ベトナム大企業が一致団結? 力を付けて変わりつつあるけれど

2025年12月8日(月)

この所のベトナム企業の動きと、経営者(創業者)の莫大な資産形成に関しては以前コラムに書いたが、地場企業が急速に大きくなりコングロマリット化、徐々に力をつけて来たという印象を強く感じます。
さらにITやAI分野では留学して起業した若い人達の企業が急成長し、語学力と留学時に培った人脈を活かして海外に支店をつくるまでになってきている。
大きな過渡期を迎えると共に、この様な企業が様々な分野から出てくる可能性を感じます。だが如何せん、経営力、資本力、技術力など未知数で不透明な所もあるが、いずれはこの一線を乗り越えてグローバルな大企業になる企業が現れるのでは、と思うのです。これまでと同じく急成長の余り組織が未熟で失速や歪が生じることは考えられるけれど、またこれには政府の施策や経済体制が追い付いて行けるのか、未だ疑問は払拭できません。

この様なところにダイズン・グループの会長であるダイ・ズン氏が、ベトナムの最大手企業であるホアファット、ビングループ、タッコ、ベトテル、FPTなどに大規模な提携の設立を提案したとする地元記事がありました。
彼の意とするところ、国内大手企業が協力すれば大規模な製品やプロジェクトを完全に生み出せると述べた。もしこれまで通りに各企業が個別の分野だけに焦点を当てるのなら、即ち連携しないまま各企業が独自路線に固執すれば依然として小規模加工に留まるとしたが、確かに正論で間違いない。
これまでベトナム企業は海外企業の下請け的存在が多く、殆どはこれらの企業のアッセンブリーを担う労働集約産業でしかなかった。これは正鵠を得ていると考えるけれど、実際にこれを理解している経営者にベトナムの一般人がどれだけいるのだろうか。だからこそいとも簡単にM&A、会社を売るけれど、年々その数が増えて来た。事実世界に通用するブランドは欠如、COVID-19が発端となりサプライチェーン移転が叫ばれながら、深い関心は欠如している。
同氏は合併後のHCM市は国のGDPの約25%を占めると同時に、機械産業を発展させる大きな可能性を秘めていると訴えた。しかし筆者はこれまでにも先進工業国の条件のひとつである工作機械が造れないであれば、果たして先進工業国など言えるのかと書いてきたが、同じ様な考えを持つ御仁も居るもの。
だが現在の状況は、依然として分散しており纏まっていない。マスタープランが欠如しているからであり積極的な連携は無い。現在のHCM市は拡大されて人口が2000万人、港湾と物流のエコシステムとダイナミックなビジネス、コミュニティーを形成しており、この利点を活かせばアジアでの重工業、機械工学、裾野産業の主要地、サプライヤーに成れる勝算ありとするのが自説。
だがこれ等の企業の歴史は浅く長くても精々10数年、売上額は急速に大きくなったけれど、今にあっても成長過程にあり、経営基盤も磐石であるとまでは言えません。特筆すべき技術があるとか、世界的なブランド企業として信頼性が備わっているというものでもない。恐らくこの辺りの事情を会長はよく認識していると考えます。だからこそ、今だからこそ何とかしなければならない、という気持ちなのかと思える。だが大山鳴動してもネズミ一匹動かずとの例え、自我が強く個性際立つ創業者でもある経営者をまとめあげるのは容易でない。規模は大きくなっても、家族的経営という観点からみれば、個人商店と同じ。
そこでこの目標を達成するために会長は、HCM市が2050年を見据えた機械産業の総合戦略なるものを公布すると同時に、これに関連して機械工学の集約的な工業団地を計画するべきと、日本、中国、韓国などの実例を挙げ提案をしたとあります。夫々の得意とする専門分野を活かして川上から川下に至るまでの事業を連携する。そして国際競争力を向上させるためにHCM市、国内全土に主要プロジェクトを取り組むのに必要な同盟を設立することも提案。
国は税制上の優遇措置を与え、集中生産ができるクラスターを結成、ビジネス界に共通の遊び場を創るのに十分な規模の土地を割り当てる必要があるとした。
そして公共プロジェクトに60%以上の現地化率を適用することを義務付ける、こうすることで地場企業は国内のインフラ案件に参入できる機会が増え、生産能力の向上にもなるとした。その結果、ベトナム製品やサービスが国際市場に参入できる機会が生まれると説いているが、現状では部品などの信頼度は低い。

