アメリカ企業の他国シフトは暗雲? とワクチン外交

2021年12月14日(火)

越米二国間協定が2001年に発効。両国間の貿易は急速に拡大してゆきます。国交回復はクントン元大統領の置き土産、功績でなかろうか。
貿易拡大の一つは、アメリカへ渡った人や家族がベトナムに戻って居を構え、双方のコネクション活かし事業を始めた事。
ベトナム政府は二重国籍を認め、これは即ちベトナムが成長し始めた頃、彼らの資金や技術、ノウハウを利用しようとの思惑がありました。
もはや戦争での遺恨は同じ民族として無い。グエン・カオ・キが一時帰国した時も公安の尾行も無く自由に動けたと述べたほど。
この時期になると親の故国から嫁を迎えたいと言う二世、三世がいて、私の知人の娘も(外国系航空会社CA)が嫁ぎました。一世などは移住先でさえ郷土愛を忘れず、人気歌手カン・リーなどベトナム人歌手が歌うコンサートを開催。DVDにしてHCM市に居る親戚に送る。これを観ながら送られた菓子などを戴いたが、当時のベトナムの生活状況より良いと思う錯覚。こんなに良い生活をしているンダ、なんて自慢していたが実はそうではなさそう。単なる見栄っ張り。
反対に英語が十分話せず、仕事もなく厳しい生活をする人は何としてでも還りたい。機内で隣合わせた女性に暗い境遇を聞かされました。だが機内から陸地が見えるとほっとした明るい顔に。映画の1シーンやカン・リーの本にもあった位(NHKブックス)。人生いろいろ、運不運は世の常、悲喜こもごも。

昨年度の貿易高は908億ドルに達し、確実に伸びています。また今年7月迄の貿易高は625億ドル、前年同期比で32,8%増加、とこの様な状況下でも大きく伸長をしています。
ところが8月25日AmCham(アメリカ商工会議所)が在越アメリカ企業を調査したところ、20%の企業はCOVID-19が原因で生産の一部を他国へ移転している事が判明したのです。しかも14%が検討中とあるがベトナムにしても思いもしなかった痛いこと。AmChamなど外国商工会議所4団体は政府に経済活動の早期復活を要請。
何が原因かと言えば、即ちロックダウンの影響で部品調達ができない、物流が機能しない、港湾に運輸が停止状態。ワクチン未接種、隔離コストの懸念に、顧客を他国にとられる等、悩みは多々ある。生活面では通行規制と物資不足。
影響を受けず通常通りの状況にあるのは15%のみ。COVID-19感染はやむを得ないが、外資系企業は影響があれば代替策を講じないと現地を知らない本社から能力を問われ兼ねない。米国系企業の判断は素早く合理的。
日本企業は戦争終了時も残った。我慢できる所まで獅子奮迅の努力、損得だけで帰国しない。ビジネス視点から美談と言えないが各々に名誉、真価を重んじる遺伝子を持つ。

・ワクチン外交

この様な危機にあるベトナムに各国が大臣級を派遣しています。
7月は英国国防省のウォレス大臣。越英の安全保障に関して協力促進。英国との経済連携協定が発効して1年、大きな成果があり、さらにEUとのFTAで今後ベトナム経済にとって重要な位置付けとなるため大歓迎。8月には中国を牽制するため空母群を東シナ海等に派遣して繋がりを誇示。
また米国はオースティン国防長官。中国の海洋問題を睨み航行の自由の重要性で一致をみている。

8月にはハリス副大統領が訪越して2国間の関係強化とワクチン100万回分の追加供与と積極的に外交展開。何しろ最大の輸出黒字国である米国。
チン首相は今後も両国関係を強化し、協調の取れた持続可能な貿易協力関係を築くとしています。ベトナムにとってアメリカは最大の黒字国、賛辞もあるが本音の部分で投資と企業の進出を歓迎するとし、優遇措置を準備していると述べている。今後は一層関係性が高くなるはずで、これに対し中国はベトナムを強く牽制。

9月には日本の岸防衛大臣が訪越し、日本の艦船輸出を協議とあります。
さらに中国は同時期に王毅外相が渡越、年間300万回分のワクチン追加供与を行うとし、弱みに付け込んだ外交戦略を展開。中国製ワクチンなら打たないとのベトナム人は多いが、窮した政府は2千万回分をシノファームに注文。
このようにベトナムのワクチン不足を外交に利用しようとの動きが見られるが、ベトナムのこれまでの歴史をみれば中国の千年に渡る支配、豊富な資源や農作物を狙ったフランスの植民地に。また自由主義諸国と社会主義国の対立に巻き込まれてきた経緯がある。それだけ軍事的にも重要な地政学的要衝にあるとの証明だが、今回のCOVID-19がもたらす影響の一つとしてまたも外交上で利用されようとする気配が感じられます。
かつての敵国であった欧米などの同盟国より、中国への歴史的遺恨の方が強い状況の中で、経済成長のために多数の国との全方位外交を採っています。
隣国である中国との関係は絶対的に切れず、関係なくしてベトナム経済が成り立つことはなく、領有権問題という難儀な問題を抱えるにしろ継続して難しい舵取りが求められます。もちろんこれは日本や台湾なども含むもので、国際的にみて違法と言えるが、活発に活動を続けている東シナ海や南シナ海での挑発行為は大きく関係してくる。
そこへ突如降って湧いた中国のTTP加盟申請。可否は別にして早速ベトナム外務省は支持のコメント。何を意味するか。

王毅外相はベトナムに対し南シナ海での問題については、共同で外部勢力に拠る挑発、干渉を排除したうえで、一対一で交渉を行う姿勢を示したと現地では紹介しています。中国は勝手論理を主張するのは間違いない。ベトナムは自国の漁船への海上での暴挙に幾度も中国に抗議しているが無視、答えは明らか。
これに対しベトナムの反応は実務的で冷静な態度を続け、アメリカと中国との関係を強化しつつ、他の国やアセアン諸国とも協力して自国の主権を図る。とハノイ国家大学の元学長ミン氏が論評したと伝えているがもっともな見解。
中国とは同じ社会主義国であり、深い関係があるにしても、これ以上のものでもないのは自明の理です。

日本にとってベトナムとはシーレーン等に対し協力して行く必要があるため、巡視船の譲渡や、今回の「防衛装備品・技術移転協定」の締結は必要不可避なものと認識できます。日本はこれまで世界最大の援助国として、また企業進出と投資に関して積極的展開を図ってきました。しかし手の内を安易に明かせば国の利益は図れません。民間企業は根幹の技術は絶対に公開しない。
12日に岸氏はベトナム国防省で講演を行い「困ったときはお互い様」と話したとの報道。意味合いは分かるが日本的な曖昧表現は海外で使わないのが良識。大臣ならばもっと慎重に言葉を選ぶべきで海外知らず。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生