそれだけではなく、一般市民の財布は毎年給料が増えるけれど、家庭を預かる消費者からは生活必需品の値上がりと高止まりに、何ともならず実質は目減り状況に遭って嘆いている。
これが今年も厳しい経済(家計)状況が続くと考えられ、大手小売業では売り上げを維持するためプロモーションを強化し、生産者も工夫をしてコストを下げるとか、新規分野への進出をおこなうとか規模を縮小するなどの体側を講じているのが現状だとし、まさに生き残りを掛けているとしています。
この現象はスーパーなどの大規模店舗だけではなく、これまで市民がほぼ毎日買い物に行く近くの伝統的市場でも起きているとあります。
市内にあるこうした多くの市場とか個人小売店に露店は安いし新鮮、少量でも売ってくれるので頼りになる。筆者も顔なじみになる位の店が多かったけれど、中心から離れる程に気易くてまさに人情屋台そのまま。
ところが有名な市場でも買い物客は閑散としており、空き店舗が目立ち閉店や賃貸物件として張り紙があるという。売れないから店主は暇、雑談に興じ品物は古くなると、もはや客は買わなくなるというマイナスの循環サイクルに陥ってしまうが、生鮮食品や魚ならとんでもなくロスが嵩んで辞めざるを得ません。
アパレルもこれまで近くの店で買っていたけれど、この多くは明らかな時代を感じさせる中国製品であり、大きな打撃を受けているとかでもはや売れない。若者を中心とした消費構造に変化があり、これには外資系企業進出に拠る大量販売、デザイナーブランドと安価な価格設定に品質の保証があるけれど、何よりも店や品揃え豊富で綺麗、お洒落に感じるし、これを着れば美しくなれると思わせる効果は抜群。また流行のサイクルも短くなっているのも理由ではないかと筆者は考えます。

この様な状況では消費者は節約しかありません。もともとベトナム人家族の多くは複数で働いています。この所は核家族化して来ているけれどそれでも夫婦は共稼ぎが主流で、子供も結婚するまでは同居生活。これが何から何まで物価上昇となれば皆が節約するしかありません。要するに買い物に行かなくなり、最近では屋上に小さな菜園を造って野菜栽培で自己防衛もしているから、ますます物が売れなくなりスーパーや市場でも手持無沙汰となる訳です。

となれば店舗側でも何時までも消費回復を待っている訳には行かず、売り上げ低迷を回避するには、ひとつには販売促進策の強化が考えられるが、その次にはコスト削減とか不採算店舗の閉鎖と、事業の再編に追い込まれるのが順番と相場が決まっているのです。一部のチェーン小売店では市内の賃料が高い立地から郊外へと移転、社員も大幅に削減したと苦肉の策を選ばざるを得なかった。
また体力のある大規模量販店でもテト後の購買回復はなく20~30%の減少。今年は前年比で売る揚げ減少になる可能性もあると見込んでおり、これを少しでも避けるため当面の値上げを見送り、顧客の信頼を得るための策として生活必需品を中心として30~50%の割引販売キャンペーンを定期的に実施し、購買者の心理的負担を和らげる戦略を実施するとしているほど苦境振りが伺え、次々と目新しい販促を仕掛けて顧客を繋ぎ留める考えとか。政府のCPI目標は何なのか?

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生