ベトナム南部の不動産取引が90%減少

2023年6月15日(木)

昨年来続いているベトナムの不動産市場低迷。回復の兆しなど全然見えません。不動産会社は暗闇から脱出することが出来ず、それどころか倒産が続いている状況にあると現地メディアが報じるくらい深刻な渦中にあります。
政府は2月に不動産開発企業を救済するため、債権の満期償還を遅らせる許可を出すと共に規制を緩和しました。また企業は再び債券を発行し始める予定で、その総額は980兆VND(約42億ドル)もの巨額だと伝われます。
銀行は回収を必死になって行なうけれど破産されると元も子もない。このため新規債権引き受けの殆どとなる99,99%は、銀行などが仕方なく購入するしか手立てはなかったようで、泣きっ面に蜂とはこのこと。
銀行の貸付金利も3月から若干下げたけれど効果がみられず、焼け石に水状態であって返済は滞ったまま。企業も資産を売却して急場凌ぎを続けたけれど、もう売るものさえない状態で、逼迫している。であれば銀行にも影響はあった筈なのだが表面化していないだけかも知れません。
不動産開発事業は全産業へ波及効果が大きく、政府は放っておく訳にいかないのだが、金融に関して問題があっため規制を強めたのは止むを得ない。企業が借りた時期は高金利でも販売が好調で楽に返済ができたし、銀行も湯水を垂れ流す如く貸付けた。不良債権の増加は自ら首を絞めただけで報いが来たのです。
日本のバブル期でも銀行の会議室へ不動産屋が頻繁に出入り、行員は金と書類を運ぶだけ。挙句の果て回収不能で泣きの涙。金が無い業者は強く、無い袖は振れないとそっけない。この疫病神に銀行の担当者は為す術なくスゴスゴ退散。

しかしこれで市場が元に戻るかと言えば、今のところは期待しても無駄な話。
それどころか購入予定があっても、まだ下がるとの思惑で価格の推移(下落)を見守っている状態。心理戦だが素人は知った被りをして火傷することが多い。
また例えば企業勤務等の一般人はアパートが買える層かと言えばそうでなく、収入からしても簡単でない。販売価格は安くないうえ政府が提供する社会住宅でさえ金利は8,4%と、現在の日本からすればとんでもない高金利なのです。
企業の方もターゲットをどこに置いているか、どんな戦略を持っているのかもさること乍ら、実務担当者がかなり退職しているので事業継続は可能か不安。
とするならば折角銀行が債権を引き受けたとしても溶けて蒸発するだけです。
また担保として何をどう押さえているのか。以前の融資や債券引き受け時点では誰もが右肩上がりに上昇するものと安易に評価していたため価値は低い筈。
加えて今では不動産低迷のさなか思う以上に経済は回復していない。現地報によると複数の業種からは多くの解雇者が出てやむなく帰郷したとあります。
これまでにも書いた通り、お家芸の電子機器輸出が振るわない所へきて不動産不況が影を落とし、そこから派生して建設や鉄鋼業の業績も下落している。
今年中には元に戻るであろうなどと希望的憶測を流す関係者も一部に居るが、甘いとしか言えません。こうしたニュースは現地で連日何本も報じられるけど、日本では関心が無いため殆ど知られていないのが実情です。

4月になってから世界銀行が世界のGDP予測を修正しているほど。COVID-19の影響とロシアのウクライナ侵攻が解決に向けた道筋も見えないまま。これではこうした発表があっても不自然でなくさらに混迷を深める可能性があります。
ベトナムも影響を免れず今年第一四半期の統計は思わしくない。経済が急減速している状況にあり、政府は年末までVATの2%引き下げを承認しました。
年初来3カ月間のGDP推定も4,8%から割り込み3,3%とか。これでは年間目標の6,5%達成など極めて難しいとの見解が大勢を占めています。
輸出は金額ベースで前年同期比約10%減。総輸出額の2割を占めるスマホ輸出が足を引っ張っている。サムスンに頼り過ぎ次の手立てなど考えていなかった。
また1~4月期のFDIは約18%減。海外機関や銀行がGDP成長率の見直しをしたのにはこうした数字の背景があったのです。
そこへCOVID-19が復活の兆し。成長を期待していたにも関わらず、マクロ経済も困難に直面していることが数字でも明らかです。この一連の流れを捉えると、市民生活への影響もそれなりに大きく降りかかると考えるのが正解とみて良い。
生産復活は世界の需要が回復しない限り、加工品輸出国として当然の成り行き。特筆すべき製品、特許や技術にノウハウ、また天然資源など持たないのなら、国内需要を高めるべきは緊急案件。特にサービス産業を活性化させるのが重要。
このため政府と旅行業界や飲食業界と観光資源の開発により、外国人観光客を呼び込もうと躍起になっている。最大規模の中国がベトナム旅行を何とか解禁してくれたのは大きな成果だが、書記長訪中が功を奏したのかも知れません。

資金が豊富で経験や不動産運用ノウハウを持っている海外投資家も、こうした状態なら買いに回る気配すらみせず、様子見は仕方がない。過度に期待しても言い訳がましくて何の役にも立ちません。またこれまで通りだが、土地に関しては自由主義諸国の様にいかない問題が多々あり、火中の栗など拾いたくない。
次の項に書いたけれど此の5月に国会で住宅法の改正が行われます。この中で期間を固定すると考えたが、多くの反対で取り下げました。喧々諤々の論争があったけれど、こうした話が俎上にあること自体、海外投資家に不安を与えるだけ。再燃すればなし崩し的リスクがあり過ぎて誰も手を出さなくなる。JVであっても投資するなど無謀。他業種にも悪影響を及ぼすことも考えられます。

・土地は価格が急落 動きもほとんど見られない

現地の記事には南部の土地は買い手が消極的で、なおも下落するとして動きは止まったまま。昨年に比べて90%以上も取引が減ったと伝えています。
現地不動産コンサルタント事務所の調査で、HCM市、隣接するビンユン省、ドンナイ省、ロンアン省という経済のハブとなる地域で前年比94%減少したと発表しています。

価格の下落は10%となっており、早く売るため20%は引かないといけないと業者は話すが、筆者は経験上から底を打っていないとみる。ネットの物件検索は前年比45%ほど低い数字となっている事からも判断できるが、関心そのものが低いのです。そうなると見通しは暗くさらに下がる可能性は高いので早めの決断が重要。思い切って下げ幅を大きくしないと買手が付かないままになる。
換金しなければ支障があるという訳でなければ、土地は長期資産として塩漬けのまま放置し我慢をするべき。ベトナムは人口の増加が続く傾向にあり、殊に大都市周辺は生産とサービスが集中、人も集積する。交通・道路インフラ整備も進むので住宅適地は一層拡大。一定の期間を過ぎれば地価回復は必ず起きるのが定石。焦らずに時期を待つことが最も賢明な策だと言えるのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生