大阪梅田の百貨店で恒例の駅弁販売の催事があり、かつて赴任した地方の店が出店しているとあるので、懐かしさもあって買物のついでに寄ってみました。
ところがその駅弁、整理券が無いと買えない。朝10時に配布するそうだが、あっと言う間に終了。催事場は熱気むんむんの満員。誰もがお目当ての弁当を買いたいが仕方なく整理券なしで買えるものを購入します。安くはないけれど、地方の味が恋しい駅弁ファンは多い様です。
かつて全国に300社ほどもあった駅弁屋。今では40社ほどに激減。山あいの家族だけで経営する店、地元のみの新鮮な食材で作った素朴で手作り、心の籠った味はとっくに消滅しています。列車が停車する僅かの合間に売り子さんが窓越しに駅弁を客に手渡し、痺れを切らした乗客はホームに出てまで買い求める風景が其処にありました。
今のようにドアが自動で開閉するのではなく、茶褐色の旧国鉄の客車は手動。ブォ―の汽笛が出発の合図。蒸気機関車はゆっくり動くので、慌てて飛び乗りセーフ。誰も気にもしない。今では考えられない長閑な時代の光景です。
子供時分はヘギの折が100円ほど。梅干しがのった日の丸弁当は、木の香りがします。土瓶のお茶が30円。今はプラスチックの折にペットボトル。時代が変わったのはやむを得ないとするも味気も風情もない。
新幹線網の普及と高速化で停まらない駅が増え、何時でも幾種類の弁当を売店で乗客だけでなく誰でも購入できる時代になりました。
さて、中国メディアに拠ると今では世界最長の営業距離を誇る中国高速鉄道。
何かと日本の新幹線と比較したがり、駅弁もその類だとかで、この記事が掲載。
それには、これまで日本を訪れた中国人観光客の多くは、駅のホームや車内で販売される駅弁が外国人観光客の心を掴んでいると指摘。中国高速鉄道と比べ日本の駅弁を羨ましく感じているとあります。
各地の特産物や旬の食材を使った弁当が販売されるので種類が多く、その駅でしか販売されていない限定品もあって、旅の楽しみをより豊かにすると感動を覚えるのだそうです。しかし一方日本の弁当は冷めているので中国人には美味しくなく、売れないのではと、やっかみなのか羨望の裏返しなのかマイナスのコメントもしっかり掲載。
だが、一般乗客の反応は中国の駅弁は特別美味しくはなく、値段も高いそうで、
軍配は日本の駅弁に上がるそうです。
ベトナム国鉄。何しろ長距離移動でもバスが主体。鉄路の支線は数える位なので旅行に行くにしてもしょっちゅう乗るわけではない。それでもバスや飛行機とは違う面白さがあります。
基本的に食事は込みとなっていますから、日本の様な駅弁文化はありません。車内で出るのは暖かいPHOや、COM HOPと呼ぶランチのような弁当が配られます。仕切りは無くご飯の上におかずが乗っている。水はプラボトルが支給。だがこれだけでは足りないので、乗り慣れた客はお菓子に果物、パン類などを持ち込んできます。
初めてハノイからフエまで乗った時、4人ベッドのコンパートメントに乗り合わせた人達と旅は道連れ、夫々に持ち寄った食料を夜食にしたのです。日本の菓子は珍しく美味しいと喜んで貰えましたが、私は戴いた食パンにソーセージを挟んだだけの簡単なサンドイッチの味が今でも忘れられません。
他の3人はサイゴン駅まで。当時飛行機は一般的ではなく、ハノイ~サイゴン間は一番速い列車でも38時間ほど掛かりました。東欧製の車両は快適とは言えないし、世界的にトップクラスの速度が遅いため、ゆっくり車窓からの景色を愛でる旅行者なら嬉しいのですが、一般の乗客にとっては退屈でしかない。1700キロの旅程、楽しく食べて喋るのが気分を紛らわす方法のひとつです。
車内販売も一応ありますが、ワゴンに載っている商品は多くはなく、たまには蒸かし芋とか、ピーナツなどあるけれど、満足できるほどではありません。
また、食堂車が付いている編成で席にメニューがあっても、係員はKHONG CO(ありません)とサービス精神ゼロでそっけない。あるものと言えば缶入りコーラやジュースなど飲み物だけということもありました。
単線でしかも駅間の距離がとんでもなく長いので、普通列車は通過待ちのため田舎の駅に停車します。これがまたなんと1時間~2時間と言う有様。乗車は忍耐力が必要なのです。この間、上り下りの列車が交互に通過。安全のためかつて日本でも使ったタブレットがありました。
だが真っ黒な深夜にも拘わらず、地元の住人が家で作ったご飯に果物、地方の特産からトウモロコシの茹でたモノを持って、ローソク片手に集まってくる。
最初は何なのか理解できず、何かの儀式?と訝ったものですが、手作り感満載の簡素な家庭の味だが、実に温かみがあります。
またベトナムと言えど地方の夜は寒くて暖かいものが欲しくなる。村人は心得たもので麺類も用意してあって周到。彼らにとって貴重な現金収入なのです。
車内まで売りに来ますが駅員は咎めず大らかなもの。値段は安くて結構旨い。ローカル色豊かな暫しの交歓風景が繰り広げられるのは楽しく、旅行の良き思い出のひとつです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生