レストランのキッチン裏側

2020年3月18日(水)

中国メディアに日本の衛生基準が如何に厳しいものかとの掲載が。キッチンをみればその状況が分かるとあります。
この記事に拠れば、日本の食への安全性は高く食中毒になる可能性は低いとのこと。だが中国はどんなに綺麗で立派なレストランでもキッチンに入ってみると酷い有様。100年経っても日本に追いつけないと書いてあるが、いささか誇張し過ぎと感じます。
日本のテレビドラマや料理店紹介番組でキッチンや調理場が映りますが、観ていると確かに清潔。料理人の気配りや料理に対する姿勢も伝わってきます。
ベトナムは?といえば、ローカルレストランの経営に関わった経験から、全てがそうではありませんが、記事とよく似た状況は少なからずと考えます。
日本食レストラン等の内装工事を手掛けてきたこと。サービスアパート運営のため、さらにベトナム人の店で大阪流お好み焼きを教えるなど、厨房に入った経験からも決して良い状態だと思えない現場をみます。
開業に際して日本のような衛生管理者を置くとか防火責任者は必要なく、思い立ったらその日でもOK。だが一旦火事を出すとか、食中毒を起こせば罰則ととんでもない補償が待っています。古くからあった日本人の店が従業員のミスで失火、後始末に走り回った挙句に全てを失ったと聞く。
国際的な衛生管理法であるHACCP。この原則に拠る管理は聞いた事がなく、
店内施設については設備の設置や構造に基準も許可もない。使う食品の扱いや、調理器具にも無頓着。
地方から来た従業員に部屋はなく、営業が終了すると警備を兼ねてフロアに雑魚寝。トイレや厨房で洗面やシャワー、洗濯するのだが一向に構う気配はなく普通と思っている。だが出て来る料理が美味しいのには嬉しい限り。
裏側を知らなければですが、誰も想像出来ません。
市中心部にあるレストランでは連日連夜、排水溝から侵入してきた大きなドブネズミが徘徊、またゴキブリも出没するし、さらに日本で見かけなくなった蠅も飛ぶ、と言う始末。なので、ペストコントロール業者には駆除の依頼が多く大忙し。
一般家庭でも同じ様な状況。金網で作ったネズミ捕り器を売り歩くのを見かけるが、それ程多くネズミがいます。
お土産にシート状のネズミ捕りや殺鼠剤を頼まれることもありました。友人は就寝中に足の指を噛まれて病院へ行った位なので、ナマジの大きさではありません。ゴキブリホイホイも結構人気がありましたが、帰国中に仕掛けておくと箱中一杯に入っている。アパートでもこのような感じですから、一戸建てならもっと酷い。また今は日本で使われなくなったハエ取り紙が商店やレストランで大活躍、面白い位にくっついている。不衛生極まりないが衛生観念と状況は改善中と言った所です。
さてHCM市のビンタン区にこのレストランがありました。中心部からそれ程離れていない所で、今では道路が舗装され、近くにアパートも建っていますが、当時は田舎の雰囲気を残す地域。地場レストランが軒を並べていました。
わざわざ食べに行くほどではありませんが、安いため地方出身者の結婚披露宴などに使われまずまず。カラオケ設備を設置、ステージもあって夜ともなれば歌手が来て店を回ります。生歌を聴いてバラの造花紙にチップの紙幣を入れて渡すのがキマリ、だがこんな異文化体験も楽しい。
此処にはダット・セット(粘土)と言う名物料理がありました。日本の塩釜と同じで粘土の中に鶏を入れて焼きます。食べる時に割るパフォーマンスも面白いが、時間が掛かるので予約が要りました。
殆どの店では厨房内部は見えません。内装工事の際に経営者にカウンター型を提案した事があります。対面で調理を見せるのも大事、また洗面室を最も綺麗にと話すのですがなかなか受け入れてくれない。汚いと自覚し見せたくないとの意識が働くのかもしれません。
一般的には高価なステンレス製の設備や収納等は使いません。調理・ガス台は煉瓦を積んでタイル貼り。下部は開放、プロパンボンベや鍋釜などを置く空間。外部と仕切りはなく風がしっかり通り抜けるので排煙設備は無く自然任かせ。鶏や魚類は洗い場(土間)で調理人が腰を下して素手で捌き、野菜も洗います。
肉魚は冷凍庫に保存してあるが、根菜は早朝に市場で仕入れて籠に入れておく。だが料理の際使う水の水質検査はなく、手洗い用の洗剤も無い、掃除も不十分で衛生には無関心の実態。俎板は普通にある物、包丁は日本製の様な切れ味鋭くはない。仕事が終わってから研いで翌日に備えるなど、道具や食器を大切に扱う光景を見た試しはなく無頓着。
根本的に国家資格は無く上手に作れればいいけれど、一人前になるための修業などせず入れ替わりは激しい。面倒臭ければスープはクノール。これには流石に驚きで言語道断。だが客は気が付かない。きっと肉魚野菜で良いダシが出るのでしょう。料理人としての矜持もなく恥ずかしい。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生