南インド経済圏の中心地チェンナイ。この歴史ある港町は、かつてマドラスと呼ばれた交易の要衝であるため、古くからヨーロッパや中東の貿易船が寄港し栄えました。彼らは此処を経由して海のシルクロードの交叉点ホイアンなどへ向かい、西の貴重品と東方アジア諸国の珍品を売買。莫大な富を築きました。
今はアジアのデトロイトとも言われ、日本企業は工業団地などに約300社が進出。日本食レストランなども在って生活は比較的し易いようです。また北部と異なり緑は多く、人々も温和で礼儀正しいと聞く。
2007年4月から総領事として活躍した皆川一夫さん。在任期間が4年の長きに亘るのは珍しい。現地の新聞にも交流ぶりが頻繁に取り上げられた程で、写真入りで記事はスクラップブック4冊にもなります。2011年3月に現地各界から惜しまれつつウガンダ大使として離任しました。
就任当初、進出した日本企業はほぼ30社、離任時には90社強にまで増え、在外公館の業務だけでなく現地に深く根を張り、企業進出、地域の経済活性化にも貢献されました。さらに管轄地域の歴史・地理・自然、文化・社会にも詳しい、こんな頼りがいのある外交官もいらっしゃるのです。
チェンナイは2年前に芥川賞を受賞した石井遊佳さんの小説「百年泥」の舞台。研究者のご主人に伴い渡印。日本語を教える羽目になった仏教研究者でもある著者が大阪人らしい目線で生徒を通し、生活や社会の価値観を描写しています。厳しい自然環境の地で遭遇する未知の経験。海外生活の苦労が手に取る様に分かります。現実離れした話もあるが、因果の地に於ける体験記としても面白い。
海外進出は企業にとって業容拡大の一方策、今や避けて通れない道かもしれないが、潮時の見定めも必要です。
何れの海外在住者の言葉には重みがあります。また現地への先人や彼らの多大な貢献に拠り親日的な国が多いのです。日本では分からない本当の現地の姿、民族慣習、国民性や考え方などが見えてきます。進出を考える企業は彼の地の歴史、文化、社会、ビジネス慣習、生活習慣等々を事前に把握できます。
・某インド人コンサルタント氏の指摘(ネット記事から) 一つの観方
人口約13億5千万人のインド。現在ジェトロは5カ所の事務所を持つほど。生産拠点としても、市場としても、大いに魅力のある国で見逃せない。今後も期待が膨らむことは間違いありません。
あるインド人経営コンサルタントが日本企業のインド進出に関する所感を書いていました。某氏の目からみるとインドでは日本の存在感は薄いと手厳しい。この理由。日本のビジネスマンは冒険心が無い、日本人が居る所にしか進出しない、今では商魂が無くひ弱。成る程、一面では正しく言い当てています。
かつて企業の海外担当は如何なる地域にも深く入り込み、商売した武勇伝を聞きます。今は世界情勢が一変し、事業内容も異なる。豊かになって泥に塗れる仕事はシンドイ。外国に行きたくないなど様変わりです。足で稼ぐのはもはや伝説になったのかも知れません。
・進出先の実態を知らない日本企業が多いのは事実だが
インドで知られているのは米国と英国企業。次いで中国・韓国企業だという。パナソニック、ソニーの名を聞いた事があっても両社の製品を持っている人は少ない。金融、IT企業については全く聞かないと思っていい。また企業間でソフトバンクは知られていても、他の日本企業は分らないとあります。
冷蔵庫・洗濯機などは中国や韓国製、スマホもシャオミかサムスン。要するに一般人には日本企業より中韓企業のイメージが強く存在感がある、という暑い国での極めて寒い話。どうやら我々の知らない現実があるみたいです。
だがデータに基づくものでなく個人的経験から。指摘は何れの国でも報道などと同様に深いものでは無く限界があり、真相には温度差があると思えます。
日本製エアコンは静かで冷却力も優れている。だがインド人は納得しません。喧しくても風が強いのが良品と心得る。他に洗濯機、自動式より二層式が生活様式に合っている。日本人は現地の嗜好を考えず、優秀な製品は受け入られると思い込む。時代遅れとの判断も勝手な理屈だが、現地の好みに改善したので売れ行きは向上した話を聞いた事がある。カイゼンは日本の得意技。担当者が販売店を隈なく回りヒアリングした結果だが、本来は先に調査すべきもの。
中国でも日本製は高品質、高機能だと評価する一方、市場の現実は厳しく其処まで無要無駄。それ故に売れないと指摘する報道があるほど。
富裕層には歓迎されるが、ボリュームゾーンに目が向いていない。ターゲットの置き方(セグメント)だが、現地事情に則した戦略、マーケティングが出来ていないとする氏の忠告だと解釈します。
ベトナムでも同様。発展段階では一般消費者に余裕がなく、特別な仕様装備は不要。先ずは所有欲を満たし、ウオッチングでウオンツを確実に把握するべき。時流の変化を感じて徐々に高級化を図れば、消費者は何れ時代に追い付きます。
とはいえ現地での事業経験からすれば、企業も愚かでないため理屈は理解している。ローカル生活すれば庶民の暮し振りも自ずと分かる。だが大手の駐在者の待遇は恵まれている。これでは市井の実態が観られない。大体は在住期間が短く慣れた頃にはもう帰任。これが良くない。自ら機会損失を招いています。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生