Vinグループ南北高速鉄道建設プロジェクトから撤退

2026年3月10日(火)

やっぱりね!と大して驚きはないけれど、昨年12月25日、Vinグループは南北高速鉄道建設の入札を撤回したというニュースが飛び込んだ。
このお騒がせ企業は12月19日、ドイツのシーメンスから鉄道関係の技術を移転すると仰々しくも大花火を打ち上げて発表したが、520億ユーロに釣られたシーメンスはバカを見た。舌の根も乾かぬうち、わずか6日後、変わり身のなんと早いこと。まさに高速鉄道を見習ったスピードだが経営者として採算が取れないことなど先刻承知のはずなのに、手を挙げたのは虚栄心からなのか。
一旦仁義を切ったけれど背に腹は代えられない、と悟ったのか。もしくは元々鉄道に関する技術など全くないのがようやく理解できたかだが、さてこの勝手気儘な行動に対して政府は落胆を見せるのか、泥を塗られたと激怒するのか。
心配はこの他のタッコなどの大企業も、やーめた、と追随しないか。そうなら政府の面目は丸つぶれ。となればもはや頼みの綱は中国?しかない。
欧米の契約に基づくビジネス関係は、どうやらベトナムでは通用しなかったとシーメンスは怒りを抑え、技術を盗られなかったと安堵。ベトナムで契約とは幾ら相手が企業トップでも単なる口約束に過ぎず、平気で裏切りも日常茶飯事であることを押して知るべきです。その意味ではベトナム事業初心者なのか?
結局は経営者としての英断かもしれない。全く先が見えないけれど大損をする事だけは間違いない。ならば幾らなんでも其処までお人好しでは大企業の経営など勤まりません。兼ねてより書いてきたけれど、ベトナム企業と事業を始める際、相手の技術力、品質管理にマーケティング力、資金力に加えて、経営者の能力、従業員の資質、仕事に取り組む情熱などを検分、何が起きるか考えておかなければこんな事態に遭遇する破目に陥る結果となる。
原子力発電にしても政府は焦って早期に着工したいのだが、日本は期間が短いと断っているけれど大正解。無知と経験の無さが無茶振りを許しているだけのことで相手にしてはいけない。ロシアはやる気満々だが、別の面で不安があって流石に日本の分まで肩代わりするのは難しい。

今回ファム・ニャット・ブォンは、撤退のニュースで株式市場は落胆したため、何と一晩で19億ドルの株式評価損を出したと地元紙が報じている。それだけこの国で彼の影響力が強いということだし、世間がガッカリしたと一応は言えなくないけれど、彼の懐は痛くも痒くもありません。
問題はコケにされた海外企業、この先ベトナム企業の本質をこれだ!と認識し、大規模国家プロジェクトがあったとしても信用も信頼もしない、危険だとして回避するのではないかとの推測が出来るのです。
日本の様に元々の技術力があって、資金も世界銀行から借款できたのは信用があるから。ではベトナムは何故できないのか?これらが無いからどだい無理という事に尽きます。過信であり、勘違いしているだけの話。信頼されていない。

・VINの言い分だが 素人でも分かる程いとも簡単明快

現地報は早速このニュースを報じたが、政府系は記事が見当たらない。しかし株価はVINホームズ、小売部門のVincomリテールにまで波及し、過去最低値まで下落したとあるが、これは当然の成り行きです。
熊手を持って何でもかんでも手を出し過ぎVinグループ。これまでも航空機事業部門などもあっという間に撤退、小売部門もノウハウが無くて儲からず、資金繰りのため盟友と言っても良いマサンに売ってしまった。小売業の戦略やノウハウがないまま、利益よりも売り上げ至上主義が招いた結果で自業自得。
ところがマサンは店舗を整理してすっかり利益が出る構造に変えてしまった。筆者はこう言った経緯を眺めてきたからこそ企業(経営者)の信頼性に於いて、他のコングロマリット企業は一線を画しているのではと考えています。
須らく線路を敷きながら列車を走らせている状態。余裕がないから周りが見えないのです。さしてノウハウに技術力、あるいは経営者としてビジネスセンスに欠如しているから、結局はこういうチョンボを招いてしまっているのでは、と勘繰られても仕方ありません。

では何故、今回の撤退に至ったのか。相手先は寝耳に水、遠く離れたドイツでは地団太を踏んでいるのか、はたまたこれで良かった、と本性が分かりホットしているのか。または同社の他の鉄道案件がまだあるから平静を装っているか。これに関して現地紙に記載はないが、二度目があるか、三度もあるのかな。
同社の言い訳は、経営資源を集中するとか。例えばハノイの9000hrに及ぶオリンピック基準のスポーツ複合施設の建設、HCM市で新住宅都市の開発のためカンザー区~ベンタンへ54キロの地下鉄建設、ハノイとハロンを結ぶ120キロの鉄道建設のためとある。また製鉄所、2箇所の風力発電所建設など社会インフラ整備への投資資金が必要で、これら承認されたプロジェクトを最善の方法で実施するための措置だとしている。
なるほど説得するには一理あるし、コメントは予め用意された答弁をしているかの様に感じるし、けだし正論だが、企業家としては聞くに堪えない愚かさで余りにもお粗末な話でしかないが補償は如何。誠意の欠片はどこにある?
こんな事情は初めから分かっており財務状況を掴んでいれば分かるはず。個人資産がベトナムNO1という慢心からなのか、裸の王様状態で足元が見えていないか、または競争相手がより実現性が高いと見て逃げたのか。
だが先走ったと考えている間に、タッコは製鉄事業を活かして線路を製造するための鉄鋼を製造する工場をHCM市で建設している。
またもう一点、撤退発言のきっかけになったのではと思えるのは、チン首相がこの南北新幹線計画の透明性と実現可能性を確保する様、最適なモデルを特定することを求めたとあるのが24日なので、怪しい部分があるとして見送ったのかと邪推できなくないのです。であれば政府と協調、筋書とおりなのか。

