4月14~15日の2日間、中国の習近平国家主席がベトナムの招待によるとされる公式訪問。訪越は二回目だが何を意味するのか明白。此の後マレーシア、カンボジア訪問も中国支持への確認と中国経済ブロック圏の形成にあります。
15日には越中が共同声明を発表。これをベトナム地元メディアは詳しく報じ、その全文が掲載されているけれど、同じような文言を並べてアジテート。
この要旨は両国が包括的戦略パートナーシップの継続的な深化と、戦略的意義を持つ共通の未来を持つ両国の運命共同体構築を促進するとなっています。
これは前回と殆ど変わらないのだが、ラム氏が書記長就任後、初の習近平主席と対話をした結果発表であり、共通の懸念事項にある国際的及び地域的問題について友好的に協議したとされることに意義があると思えます。
即ちアメリカのトランプ政権が世界に喧嘩を売っている関税問題があるけれど、常にアメリカと中国との間に置かれたベトナムの苦しい立ち位置を考えると、これから先ベトナムの政権はどのような態度を取るべきかに注目して行きたいと考える。全方位外交を掲げて成長してきたけれど、ここに来て難しい舵取りを余儀なくされるのか、中国の意向に沿う形で社会主義国建設としての立場を明確に打ち出せるのか見もの。だが一方で副首相を訪米させ、アメリカ製品の関税をゼロにするので、ベトナム製品の関税を5%にとの要望を出しているが、これはアメリカからの絶対的輸入量が少なくて、仮に46%であったとしても、痛くもかゆくもないので、大した意味はなく、何とかバランスを保とうとしているのはシタタカさの表れなのかも知れない。だがこんな小細工やマヤカシは通用する訳がなく、貿易赤字の額は完全に把握されているから無駄です。
声明の内容だが、75年間に及ぶ外交関係樹立以来、両国は地理的、文化的に近く人同士の密接な繋がりがあり相互に関連する運命があると緊密さを主張。
世界情勢が如何に変化しても共に闘い、民族の独立と解放のため社会主義の道を邁進。毛沢東とホーチミンさんまで担ぎ出し、同志であり深い関係があると、先ずはアメリカと自由主義社会の国を牽制しているのです。
そして今、両国の政治的信頼、防衛と安全保障という強力で新たな時代に突入。
未来志向でベトナム・中国共同体の構築を推進すると明言している。
だが聞捨てならない表現があって、これはベトナムが習近平を中核とする中国共産党中央委員会の指導で中国は第14次5か年計画の完成させることを望んでおり、現代社会主義体制を全面的に建設し200年目標を成功裏に実現する、とまで言い切り、まるで親分の様相。またドイモイ政策とは社会主義への移行期である点に変わりないが、ラム書記長が2026年の14回党大会で新たな社会主義を構築するなどと公言をして国家思想と将来像を明確にした訳です。
そしてハイレベルな方向性に上げ、両国で外交、防衛、公安に関する3+3、戦略的閣僚会議で対話を開催、総領事館の新設を始め人的交流の促進を行なう。
さらに一つの中国しか存在しないと明言。経済は別として国家レベルでの台湾の独立を支持しない、チベットは内政不干渉とベトナムに切り込んでいます。
開発に関しては、二つの回廊、一帯一路構想を効果的に協力し結び付けて実施。これは鉄道、高速道路などのインフラ整備を指すもので、具体的に橋梁建設などを挙げて、今回これについて踏み込んだ越中国境間での開放を謳っています。
またビジネスに於いては、相互に投資して新興分野での経済協力の開発を強化、安定した産業チェーンとサプライチェーンを共同で構築し、さらに金融・通貨にあっても政策管理と改革を共有。鉱物分野でも協力を検討するとある。
これ等は中国の狙い処で、今でも中国企業のベトナム進出が加速している状況だし社会インフラを共同でと言い出したが、その実は閉塞感がある中国の経済、何としてでもベトナムを市場として確保し、中国から離れていった部品供給網をベトナムで再構築するとの野望がミエ見えだが、こうなれば下請け国家です。
通関にしてもベトナム側農産物の中国への輸出を歓迎するとし、バランス良い貿易を発展させることで一致したとあるが、海南省・海口始めベトナムの貿易促進事務所開設を早期に行い、国境ゲート、検問での通関手続きを効率化することで一致したとするが、どちらを利するかは明白なことなのに逆らえない。
また科学技術などの二国間協力は、全てにおいて協力を検討。共同研究と技術人材の育成を行なうとして長々と事例を挙げているが、ベトナムは最も欲しいのが化学・技術、リノベーションであり、これには原子力も含まれます。
両国は双方の社会基盤を強化するため、両党の通信機関が戦略的に協力する。
