HCM市から約200キロ。ベトナム中部、現ラムドン省にある海岸リゾートであるムイネ。此処はかつて豊かでない漁村だったのです。
初めて筆者がこの地を訪れたのは2000年に入って直ぐの夏、長男が休暇を利用して初来越の際、都会で観光するよりゆっくりしよう、と選んだ場所です。
この当時、国道から分かれてムイネに通じる道路は舗装されず、HCM市からのツアーバスは砂煙を上げて走っていました。
この当時、観光客はそれほど多くなく大手ツアー会社が運営するバスも乗り換えなんて事をしたけれど、この地はタンロン(ドラゴンフルーツ)の主栽培地。待合に指定されていたレストランには栽培農家からこの真っ赤な果実を売りに来たので、それなりに楽しめました。車窓からの眺めは広大なタンロン畑が広がっており、彼らはこれを生業にしている。普段HCM市内のスーパーなどで買うのはこの様な処から送られたモノなのです。因みにタンロンはサボテンの実で、それほど甘くはありません。
2026年、ブッキングコムで何とこのムイネが、世界の必見スポットとしてトップに立ったとのニュース。タイトルには、旅人をおとぎ話のような、風景や赤い砂丘へと引き寄せていると、ベタ褒め。
このランキング、旅行を計画している33ヵ国の成人3万人を対象として調査に基づいているとあり、なんと40%がムイネの景観をロマンティックな物語に相応しい風景を提供していると答えているというのです。
で、その風景とは赤と白の砂丘、漁村、そして裸足で歩くのに浅い海があり、沿岸ではここを訪問する人は魚介類を楽しみ、漁港での日常生活を観察することができるとあります。
8キロに及ぶビーチはサーフィンなどのホットスポットで、シーズンは10月~4月とあります。最近ではビーチスポーツクラブやトレーニングセンターが営業しているという。
またナショナルジオグラフィック・トラベラーはかつてムイネを、東南アジアのトップウオータースポーツの一つに挙げ、砂丘や海岸の風景が際立っているとした。ロンリープラネットもこの地をベトナムの最も美しい自然の脅威10で5位にランクインさせているのです。さらにGoogle2025年検索年鑑では最も検索される旅行先で3位になっているという。
だが外国人は海外の旅行先に何故ムイネを選ぶのか。多分、無いものネダリというか、これまで見た事のない風景を何かで見て、夢を膨らますのです。
確かに椰子の葉陰にキラキラ光る一番星を眺めるのは良いもの。各ホテルにはプライベートビーチがあって気兼ねなく遊べる。砂丘もまた浸食された岩山巡りなどのミニツアーもある。少し足を延ばすとタク山があって、ケーブルカーで山頂に行け、そこには東南アジア一長いという大きな涅槃像があって湯茶の接待もある。また7世紀にチャム族が建てたチャンパ王国の遺跡も自由に見学できるが、此処は以前にNHKが今も残る祭祀を放送していた有名な場所です。
何より新鮮な海鮮料理は美味しい。目の前の生け簀にあるロブスターに魚介類、様々に料理してくれる。広くない街だが小さな食堂でのローカルフードと会話も飽きないし、またローカルならではの楽しみの一つです。
HCM市には比較的近いため手軽に行けるのも嬉しいが、大小の宿泊施設が道の両側に並ぶリゾート地に変貌しました。バブル期には1億円もする海浜別荘が飛ぶように売れ都会の金持ちがこぞって買ったこともあったところです。
筆者は記憶では8回訪れたけれど、最も気に入ったのは僅か7コテージしかないTHUYTHUYリゾート。広い緑の敷地にプールがあり、ロングチェアーで揺られながら昼寝や読書を邪魔されない至福の時を過ごすには最適です。
何もしない、考えない自由で気侭な滞在は病みつきになった。海外から帰国して運営していた女性オーナーの目が隅々に行き届き、全て女性従業員だが適度な距離感を保ちつつ余計なサービスはしないというさりげない気配りで本当に贅沢な時間を過ごせたのです。
・空港プロジェクト承認 アクセスが拡大する
