HCM市の東方約60キロに建設中のロンタイン新国際空港。現地報にはこのプロジェクトの工事が順調に進捗しており、今年度中にほぼ完成する見込みであるとチン首相が述べたとしている。完成すれば国内最大の空港になるという威信をかけた国家事業。HCM市のタンソンニャット国際空港が日本のODAで近代的に整備されたけれど、年々増加する国際線の旅客数と貨物量の増大に対応できず、ドンナイ省で工事を進めてきたのです。この地には元々空港施設、といっても滑走路が1本あるだけ。戦争中はアメリカ軍が使っていたのだが、荒れ果ててそのままになっており、しかも建設工事に入る前ダイオキシンなどの有害物質が発見され、日本のゼネコンが開発した除去装置を使うなど、着工までに時間が掛かった経緯があって完成がずいぶん遅れたのです。
面積は5000Hrに及び、国費を128億ドルも投入。完成した暁には年間2500万人の乗客と120万トンの貨物を受け入れる予定となっている。
7月31日に開催された主要国家プロジェクト会議に於いて、チン首相はベトナム国際空港公社(ACV)に対して、失われた時間を補うようにするため、多くの労働者、設備・機会を投入し、年度内完成へ現場での建築作業等を強化する様に指示したとある。もう待ったなしだが、遅れにシビレを切らしたのか。
国会では第1段階の期限を2026年後半に延長することを承認していたが、チン首相はこれまで全ての部局に対して早期完成を推進し、今まで以上の遅延をしないように繰り返して求めてきました。
さらに国内の交通インフラの整備についても構想道路網の急整備が進められて来たのだが、これに関して首相は大きな前進をしたと指摘した。2476キロメートルの高速道路、1397キロメートルの沿岸道路の整備が行われてきたのです。今年度末までには約300キロメートルの高速道路と、約200キロメートルに及ぶ沿岸道路が順次完成するものと予測されています。
これ等のインフラ整備事業は物流と交通に大きな利益をもたらす訳で、政府の最優先事項として位置付け。残り5カ月になった8月、首相は全力を尽くすように関連する行政や機関に呼びかけ週末に昼夜を問わず3交代制・3人の構成チームで、政府の掲げるところ、500日キャンペーンなるもので間に合わせる様にと檄を飛ばしたとある。もはや前近代的で人権無視と言われそうだが、首相は品質、安全性、美観を犠牲にしてスピードを重視してはならないとしたというが、世界中でこんなことが罷り通るのは如何にもこの国の体制ならではと思わざるを得ません。首相はまた南北高速鉄道、東西高速道路が完成すれば建設省と地方自治体は交通のリンクのため経済の中心地、港湾、空港、鉄道駅への接続を見直すと述べたが、やっと発展と南北間の差が時間軸で縮まります。
・HCM市から新空港での搭乗まで5時間
多くの旅客はHCM市内から新空港まで5時間も掛かるなら、空港ができても乗ることが躊躇されるとのコメントがすでに出ているとあります。
ベトナム最大のハブ空港ではあるが、都市交通との接続に於いては欠如が露見して、これが6月に開催された専門家会議でも懸念と指摘があったという。
構想では新空港は国際線、タンソンニャット空港は国内線とされる予定であるが、こういう乗り換えに時間が掛かるなど余り聞かない話です。いくら重要な国家プロジェクトであって、HCM市内ではこれ以上の拡張や新設が出来ない理由があっても極めて不便を強いるのに違いは無い。この空港の有用性は地域経済の中心地であるHCM市内との接続に須らくかかっている訳だが、国内線旅客などは移動時間の長さで魅力を感じず、外国人でさえ超距離のフライトとトランジットで疲れているうえ、この様な時間の無駄を知るなら嫌になるはず。
これはビジネスでも観光にもマイナスでしかなく、この辺りのコンセンサスができなかったのか、と疑問に思う人は多いことが分かったとある。
空港への主要な道路接続は高速道路と、国道1号線と51号線に限られ、今は渋滞の状況。これはエリアに工業団地が多くあって人の移動や物流の影響です。
環状3号道路や、ビエンホア~ブンタウ高速道路は工事中、環状4号もやっと国会で承認されたばかりと何事も決断が遅すぎ、計画性と整合性に欠けていて、完成を間近にして飛行機を利用する人からは非難轟轟の嵐。であればタンソンニャット空港から別の空港に行き、其処から利用するのが得策と言い切る人もいるほどという訳です。
