中国 太平洋企業集団の正体

2026年3月31日(火)

コラム688でチン首相が中国の太平洋企業集団(パシフィック建設グループ)に、タンソンニャット空港~ロンタン新空港間の地下鉄建設を依頼したことを簡単に書きました。
この中国企業に関して現地経済ニュースは、一体この企業の正体は何か?との記事を掲載していたのです。
ラム主席が訪中した際に、習近平は直にこのパシフィック建設の創設者であるジェホ氏を紹介して会談、ベトナムのインフラ事業への参加を要請したのです。
だがこれは、習近平から同社のベトナム進出を促されたようなもので断れないと思って間違いありません。

・HCM市 2030年までにタンソンニャット空港~ロンタン新空港間の地下鉄路線完成を目指す

ロンタン新空港の開業が今年に予定されているが、HCM市では地下鉄路線のネットワーク化で交通回廊を造ろうと計画していると現地報にありました。
まず2030年までに市は3つの主要路線の感性を目指すという。この中で先の様に中国企業に依頼したというのが40キロに及ぶドンナイ省のロンタン新空港とHCM市とを結ぶ新設。市は早期の着工と2030年までに完成を目指すとあるが、用地問題、資金、技術面など依然として解決しなければならない問題が残っていると指摘しています。
こうした問題があるのにもかかわらず、チン首相は中国のパシフィック建設のジェホ氏に1月9日に会って、この路線の建設を依頼したとあるのです。日本であれば都市交通の整備は該当する市が行うのだが、この国ではこの様に一国の首相が外国企業に依頼するとなる訳で、理解するには簡単ではありません。
実は昨年10月に首相はこれらHCM市での2030年までの都市鉄道の路線に関する計画を承認している。また2050年までを見据えてHCM市に権限の委譲を行なったとしているのです。
真相は良く判らないけれど、HCM市をさて置き、頼りなく思ったのかジェホ氏にはインフラ投資、建設、運営、保守管理分野に対して、技術移転に関しても国内企業との協力を含めてベトナムへの投資を求めたのです。
首相はこの一連のパシフィック建設とのやり取りについては、ベトナムの社会、経済的発展に寄与するだけでなく、二国間関係の強化と双方に利益をもたらすと説明しているとあります。
何もワザワザ話す必要など無いのに、こうした言い訳がましいのには、何かしら含みがあるのではないかと勘繰ってしまう。

・パシフィック建設のベトナムでの事業

パシフィック建設のベトナムへの事業参加は現時点で、ハノイ市でトゥ連橋、ゴックホイ橋、並びに接続する道路、ヴァンカオ~ホアラック間の地下鉄路線という3つの主要インフラ整備プロジェクトに取り組んでいる。これらの案件は昨年5月以降に着工し、総額1千億VNDに及ぶと現地のニュースが詳しく報じています。
ジェホ氏によればより多くのベトナムでの大規模インフラプロジェクトに参加して、長期的な存在感を維持したいと語ったとされるが、ベトナム鉄道公社とハノイ市、HCM市における鉄道、及び地下鉄案件への可能性について協議を行うとした。
如何にもチン首相の肝いりと言わんばかり。もっとも首相はハノイのインフラ案件へ大きく評価し、ベトナムに貢献していると持ち上げています。
もはやこれらベトナムにおける主要インフラ整備案件に関して、我が意を得たり、と言いたげな感じがする。
既に習近平のお墨付きを以ってベトナムに乗り込んでいる様にも思えるのだが、これからベトナムでのこうした主要なインフラ整備プロジェクトに食い込んでくる可能性が高いのでは、と思わざるを得ないが、首相は歓迎するとあります。
この企業の特徴はBT方式、BOOP方式でのプロジェクトに豊富な経験があると云われています。即ちBuilt‐TransferとBuilt‐Own‐Operate‐Transfarであるが、大規模な資金と豊富なキャッシュフローがこうしたベトナムで最も必要とされるEPCF(設計・調達・建設・金融)、何でも引き受けることができる都合の良い企業なのです。しかしそこに落とし穴があることに気が付かない訳ではあるまいし、と思うが?工期内完成へ、背に腹は代えられないか。

