ベトナムでドラッグチェーンが急増している。大手3社の店舗数は2400店と僅か3年の間に8倍にも急成長しているのは只事ではありません。
これはCOVID-19を機に国民の健康意識が高まったからだと地元紙は書いているが、これまで主であった個人薬局から薬局チェーンへ販売が移っていることと、消費者の思考や行動の変化に拠るものと考える。
FPTと言えばベトナムIT業界最大手で日本は大の得意先であり日本支社も早くから設置している。
このFPTがドラッグストアのロンチャウ(龍州)薬局を2017年にM&Aして以降、店舗を拡大し続け700店に増やし、国内全市省へ出店を果たしているという話題。今年末には800店にまで増やす計画とある。
・ベトナムの薬局事情
以前ベトナムのファーマシーに関してはコラムにしていますが、余りの急激な変化に驚くばかりです。
何処の街にもある個人薬局、市民は医者に行くより殆ど此処で扱う売薬で済ませていました。風邪を引き近所の薬局に行って症状を言えば、幾種類かの薬をビニール袋に入れ渡してくれるが精々3日分。こんな調剤が一般的でした。
またテレビで宣伝している有名な頭痛薬などの箱入りも売っているが、40年ほど前の日本の薬局と変わりません。話題のEPAなど健康食品やビタミン類もアメリカ製、日本と比べるとずいぶん安く手に入る。
もちろんベトナムの薬局でも薬剤師免許が要るが、いわゆる名義貸しがあって親子代々で営む地域の薬屋さんも利用していた。
実はこの個人薬局は問屋から薬剤を仕入れているのです。この問屋はいくつかあってほぼ全国に亘って得意先を持っている。年に一回謝恩会など開催、個人薬局の店主を招待して食事会と海外旅行が当たる豪華賞品の抽選会をするほど大変な仕事。社長の奥さんはもう辞めて米国へ移住したいと話すほど気を遣う。
病院、特に国立は関係する薬品や器具機械の仕入れ先が決まっていて、参入できる余地などなく持ちつ持たれつの関係が続いている。こんな中で事件の起きていて、品質に問題がある薬品などを仕入れ患者に苦痛を与えたなどと保健省が公表しています。悪質な例は日本でも知られている病院で不正があり元院長が懲役刑、また今年の3月には保健副大臣が職務違反で逮捕されているくらい。
日本などから先進医療機械などを輸入する商社もあるが、これは主に病院とか医科向け。かなり利益は大きいけれど、その分担当医や購買担当者へのお礼が嵩んでしまう。と直接話を聞いたことがあるほど業界は「病んでいた」。
・医薬品類の市場規模と薬局のチェーン展開
ベトナムの医薬品市場規模は2021年に約59億ドルと前年比で9,6%増。
今後5年間の推計では、ベトナム国民の健康関連支出は所得の増加と並行し、平均9,5%とみられています。
薬局の総数は、統計では2021年に44600とあるが、これは2016年から5年間で約20%、11000店が消滅しているとされる。
しかしこの内、2016年にチェーン薬局が185店舗に過ぎなかったのが、2021年には1600店舗に増えており、個人薬局からチェーン店へと進んでいることが分るが、この傾向は今後より明確になってくる。
では現在のチェーン店の状況と、何故この様に急速に変化しているのか。
三大大手チェーン店とは、まず一位にはメコンキャピタルが支援する最大手のファーマシティーが1100店舗を構えている。この会社のモットーは人口の半分がバイクなどで10分以内に店に行けるようにするという利便性の追求で、2025年迄には国内に5000店を出店する体制作りを目指すという方針。しかし多くの店舗は黒字化に至っていないという。
2位に食い込んだのが先のFPT系列ロンチャウ薬局。財務体質は至って健全で他チェーン店の2倍の利益となっており、月額の売り上げが15億VND(約6万4千ドル)にもなるというから驚愕。このチェーン店の特徴は最も薬品の種類が多く、HCM市内の病院と連携し慢性疾患の治療にも対応できるとある。
3位には家電量販店であるテーヨイ・イー・ドンの系列であるアンカン薬局で約550店舗。資金力のある親会社と携帯電話などの販売で掴んだ幅広い顧客層が新規出店を加速している。年末までに800店舗、2023年に2000店舗を目標にすると鼻息は荒いが、社長の交代で減速している噂も出ている。
さらに話題のあるマサングループや通信のヴィッテルも参入を検討しているというから混迷を極めています。だが薬剤師は足りるのか、有効性が低いという国産医薬品とか一部の海外製の管理はどうなのか。
これらの企業は何れも資金力があり現在の戦略は店舗の拡大。個人薬局と違って処方薬の厳格で適切な医薬品管理で在庫を切らさず、かつ余剰をきたさないので安定供給と安価に提供できる利点があるとされます。顧客の電子的管理も出来ており、客は安心できるため次々に既存の小規模店のシェアを喰っている。
だが各チェーン店にはそれぞれ特色があり、ロンチャウが医薬品や機能性食品の占める割合が70~80%と高いが、ファーマシティーは40%、アンカンが50~60%と他の雑貨類の比率が高い。こうなるとコンビニ化して来て、各業態の業際とか特色が無くなりつつあり、日本と同じように食品、化粧品、雑貨類も置く状況になって行くのは明らかです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生