ベトナムはこのムイネが属するファンティエット市に空港を開発するため、3,8兆VNDの投資計画を承認、これに拠りラムドン省は民間の入札を通じて、民間の投資家を募集。ターミナル棟の建設を行い、50年間運営を行うとした。
エアバス321やボーイング737などのジェット機に対応できる空港と施設を想定し、年間200万人の利用を見込むとあります。
筆者の記憶では軍の滑走路があったと思うが、記事によるとファンティエット空港は2013年に軍と民間が共用するプロジェクトで、すでに国防省が監理する軍用施設は完成しているけれど、民間空港としての施設は未完成のままであるという。
すでに高速道路も完成してアクセスは良くなっている。其処にまた地方空港としてその目的が観光用としているが、年間200万人もがこの小さなリゾートに訪れるとなればタダでさえ小さな街に観光客はひしめき合うし、宿泊施設の収容許容範囲を超える可能性も出て来ます。交通手段は多い方が良いけれど、果たして外国人の人気が永劫に続くのかと言えば期待以上の観光資源はない。もし一過性で飽きられるともはや無駄の象徴となるだけ。
・防波堤がビーチに傷を深くして自然の魅力を損なっている
別の記事には、弧を描く三日月型をしている人気のあるムイネのビーチだが、海水に拠る海岸の浸食や地元の観光業者が勝手に造った防波堤によって徐々に自然の魅力が失せつつあると報じています。
確かに真っ青な高い空、静かに波が打ち寄せる白い砂浜、と茂るココナツの林。このコントラストは美しい。地元産の魚をその場で料理して月明かりの中で頂くのはぜいたくな気分です。HCM市郊外の海浜の様に芋の子を洗うようなこともなく、大きな日傘の下で、ロングチェアーに体を横たえると何も聞こえてこない静寂の中でひと時を過ごせるのです。
ところが、これは昔の話。いま筆者は全く知らなかったけれど、ビーチ沿いにはなんと数十もの仮の防波堤が建設されているというのです。そのため観光客はそれらを除けながら、或いはよじ登らなければビーチに行けず不便になった。
砂ビーチ沿いで満たされた人工の壁は海岸から直角に20M以上伸びており、別のビーチ沿いのリゾートホテルでも石材やコンクリートを使用してバリアを造っているという。強い波が砂を持って行くのを防ぐために各施設がこうした独自の防波堤を造らなければ海浜が無くなってしまうようで、いわば苦肉の策なのだが、見た目は不愉快になるほど。しかし当局の許可などは得ていません。
地元の住民によれば、この10年ほどで波が強くなり、海浜を侵食しているのだと話しているし、観光協会の会長は浸食に拠る緊急事態で多くの施設が多額の費用を投じて、一時的に防波堤を造ってビーチを保護しているけれど、抜本的な解決策が無くこうしなければ土地を浸食されるという。
ラムドン省によると、農業環境省は観光事業向けに砂袋で仮設防波堤に関する技術指針を昨年7月に発令し、全ての築造は統一性を確保するために承認された手順を踏まなければならないとしている。だがこの程度では何の解決の手段にもならない。そこで省の科学技術局は海岸の保護と構造的な解決策を提案するため原因を研究しており、2026年末までに完了する見込みとあります。
・砂洪水の被害も発生
最近ムイネで砂の洪水が発生し観光地や住宅が埋もれたという。これは不動産業者が災害防止規定を守らず、丘陵で夜間に降った大雨の影響で地滑りが発生。
開発中の2つのヴィラプロジェクトに被害があり、生き埋めになった人もいたようだが生死は不明という。この場所は多くの水が集まる所だというが、人気があるから不動産の開発がまたもや進行している。許可を出す方にも問題があるし、まして開発を計画し設計施工を行う業者には、かつて会ったことがあるけれど、全くの素人で土地を持っているだけ。別荘を作って儲かればいいだけとしか考えない。理念など持ち合わせていなかったことを思い出しました。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生