経済成長が続いているベトナム。しかし一向にとまらない、やめられないのが公務員のお小遣いのオネダリ。いい加減にしろと言いたいけれど、何も外国人にだけというものではなく自国民や企業でさえ公務員がたかって来るのです。
民間でさえ納入業者がスーパーの仕入れ担当者から、あるいは銀行の担当者が融資を実行する段になって初めて訳の分からない手数料を求めて来ることが、たとえ相手が外資系企業でさえ往々にしてあります。良くない言い方だけれど、親の背中を見て子が育っており、精神的貧困度は増すばかりです。
一昨年だったか、さる日本企業の現地担当者が相当額の賄賂を要求され、迂闊にも支払い、日越当局から贈収賄でやられて、でかでかと新聞記事を賑わしたことがありました。だがこれなど余りの多額ゆえ流石に収められなかったと言うべきで巷には日常茶飯事で常習犯がいっぱいいるのです。
工業団地内ではコンテナを工場前で出荷する際、税関が立ち会うけれど、あるEPZでは20フィート、40フィート夫々に金額が決まっていて、支払わなければ出してもらえないキマリになっていた。勿論経理処理が出来る訳はないため現法社長の懐を痛めてしまう事になるが、お構いなし。
ホテルやサービスアパートだと、定期的に公安が制服を着たままシュウキンにやってくる。この時は日本人管理者が出ないでよく、現地職員が処理してくれたけれど、抜け抜けとやくざと一緒、「みかじめ料」を取りに来た。
銀行でも同じで、知人の現法社長。結果的に断ったけれど、担当者は利息以上に個人的手数料の提示をして来たという。またかつては私の部下だった社員が独立して、食品加工品を製造。自分でも店で販売しているのだが、これを地元有名スーパーで販売することになった。初めは何も言わなかったけれど、担当が代わって賄賂を要求。で彼女はどうしたか。さっさと商品を引き上げた。
舐められっぱなしだから図に乗ってくる。業者が一致団結すれば恐れることはないけれど、世の中そう上手い具合にはできていないから蔓延っているのです。
また新聞や国営大手テレビ局(HTV)の取材でも記者が堂々と取材料を求めて来る。これは日本商工会の盆踊り会でのこと、日本総領事館主催と銘打っているにも拘わらず平然と求める。だが担当者はしっかりと断った。知り合いの新聞二誌は流石に何も言わず翌日の朝刊にしっかりと掲載。人脈あればこそ。
ベトナムでも人気レストランの記事が経済されるが、完全な嘘八百の八百長。
これに騙されて食べに行ったことがあるけれど、大した料理ではなかった。
さらにもっと酷いのは税務署で、もう飲食店イジメ。調査と称して店にやってくる。店では手ぶらで返すわけに行かず、食事と酒を出すけれど、初めは断るフリをするのだが、だんだんエスカレート。家族友人を従えて来る確信犯。
例をあげるとキリがないけれど、権力を傘に着て横暴の好き放題。でなければ公務員が高級スクーターに乗れるはずなどありません。
では公務員が集めた銭っこをどうするのか。これは人民委員会に勤めていた人の話だと、テト前にプールしておいた金額を職階に拠って配分するのだという。
断ることはできないシステムで、万が一正義感を表に出せが村八分。一切無視され続けられ何れは退職の憂き目と相場が決まっているのです。余程の人物であればやってやれないことはないけれど、清廉潔白と言える人物など居る訳がありません。もしもやり切るとなれば、恐ろしいしっぺ返しが待っている。
一般市民は憤っていてもあからさまには出来ない事情がある。日本の大使館や商工会議所も政府に改善を要望しても全く以って収まる気配がありません。
ところが、現地報には前代未聞、とんでもない記事があったのです。
何と中央銀行の検査官全員がSCB(サイゴン商業銀行)から賄賂を受け取っていたというから凄まじい悪代官。公正であるべき国家銀行、恐らくこの場合はベトコムバンクだと思えるけれど、中央銀行もお前もか、では済まされず、どのように政府は言い訳をするのかだが、報道には何のコメントもありません。
記事に拠ると、警察の発表ではSBCの監査を担当した中央銀行の検査官4人が銀行の法令違反を見逃すために、1億VND(4137ドル)から520万VNDまでの賄賂を受け取ったとあるが、横領した額に比べるとケチ臭い金額。
また同行を検査した16人の職員を公務執行中の地位利用と職権乱用の罪で公安相は起訴するように勧告したという。だがこの他の7人には捜査に協力して、金銭も返却したとの事で起訴は免れたとある。これは先ほどのおこぼれをやむを得ず、無理に取らされた、という情状酌量の大岡裁きかも知れませんが。
日本であれば、起訴猶予に該当するけれど、自ら手を汚したくはなかったが、ベトナムならではの特殊事情を認識していたから、と言うべきと考えます。
しかしこの事件、実は2017年から始まったとある位、根が深く癒着も酷いものだったようです。この時点で不正(不良債権の比率の書き換え)を発見しながら、主任検査官のニャンは報告書を改竄し、銀行の事業が継続できるように図った。こうしなければ取り付け騒ぎもあったかも知れないほどの巨額不正。
こうなると屋上屋を重ねるが、翌年にもローン貸し出しに関する不正があったけれど、わざと検査官の人員を縮小、書類を改ざんしたという。
ラン氏1兆VND(約440億ドル)を引き出したがこれは預金者の金。不動産事業の欠損の穴埋めにこれを勝手に使った模様だがあり得ない巨額。資金量が1,5兆円あるというけれど単なる私的流用だけでは済まされない大事件。
銀行はこの見返りに、検査官全員に多額の金銭を渡して隠蔽したのだが、決算では520兆VNDもの損失を計上するハメになったのです。これに付いては銀行のオーナーも贈賄、銀行法違反、横領など複数の罪で起訴される模様です。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生