・専門家の論評

この南北高速鉄道からの撤退に関してVinグループは政府に対して、12月25日付で公式書簡を送り、投資登録の抹消を提案しているとあります。
撤退の決定には、実施予定の他の案件への経営資源の集中を慎重に検討したとある記事にあります。では慎重であるのなら、シーメンスとの合意は何だったのか疑問。初めからぶち上げなければ良いはず、と考えるのが正常なビジネス感覚ではなかろうか。まして相手はヨーロッパの超一流老舗企業なのです。

Vinグループの南北高速鉄道から撤退のニュースは、現地の幾つかの経済紙に掲載されたが、あるニュースに専門家がどのような見解をしているか記事にされていた。もちろん恐れ多くも批判的な内容など書けないのが実態。
ある人は肯定的に評価。これは余りにも多くの大規模プロジェクトを抱えているため、市場への資源配分やその案件の進展のため大丈夫かという懸念を持っていたけれど、撤退が報じられてから払拭されたとあり火消し役に徹している。
またYUANTA証券の分析部長であるミン氏は、プロジェクト登録の段階であって、実際には実施に入っておらず大きな影響はないと述べているとしている。株式市場を考えると妥当な発言で混乱を静めようとしているのはミエミエです。
投資家はビジネスに問題があるとみているけれど、しかし撤退はポジティブな意味があり、市場は元々インフラ案件が多くて不安視していたのが無くなった。
むしろ重要案件に集中することで、利益は1~2年後に実現できると後方援護しているのです。だが不動産開発とそれに伴う地下鉄路線の敷設は、この様な短期間で完成する訳がなく、鉄道事業は自社開発住宅のためで運賃収入だけで建設資金が回収できる筈などあり得ず、欺瞞的なコメントでしかないと考える。
株式の下落という反応については心理的なもので、証券会社がマージンを下げるため調整し、また新規発行がかなり多かったため、市場が事前に慎重な姿勢であったことが原因となった。しかしほんの一滴にしか過ぎないとしています。
従がって長く続かないし、直ぐに安定するとして見通しは楽観的でトレンドを変えるものではない。依然として市場では高評価であるとしているとあります。
では何故、Vinグループの撤退が大勢に影響しないのか。
これに関して報じているのは、タッコ・チュンハイ、ベトナム鉄道輸送会社、ベトナム投資開発グループなど、潜在的でまた経験豊富な企業から投資提案を受けているからとしている。だが何処が経験豊富なのか?鉄道に関しての建設、車両製造から運行、信号システムなど、ノウハウも技術、経験もない。辛うじてタッコでも海外メーカーと鉄道レールの製造技術の移転に合意しただけ。
余りにも経済紙に専門家?は知識が無さすぎ。現在のところ中国は音無しの構えだが、隣国の巨人はいつ動き出すのか。そうなればインドネシアの二の舞が見えて来ます。

・あるベトナム企業の経営者

Vinグループ総師のファム・ニャト・ブォン、彼はベトナムの成功者であり、ベトナム一の金持ちであるのは確かな事実。ある意味では政商という顔を持ち目立ちたがり屋で常に表舞台に立つべきと思っている人ではないかと思う。
世にこういう人も必要だし、今は成長期真っただ中にあるが、様々なビジネスを通して確固たるグループを作り上げるのだろうと考えます。
上場企業でHOAN・ANH・GIA・LAIという企業がある。筆者が在住した2007年頃のバブル期、HCM市内の少し郊外と言ったところで中間層向けの分譲アパートを販売。買いやすい価格設定で人気があり早期完売した。
もちろん価格に見合う設備だが何とか買えるので筆者はベトナムの東海興業か長谷川工務店のマンションのような位置付けをしていた。当時は高級アパート分譲が主で、どの開発企業もリッチ層を相手に投資用に外国人に賃貸する中で、真に住宅を必要とする人へ実需を扱ったのは彼の経営理念だと思う。派手な話を聞かないし消費者のニーズが分かっていたと考えます。
この会社中部ヤーライ省プレイクに本社がある。勘違いかもしれないが木材を取扱っており、ダラットに丸太を使った立派なホテルを建てていたと彼の地の友人と見に行ったことがある。これは良いとして、創業者であるDUC氏は、専門的な事は分らないので知識のある部下に任せたと聞いたことがある。人を上手くその気にさせて育てるやり方だと話題になった記憶があります。現在は農産物や豚肉生産に事業を拡げ、サッカーチームを持っている。
成功とは何か。人によって異なるが、この人の様に少なくとも知る範囲で仕事を部下に任せて事業が隆盛したのを、ベトナムでは聞いたことはありません。インセンティブとして給食が美味しいとか、年に2回の社員旅行を開催はこの国での福利厚生として生きている。だがこの先、企業が社会の公器として真に理念や企業行動指針を明確にして社会貢献。適切な利益を享受し従業員に昇進など抜擢の機会を与え、株主に優良株として還元するなど民主的な企業活動が出来る様になればこそグローバル化の中で生き残れる方法かもしれない。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生