FDIの話題は沸騰するが FDI企業への評価は厳しい見方も

2023年5月16日(火)

FDI企業は効果的な投資をベトナムにもたらしておらず、地場企業の持つ可能性すら伸ばしていないという。したがってベトナムに対する投資の質を向上させ、その効率を評価する必要があると結論付けている。
何とも傲慢な言い方に取れるけれど、だがFDI企業の輸出割合は全輸出額の70%を超えており、国内企業のそれは30%に満たない。しかも一次産品とか低付加価値製品しか造れない技術力。この現実をどのように自己評価するのか。
貿易の黒字化は外資系企業が担って来たお陰であり、そうでなければ今もって低開発国のままだったとも考えられる。経済が発展して国は豊かになったし、地場企業が成長したのも外資系企業進出に伴う成果に違いないのは事実です。
この様な評価をせず実に馬鹿げた内輪の痴話話に収めておくのならまだしも、公表されるのは如何なものか。国内向けニュースであればこそ報じられるが、正確なデータならまだしも、海外に向けて恣意的で感情論の発信なら由々しき問題でしかありません。

計画投資省が国内製造業の能力を表現した実態は、以前に自らが指摘した通り。発展を進めるのなら適切な投資環境とかインフラ整備を進めるのが先決だし、投資や事業環境に不満を言いたいのはむしろ海外進出企業の方です。
地場企業は付加価値製品の製造が自力で出来るとか、国や行政、企業が外国に頼らず自ら努力し身銭を切って研究開発してきたのか。企業や必要とする人材を教育し、育成する投資をしてきたのか。決してそうではありません。
工業団地を今もって建設して外資系企業の誘致に走っている。これは何を意味するのか。チグハグなことばかりで一貫性がありません。

経済研究管理中央研究所の元所長Cung博士は、ベトナム民間企業と民間経済は発展したが、しかしまだ世界的のトップ企業には成れていないとしています。
彼らは多大な努力をしたけれど、実はベトナムのビジネス環境は自国企業にとって好ましいもので無いと主張。FDI企業の所為と決めつける言いがかり。
これに同意するエコノミストでもあるLuc博士も、民間企業は劣悪なビジネス環境に置かれており、法律や政策面で予測不可能な要因に直面しているとする。民間企業は経済開発の重要な推進力で、公正な競争下で活動するための条件を創り出さなければならないとするが、能力差からして無理というもの。

これだけの報道では何を指すのか良く解からし、取材を編集される場合もあるので一概に判断すべきでないが、先のFDI企業に関連してFDI企業は国や省の利益に能力に見合う貢献をしていない。排除せよとは言っていないけれど、FDIに対するインセンティブを国内企業にも適用するべきだし、政策立案者は外資を適切に管理する必要があると手厳しい。

要は思う程の利益を出さないので国の利益にならず、何とかしろという意味のようだが、政府の外資受け入れ政策との整合性はなく相容れない。
今まで行ってきた成長戦略。即ち外国の資金や技術支援を仰ぎ、外資系企業の進出を図り、経済発展を成し遂げてきた歴代の国家主席や首相達の政治手腕や行動を否定するのでは無いにしろ、現在に至り未だ外資企業に依存する体質、誘致のあり方を考えなければ将来は無いとの意見と捉えます。
これまでこの様な記事は見なかったのだが、実は水面下でくすぶっていたとも考えられます。だが一介の市民の見解ならまだしも、主幹省庁の担当者や経済研究に携わっていた元高級官吏の見解が報じられている以上、政府はどう対処する積りなのか。

彼らは自国企業や製造現場の実態を把握できていない単なる理論経済学者ではなさそうだし、実体が分かっていない愛国的自意識過剰思考とも考えられない。ならばこれまでの政府の経済戦略について反対の人達なのかだが、成長過程を勘案すればどの様に国や企業が発展してきたのか、論理的にも解明されるもの。様々な現場を観て、数字の中身を精査すれば理解できるのに、一方的な言動はバランスを欠き研究者とも思えない。
あえてこのニュースを取り上げたのは、国内には外資企業の進出を歓迎する人だけでなく、面白くないと考える人も一部に居るということが判明したこと。だがこれで以って進出が難しくなるとは思えません。それ以上にベトナム企業が先端技術や化学装置プラント技術など付いてこられない。

ベトナムが未だに発展途上の新興国と思うのも正しくなく、これまでに書いた通り、もはや中所得国の域に入っていると捉え、何かにつけて不十分ながらもテイクオフの段階であるとの認識も必要になったと考える。
こうした現地事情を考慮しながら、自社に適応する必要充分条件が揃っており、かつ将来的にも持続可能であるとの判断。さらに状況の変化は目まぐるしいものがあり、時流に対処できるだけの準備をしておく。また何れの外資企業でも大きく変わらないが、何時までも本社の指令に基づいた判断しかできない様であれば永続は望めない。如何に適切な時期に現地化を図り、そのため役員にも成れる人材を育成強化、次の段階へ進める戦略も必要だと考えています。すでにこのように配慮している企業は実際に幾つかあるし成功している。
筆者は小さいながらローカル事業を一緒に開業したベトナム人に譲った。ある知人の会社は有能な国立大の留学生を採用し、本社役員と現法社長に任じたが、彼ならではのやり方で現地でも有数の企業にしたことも知っている。
ベトナム新興企業が日本に進出し、日本の大手企業を得意先にする時代になりました。これをステップにして世界の舞台へ。時の流れを感じます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生