フォーラムに於いてのプレゼンテーションであるが、またこれまでビジネスや企業経営者がこの様な思考、ある意味での経営哲学を経済紙とかに掲載された事はなかったように思うのだが、ようやく経済社会が安定し、複数の大企業がこの国で一定の規模で活躍、またそこにビジネス社会が醸成されてきた実態が発言の機会を与えた。そして多くの識者、海外ビジネスを知り、実務に長けた経営者が腹の内で長らく思っていたことを此処に来てぶちまけた、と思えなくもないけれど、また勇気は要ったにしても決して間違った考え方はしていない。
政府がこうした経営者の危機的意識に付いて行けるのか疑問であり、ビジネスを所管する商工省でもどう支援できるのかだが、国は経済が成長するためには未だに海外企業の投資を歓迎する立場を明確にしている。こうなると国の将来を案じて会長が温めて来た思考は白昼夢に終わるかであり、賛同者がいるかといえば此処には記載はなかったが、この国が労働力を提供し外資企業に対して利を与えるだけの状況は現在でも変わらない。確かに外資系企業の進出で国の貿易収支は大きく改善して黒字化で外貨保有額も急増した。だが輸出に対する割合は70%以上と改善されている訳でもなく、基本図式は変わっていません。
彼が述べたうちの一部企業では既に海外に支店を設け、現地でスタッフを採用、その土俵で売上を着実に挙げている。しかしまだ多くの企業は内需が中心で、ようやく海外に足掛かりを得たけれど、認知度は低く売れば得るだけ赤字が積み重なっており、大本営発表と同じく何が事実か真実かは不明で藻掻いている最中にある。何度も言っているが、社歴が浅く理念があって、風土が醸成されているとは到底伺えないし、人材は思うほど優秀ではなく不揃い、ベトナムの悪弊でもあるが入れ替わりが激しい。さらに独自路線でのし上がって来ただけでなく、政府の後押しがあってこそで、これでは真に世界に訴求できるだけの実力があり、カッコたる地位を公表できるだけのブランドではなく、勝者でもありません。まさに格差は激しく、発起人としての会長は一丁目一番地の境地にある。多くのベトナム人と同じく、現時点での自己の利のみだけを考え将来への投資を望まないとするのならご破算、勝ち目はありません。

・買収される獲物から、外国企業を狙うベトナム企業に変化 考え過ぎ?

別の経済記事であるが、これも時代の変化なのか、地場企業の成長とともに、民間企業は成熟度が増しており、防御的であるだけでなく世界舞台で攻撃する準備ができていると報じている。
ベトナムのM&A市場は長い間、外国の大手企業による潜在的な買収にさらされてきた。大型化して日本のユニ・チャームがダイアナを、タイ企業がサベコ、モンデリーズがキンド―を買収。地場企業は何時かこうして自国の縄張りが、徐々に外資の餌食になるのではという懸念を持っていた。
しかしこの所、逆の方向を示している。民間企業は新たな可能性とビジョンを持ち、エコシステムを拡大、影響力を高まるために国際ブランドを積極姿勢に転じて買収している。この傾向は企業を防衛するだけでなく、成長して成熟度が増し反転する準備が出来てきたとするが、過渡期にあるのには違いない。

M&Aでベトナム企業が行った実例を挙げているが、ベトナム最大の生花会社であるダラットのハスファーム社は2億7千万豪ドルを投じオーストラリアの上場企業ASXに上場している花会社リンチ・グループの株式を100%取得する事に合意したと発表したのです。
ダラットはベトナム中部の高原、フランス人が開発した保養地であるけれど、花卉類や高原野菜の栽培でも有名。斜面一帯はビニールハウスに覆われ不夜城の如く灯が煌煌。朝採りの菊などはその夜の飛行機便で日本にも運ばれている。
このM&Aでハスファーム社はアジアでも最も大きな生花会社になり、本国に中国、インドネシアで生産拠点を持つ事になる。輸出市場は今でもカンボジアやタイに及んでいるが、さらに日本始め、中国、韓国へと拡大します。
テクノロジー部門では、FPTがコア技術と質の高い人材を持ち、アメリカ、日本、ヨーロッパに進出している。2023年にはフランスのAOSIS社の株式80%を購入しており、FPTが資源を提供し、ヨーロッパや他の世界の顧客へデジタルサービスを提供する。またアメリカでは、CPビジョンとAIソフトウェア企業であるLandingAI社の2023年主要株主に、同年12月にはテクノロジー・エンジニアリング社のCardinal PEAK社を買収。最近はマレーシアの大手プロバイダーで、システム管理会社Daythree社の10%を買収。

リテーリング企業のマサングループは、ドイツのH.C.Starck社のタングステン事業を買収、どうして異業種なのか分らないけれど、している。今年はまたロシアにベトナムの産物を売るなど積極的に現地小売企業と連携しています。

大手乳牛企業のビナミルク社は、アメリカのDriftwood COの全株式を購入するなど驚くが、製品の輸出を行う計画と言われています。だがこれまで生乳の生産は規模が小さく、食品安全に厳しいアメリカへの輸出が順当に行けるのかは不透明の段階と考えます。それよりも大事なことは、国内の地場企業同士の競争の過熱する可能性もあり、此処は国内事業に専念すべきでしょう。

コーヒーチェーンで有名なチュングエン、アメリカとヨーロッパで買収の話が進んでいるという。コーヒー価格がこのところ急騰しており、これは同社にとっても進出には朗報です。

自動車組み立て製造受託のタッコは、韓国のイーマートを買収、サイゴンCOOPはフランスのオーシャン・スーパーマーケット・チェーンを買収。TH milkはゲアンにあるイギリスのT&L Sugar Factryを買収。バンブーキャピタルは、オーストラリアのAAA保険会社を買収するなど、地場企業の外資企業のM&Aが増えてきているのです。
この理由だが、ベトナム企業の財務体質は長年にわたる資本の蓄積、上場など、複数の要因があるけれど強くなった。それに伴い国内市場での競争圧力はますます激しくなっており、成長の勢いを維持するために、新しい市場への参入が避けられないステップが必要。新しい世代の起業家はグローバル化への願望を持っており、製品を輸出するだけでなく、より速く、より遠くへ進むために、外国のブランドや技術を所有したいと考えている。しかし国際市場へ出てゆくのは冒険でもあり、M&Aが成功したとしても爾後の現地での運営にはこれまで以上の経験と経営実務能力は要求されるのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生