これは双方の規制当局の覚書を実施し、報道機関、メディア、出版、放送などの機関での評価の実態とは何を指すのか良く分からない。だが規制当局とある以上、これまでより検閲・統制を強化するのではなかろうかと危惧されます。
観光文化でも同じく情報共有を強化、さらに教育での協力の協定に踏み込んだ。
中国が適切に実施し、教師、学生、学者間の交流を促進。優秀なベトナム人が中国で勉強・研究を歓迎し奨励するが、奨学金を出すとまで書いてあるけれど、これは親切なのか、あるいは洗脳の一手段なのか分らないが、額面通り素直に捉えて良いものなのか疑えばキリがない。だがこれらは民意を反映したものではなくつんぼ桟敷、須らくは政府の一方的な決定による迎合です。
これらの内容を読みとれるが、また開かれた地域協力でアジア太平洋地域での平和と安全を維持する重要性を強調している。だが中国は共同体として包括的、強靭なASEANが統一されることを支持するとしているも、大メコン圏における中国主導の協力促進を連携するとしているが、水の源を持ちメコンを支配したい中国は、意のままにASEANを牛耳る所に真意があるのではと思えてならない。
今回のアジア歴訪はマレーシア、カンボジアを併せ3ヵ国だが、中国との連携が共同体構築の推進であり、これが地域と世界の繁栄と安定、発展を促進するとしているが、余にも飛躍し過ぎで焦りからくる唯我独尊的論理でアメリカに反旗を掲げてまでこれらの国が中国に追随するのか?そこまでは疑わしい。
因みにカンボジアは48%もの関税を掛けられるとあるが、5%に下げて欲しいと要望。フンセンの子息が首相になっているけれど、政治体制に変わりなく殆ど中国カラーが全土に浸透しているのが、関税よりも問題なのです。
・メディアが報じた所 鉄道インフラ整備急加速 これは何を意味するのか
此の習近平氏の訪越に関して、ベトナムメディアは、ラム書記長は科学と技術をベトナム・中国間の新たなハイライトとしたいと考えている、と報じました。
即ち、公式発表された共同声明の内容を簡略化して報じているのだが、ラム氏は習主席の訪越が新たな越中間でのランドマークになるとし、両国の包括的で戦略的パートナーシップを深めることを確信し、未来の共有コミュニティーの発展を期待すると述べたとある。ベトナムは中国との関係を戦略的な選択で、外交政策で最優先事項と考えているとし、中国に寄り添った姿勢を示した。
これのどこまでが真意かリップサービスなのか分らないけれど、政府の意に沿わないものでは全くない。もしかすると先に発表された省などの再編成と合理化に何らかの形で結果として繋がるのでは?と思わざるを得ません。
ラム氏は習近平主席に呼応して、これまで省が担ってきた対話を大臣レベルに格上げすることに合意。インフラ整備に於いて両国は、前回の話し合いでほぼ決まった鉄道協力委員会を設立してベトナムに協力するとし、具体的な案件に着手する事を依頼。交通インフラの持続性向上、融資、人材育成、技術移転のため最適な取引を提供。ラオカイ~ハノイ~ハイフォン間の鉄道プロジェクト進行の確保を求め、さらにドンダン~ハノイ間、モンカイ~ハロン~ハイフォン間の鉄道建設など鉄道部門、タイントゥイ~ティアンバオ間の道路分野など7件の文書に署名したとある。早ければ12月にも着工する。こうなると鉄道は中国の意趣通りに建設され、アクセスと物流網を牛耳られるという訳です。中国へは鉄路での直行便に繋がり、貿易強化に拠る人と商品の流れがスムーズになるのです。ベトナムは残念ながらエンジニアリング基準の確立が出来ず、新技術や材料開発に遅れており、この開発や建設、また維持管理において中国に支援を求めることになってしまう。これは西側諸国の排除に繋がる可能性にならないのか。さらに科学技術とDXにおいて協力を強化、これを越中関係のハイライトに変えるよう要請したとあります。
このような中でチン首相は建設省に対して南北構想鉄道案件の建設開始に関し、その手続きを迅速にするよう命じたとあります。
首相は国会が承認のため検討できるように入札メカニズムを早期に完了したいとの意向。これで建設着工は当初予定より1年早くなり、2026年となるとしているが、その背景は何か。
政府はまたハノイとHCM市の地下鉄建設の計画を見直すように指示したとあるのだが、何を意味するのか見当つかないが、何故この時期に唐突に?邪推ではあるが、何らかの意向が今回の習近平主席の訪越で動きがあったのか。
あるいは交通インフラの整備においてトップ間で何らかの思惑や密約があったのではと考えるのだが?
今に来て計画の実施を急がせる指示はなんだかオカシイのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生