僅か20年程前なんて、主要道路は国道一号線だけ、ビエンホアから南に折れ、殆ど地道の国道51号線でブンタオへ行くが、車はそれ程走っていなかった。
急速に経済発展の結果がこうで、トイチェ紙でも接続性の悪さを指摘している。
HCM市交通大学の副学長フー氏はインフラ整備が追い付かず空港のパフォーマンスを妨げる可能性を指摘。効果的な接続が重要だとして、海外空港の例を引き合いに地下鉄、高速バス、水路などの複合一貫輸送システムを提案。また土地利用の最適化を図り、交通ルート沿いの都市開発も提案しています。特に水路のアクセスはサイゴン川とドンナイ川を活用すべくとしているが、空港の設計などは韓国企業が行ったけれど、こうしたアクセスに関しては考証されなかったのか、普通に考えても我々でも提案できるようなものだが、海外の事例も知らず、かと言って専門家に耳を傾けたことなど無いのは、経験や頭の中にないからで、研究もしなければ原案すら浮かんでくる道理などありません。
こうした非難を受けてドンナイ省では環状線の工事を加速、地下鉄路線の延長も視野に入れて検討。しかしこの国の交通の中心、バイクのためのインフラ整備が出来ていないとの言及には、流石というか、笑うしかありません。
・自由貿易地域の計画がある
ドンナイ省党委員会は、物流を強化し地域経済の活性化を促進するためロンタイン新空港に自由貿易区(FTZ)を設立する計画をしていると報じられています。このためにアメリカの税関・貿易戦略コンサルティング会社であるCTストラテジーズ社と会合を持ち、新空港と省内最大のフックアン港を結ぶ自由貿易エリア計画に関して話し合ったとあります。
FTZは空港内に設置され、省内の工業団地で操業する輸出企業とフックアン港を結び、市場へのアクセスの合理化と物流と輸送サービス強化、さらに地域ゾーンの各企業と連携が期待できる訳で、輸出入税の免除と通関手続きの簡素化などで多くのメリットが生まれ地域経済の発展が加速する訳です。
ドンナイ省には多くの工業団地で多くの海外輸出企業が操業しており、製品の輸出入について港湾を使用する場合や、空港を利用するなど、ネットワークが多岐に渡り選択肢が自由であればこそ企業にとって戦略的にまた効率的に工場運営ができるのです。そうなれば製造・物流・貿易の機能が備わった中心地として投資を誘致でき、世界的サプライチェーンの構築も可能となり、省経済の発展が期待でき、地域経済への波及効果も出てくる訳です。
なおフックアン港は220万TEUと400万トンの貨物を取り扱い、積載量が3万~6DWTの船舶の停泊が可能。
筆者は日本企業が工業進出を決めるためにある銀行の視察団が来越、いくつかの工業団地を案内。当時はビンユン省の方に勢いがあり東急も参画して街作りもしていたが、このドンナイ省の方が賃貸料も低く物流にもメリットがあると説明した結果、ある企業がドンナイ省に決定したことがありました。
・12月19日にロンタイン新空港で初飛行開始 首相要請
チン首相は新空港周辺を視察、様々な問題はあるが、これを乗り越えて12月19日に初のフライト就航と、2026年の初めに商業運行の開始をする必要があり完成を急がなくてはならないとしたが、逸り過ぎ。
全ての課題や複雑な関係はあるけれど、時間が迫っていると警告したとある。
従がって利害関係者にスケジュールを調整し、明確な課題を割り当てるように求め、緊密かつ効率的に調整を図り、追加の人員とか設備を動員して、元請のゼネコン、下請け業者、警察や軍まで関与させ、可能な限り迅速化する必要があると焦りをにじませたのです。国家的事業であり、タンソンニャット空港は満杯に近い状況が差し迫っているが、此処まで首相から指示が行くとは不測の至り。請負業者の施工上の技術的課題があって、工事を急ぐあまり手抜きや、未了なのに無理に完成とあれば、後々に問題が出て来るのだが、あり得る事。それより空港運営に問題が生じないのか安全が気になる所です。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生