日本式の高等専門学校教育制度を導入 そのワケは

2020年12月21日(月)

昨年ベトナムのフック首相は来日した際に、日本政府と覚書を締結し、その後早くも3校で試験的に導入されたというのが日本式の5年生高等専門学校制度。
高度な知識を持った技術系の実務派人材を効果的に育成し、企業のニーズに合った即戦力として労働生産性を上げるため、この高専教育法を新しいモデルにしてベトナムでの普及を目指したとあります。
しかし、発足して間なしにCOVID-19のため教育が停滞し、このためにオンラインでプロジェクトを進めようとしています。

・導入の背景・理由と実態

米中経済摩擦が一層激しくなり、もう言いたい放題の売り言葉に、買い言葉の応酬。生産拠点の移設やサプライチェーンの中国の一極集中が問題だとされ、見直しが急速に進む中、ベトナムが格好の移転先として脚光を浴びています。
しかし、残念ながらベトナム企業の製造する部品は品質と精度に欠けるとか、必要な原材料があったとしても元より造れない。このために多くの進出外資系企業は精密部品を輸入に頼らざるを得ないのが実情。もうお分かりですね。
こうした現状に、経済関係者からはサプライチェーンをベトナムの成長戦略にするには時期尚早で、先に企業や従業員の能力向上を図るべきという指摘もされており、実際に多くの原材料や部品を中国に依存する体質が急に取って代われるものではないことを承知している人、外資系企業は比較的多くあります。
また中国側の報道でベトナムが中国に代りサプライチェーンになるには無理がある、との記事がネットで掲載されている程ピリピリしている状況が伺えます。
これは品質の優れた部品を造れる裾野産業が育っていないことに拠るもので、
集積も見えないままというのが実態です。「SUSONO」という言葉は多くの行政機関で通用する位なので重要性は認識できているが、実態は乖離している。

・人材育成の遅れ 根本原因は教育(制度)にある

外資系企業が製造する製品の多くは労働集約によるアッセンブリー(組み立て)であり、人材面での育成も遅れている状態だし、これでは人は向上しません。
現在大学進学率が2桁になったと言え、理工科系は少ない上、いま企業の中核で働いている40歳過ぎの時代の進学率は精々2~3%。現在は総合大学9校と単科大学25校で技術系の学生を教育し、年間20万人が卒業するというが、企業の要求する水準に達しないケースが製造業に多く教育成果がない事を自認。
反対にいくら優秀であっても、家庭の事情から進学できなかった人も多いので、才能のある隠れ人材はいるが埋もれたままになっていて浮き上がれません。
以前は都市部でも高校進学者さえ多くなかったので、企業が成長しても人材は追い付かないのが実情。さらに日本の様に職業系人材を育てて社会に供出する工業高校、工科高校、商業高校は無い。全てが普通高校。専門教育がなされていないうえ、地場の工場などには育成制度すらなく見様見真似で覚えたのです。
専門的な知識を得るためには専門学校(短大とかいう)に行きますが、民間と教育訓練省が設置した所があり、夫々地方からも大勢来ている。しかし現状をみると日本へ送りたいという事で言葉の学習は良いとして、既に使わなくなった古い機械や設備、道具を使う実習や、日本でやらない方法や時代錯誤の履修をさせているなど、日本の実情を知らず誤認が甚だしい。これでは企業で使いものにならず一からやり直しで実習生の方がマシ。授業料は無駄の骨頂です。

・高度な実業的教育をする初の試みだが 実施に向けての問題点

上記の経緯からベトナムの労働生産性は低く、2018年の調査で労働人材のアジアでの評価12か国中の11位。企業への調査でも82%が労働者の質、技術について満足していない厳しい評価でした。これでは国としての競争力が無いと判断されたのと同じです。しかし経済は数字の上では成長を続けている。
実状を知らなかった政府は大慌て。これからもFTAを一層進めて行きたいし、先進工業化を目標としてきた。だが実態は進出海外企業に依存するだけ。また民間工業団地でも外資系企業を誘致したいが工業化とは何か全く知識が無い。
進出企業も素人を育成しなければならないが、慣れると賃金の高い所へ直ぐに転職。恩義も道理もない。こういう状況が長く続いたが、ベトナム政府がいう第4次産業革命のためには高度な人材確保が最優先になり、技術力向上のため2018年、日本の国立高等専門学校機構と提携した次第です。
以前から政府に資格制度の必要性を説いた方がいる。元パナソニック現法社長の藤井さん。退職後はVJCCでも活躍しましたが、モノつくり大学をハノイで発足させ毎年20人を2年間研修、最後には東大阪の町工場を見学。やっとモノ作りの真骨頂が解ったと、ベトナム人研修者が話す程に貢献しました。
高専は今年250人が学習中だが、日本ではかなり高度な教育をしています。また日本企業は厳しい技術水準を誇っており、ナマジの履修課程では通用しません。卒業後に日系企業で働くため、導入した高専制度を日本企業のニーズに合わせて効率良くするには教育機関との関係を強化し、適正な人材に専門性と実務研修を実施する必要があるとします。だがこれでは日本企業のためだけの就職予備校の他なりません。モノ作りは技術の習得、機械操作だけでは収まらない。日本の職人文化など教えられても解るものでは無い。伝統の匠のワザ、モノに対する深い愛情。気概や長い厳しい修行に耐えるという精神性、創造性が重要だが自ら習得するもの。しかし此処までやり通せるのか見ものです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生