パシフィック建設は1986年創業、それほど歴史が長いという訳では無いが、中国国内ではビジネス界やメディアから中国BTモデル企業と言われる。
建設事業に参入して、初めての仕事で損失を出したけれど、高品質で予定工期より早く完成させて評価され、大規模なプロジェクトを受注できたとする。
1995年までにパシフィック建設グループが正式に設立、その後は赤字だった国有企業を買収して再編成。事業規模を拡大、成長していったとある。
2016年に戦略的変換を行い、本社を南京から新彊へ移転。これは一帯一路構想の玄関口とだったという理由だが大成功。中央アジアやASAEAN各国へ進出する足掛かりとなり、習近平の御めがねにかなったという訳なのだが、比較的新しい企業であるには違い無いけれど、鼻息のあらいこと。このままではベトナムの主要インフラは飲み込まれ、結局は政府が目論んでいる技術移転など出来ず、借款という重たい負債を背負い込み、牛耳られるだけ。

・早速野望の実現に乗り出す

とんでもない現地記事が、1月14日に出て来た。
カマウ紙によると、早くも1月13日に、カマウ省人民委員会はパシフィック建設グループと協力覚書の署名式を行ったと報じたのです。
この内容とは、都市インフラ、交通、灌漑、工業団地等多くの分野で協力することに合意したとある。またカマウ省内だけでなくカマウ空港とバックリュウ(メコンの省)地域を結ぶルート、HCM市~カントー市~カマウ省間の海岸ルートと幹線道路を貴方任せ。人民委員会は何もしなくていいので楽チン。
パシフィック建設グループはカマウ省に独立した法人を持つ子会社設立の登録を約束。法に則って事業の地域化の完全な履行を進めるとし、今後5年以内に総投資額50億ドルの投資を行い省の発展に寄与する。また広範囲で長期的な協力を望んでいるとパシフィック建設グループは表明したとある。

カマウ省人民委員会の委員長は、省が行政改革を推進して、パシフィック建設グループは協力内容の実施をするについて、最も安全で効果的な投資環境を創出するとした。またカマウ省が発展するためにはパシフィック建設グループの能力、国際経験、戦略ビジョンは必要だとしたが、こんな旨い話があるものか?
こうした中国の企業に省への投資を依頼する背景には、地域の生活向上と結びつけ、福祉、教育、と持続可能な貧困削減プログラムを支援してくれるという期待があるとするが考え方は甘すぎやしないか。軒を貸して母屋まで!
記事にはカマウ省の指導者はグループの能力と威信を肯定し、両国の戦略的で、長期的な協力関係を示す建設的で文化的な創出をする研究・投資を提案したとあるが、こんなのを協力といえるのだろうか。中央政府は何も言わないのか。
いや言えない。
これは何と背筋が凍るような内容ではないか。カマウ省はベトナム最南端の地。グエン・タン・ズン元首相の出生地でもあるが、開発は遅れている。地元政府が投資を歓迎した所で、所詮は交通の問題やインフラ整備などで外資系企業が進出するには無理がある。だからこそ焦りがこういうことになったのでは?
国道1号線の南の起点だが、筆者は一番南にあるカマウ岬まで足を運んだことがあるけれどリゾート地として活用できる要素があるかと言えば、フーコック島の様に空港施設が拡張され、大手企業のホテルが進出するものでもない。
在住中に稚海老を育て、地方の養殖業者に売る事業をする人の家で過ごした事もあるが、地元には大きな産業は無かったとの記憶がある。
歴史的に中国から移って来た人もいるし、クメールなどの民族も生活しており、国民の多くは恐らく、この地を辺境と思って話題にも上りません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生