此処までFDI企業に対し、これまでと異なった考え方をする人が一部に居る状況に触れてきました。様々な意見が出てくるのは経済、社会が成熟してきた表れで、議論を通して良い流れになるのであれば結構なこと。
COVID-19を契機として、ベトナムが世界のサプライチェーンとして最も有力であると、取り分け西側の国から話が伝わり、幾つかの国際的大企業が中国からベトナムへ生産拠点を移している実例も現れました。
ベトナムはこの動きを歓迎。しかし一部で現在の企業能力の状況から果たして可能かとの疑問も出されています。このサプライチェーンに対する見解にも、もろ手を挙げてと賛成いう訳ではないとの意見が出て来ました。
「ベトナムは世界の次の工場になれる可能性があると思うか?」という記事が掲載され、これに政府から見解が求められる程のTho博士が応えていました。
自国の経済や企業の経営実態を直視し、比較的正当に評価できるとか、冷静な考え方が出来るようになった。そういう能力を持つ人が出てきたとも思えるが、大きく進展してゆく絶好の機会と考えます。
アップル社が2023年にマックブックの製造を初めてベトナムに移転するという情報があったとき、チン首相はサムスンにベトナムでチップ生産をするように提案したとあります。これを切掛けにベトナムでも半導体の製造を行えるようにとの思惑があったように受け止められています。
COVID-19から脱グローバリゼーションが起きたが、中国政府の厳しい対策から製造業に関し、中国での製造や部品供給への依存度を下げる必要性が出てきたのが要因です。最も強く望んだのがアメリカ、これが現在の半導体分野において中国攻めに繋がったと思えて仕方無いが、考えすぎでしょうか。
これが進むならば各国間の生産に関しての相互依存が減る事に繋がる可能性も出て来ます。だが此処まで世界的分業が進めば、素材~製品化までの全工程を単一国内で行うのは不可能と言っていいほど専門分野が細分化され、研究開発も得意分野に特化してきた。日本が地政学的、企業努力を水泡に化し東西分断に同盟国として加担するのが正解か。兆しは強くもはや混乱と対立構造の激化しかなく、政府は国民へ責任を果たせるか。
ベトナムは東西代理戦争を経験したし、したたかさという武器を千年以上に亘る歴史から習得してきたので、国際ビジネスにあっては右か左の選択ではなく、これまで上手にバランスを図りながら成長を遂げてきました。
このグローバル・サプライチェーンをベトナムが担うとなれば、大発展を遂げることが可能だし、世界の企業はこの上ない部品供給の安定を得られるかもしれない。だが簡単にそうなることが可能なのか。他にも候補として挙げられる国はあるにしろ、なぜこのような話になってきたのか。
各国の有名な主要経済誌がこぞって持て囃し、次の世界の工場としての候補国として浮上した要因もあるとしています。
急成長をとげ各国から投資が継続され、しかも人口が増加中で間もなく1億人の大台に乗る大国への成長過程。勤勉でビビットな国民性とかで工業国化への可能性を持っているとさえ論評。地理的にもちょうどいい立地条件を持つ。
しかし実はベトナムが歓喜するほどではなく、世界の企業は中国から生産拠点を一部移転したいとみなしている国に過ぎない。これが事実の様です。
Tho教授(博士)はベトナムの商工省から産業政策に関して、提言を求められる立場の人だが、中国の経済誌Caixinの記事が指摘するように、ベトナムは部品を組み合わせて製品を出荷することが出来るという「緩衝地帯」であるけれど、これが悪い訳ではないとしています。
実際にはベトナムの輸出は依然として外国企業に依存しており、その度合いは過去よりもさらに増加している。この輸出から得られる価値(利益)の殆どは国内企業でなく、このFDI企業に属している。外国企業は国内企業に対して優位性を持っている。技術やノウハウ、システムどれをとっても劣っているが、この機会を利用して技術を習得し、生産と輸出を自給自足し、ベトナム企業が外国企業にとって代われる目標を掲げることが出来るなら、素晴らしいと回答したというのです。
教授によると、2045年までに近代工業国になる事を目指していたにも関わらず、産業に付いては完全な政策が策定されたのは初めてで、明らかに世界の工場になる準備は不足していた。このチャンスはあるけれど、実際の利益は殆ど得られない。形勢を逆転するためには幾つかの奇跡が必要であり、社会経済環境を積極的に創り出す必要もあるが、成長と輸出の数字を見て満足し過ぎた。
産業の包括的な戦略を怠ったと述べ、猛省を促したかたちです。
ベトナムはCOVID-19禍にも拘らず、8%の成長を達成したけれど人々の収入はあまり改善されていない。付加価値の殆どは外国企業に行くからと、他の博士と同様の見解を示しており、ベトナムは世界の工場になれるかも知れないが、もっと学ばなければならないとする。政府はどう出るのかだが、変わらない。
これだけ見れば可能性を否定しておらず、外国企業が元凶と言いたそうな気配。
だが何れの博士もマクロ経済専門家ではあるけれど、もの作りという観点から自国企業の技術力や製造に関する一連の状況、製造に必要とされる精密部品、その原材料や素材さえ自国調達できない実態が全く分かっていないのです。
マザーマシンやロボットも造れない。研究開発力も弱いし、何よりモノを造るという精神文化に欠け、伝統や気概を重んじる職人などいない。この様な実情を理解できないのに、意見具申を求める省庁もどうかしている。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生