日本国内のコメの話なのだが ベトナムにも影響が出ている

2025年6月20日(金)

・コメ問題での江藤大臣の不適切発言がベトナム現地紙に掲載

ベトナムの有力紙トイチェは、(5月19日の)江藤大臣の発言で、石破首相は彼を叱責したとAFP通信の記事を掲載し、一連の騒動と大荒れの日本国民の露わな怒りを日本のメディアに掲載された同じ内容で即時に伝えました。
これに関する新聞社としての説明は無く単なる外信記事だが同じ米作り国家として興味があったのではないかと思える。欧米では話題にも上がらないだろうけど、なぜベトナムでは記事になるような関心を呼ぶのでしょうか。

・ベトナムで産出されるコメ

ベトナムは米輸出で今年度タイを抜き、輸出量が790万トンに達し世界二位になると見込まれます。インドの2450万トンには遠く及ばないが、品質はこのところ急速に良くなって来ている。このひとつの要因は日本へ留学して、米の研究で博士号を取得した人がいるし、現在は日本政府や日本企業がメコンデルタにあるカントー大学でスマート農業の研究とか普及などへの支援を続けている実態があるのです。
昨年だったか、ST25なる新種が日本でも一部の地域で販売されたけれど、爾後の消息は全く話題にもならず分らない。ベトナムは一般的に長粒米なので日本人の舌にはなじみが無いけれど、それでも結構おいしいと感じます。
今回の米価格高騰で、アメリカや台湾、韓国に、ベトナムからも米を輸入するスーパーもあるけれど、実はベトナムでもジャポニカ種が栽培されています。
日本の米穀企業大手であるアンジメックス・キトクが既に30年ほど前に進出。メコンのアンザン省にオフィスがあって日本米の栽培を手掛けており、アジア各国へ輸出する他、ベトナム国内のスーパーなどで買えるがこれに随分お世話になりました。かつては富士桜一品種だけだったがその後、コシヒカリなど米の種類は増えている。同社は長い年月を掛けて農家を指導し、良い値段で買い上げていたと聞くが、地場での販売価格はかなり安かったけれど結構旨かった。
随分前だがI県庁から県内大手米企業が進出を希望し、南部視察のサポートを依頼してきた。北部ですでに日本種米の栽培実験を苗代から行なったようだが、南部はメコンを見学しただけ。その後の動静は全く聞かない。北部は水田だが日本の様な手間を掛けるやり方だと農民が動かなかったのではないかと思える。
この時点では日本ではコメが余っているとか。パン食が原因ということで給食に米飯が採用となれば、わざわざベトナムで日本種米を手間暇かけて栽培するなんて無駄という結論に至ったのではなどと思った訳です。

・ベトナム産米が日本へ輸出される

さてこのベトナム米に関する最新ニュース。ベトナム政府が進める100万Hrの高品質・低炭素米計画なるものに基づき、昨年夏秋から5省市で生産が始まったとある。これを世界で最も米の品質基準の厳しい日本へ本格的に輸出しようとする動きが出て来た。
このように米生産企業がジャポニカ種を栽培する理由、付加価値を付け高価格で販売しようとするためなのだが、日本向け米は1トン当たり1200ドルを超えるともいわれている。この低炭素米500トンをカントー市にある企業、チュアン・ハイテク農業社がまさに5月に輸出するのです。
またハノイでもタンロングループは昨年に、5000トンを1トン当たり1千ドルで輸出しているが今年は既に6千トン、さらに需要が急増している今年度は3万トンの輸出を計画していると現地記事にあります。
しかし何れの企業でも日本の米に対する技術的基準は厳しく、漫然と輸出するだけでは輸出拡大は難しい。安定した品質保持と体系的な生産への取り組みが
重要であることを認めているとされます。こうなると脅威になるかも。

筆者にすればやっとこの様な時代になった、と思うのだが、これまでベトナムの米主産地であるメコンデルタでは水田に直播、二期・三期作を行なっていた。
作れば良い、放っておいても沢山収穫できるなど間違った栽培が横行。これを大学が先頭になって改良してきた苦難の経緯があります。
高い所から、水を張った田、青々とした田、黄金色に染まった田、カンボジア国境に続く広大な大地でこの様な夫々の風景を観ることができました。
ベトナムは先進工業国に成るとの国家目標で突っ走ってきたけれど、本来的に肥沃な大地と水、太陽という恵まれた自然環境という宝がある農業国。これを政府に生産者も粗末にして来たのではと考えています。
従ってようやく目覚めたという風に思える。中には土作りが大事という信念を持った人もいたのだが極少数。ということは、これまで有能な人が居たにも関わらず、日本の自治体などの様な新種作りや品種改良などの努力を行政はしてこなかったと言える。

・日本の米問題

昨年来、農政の欠陥と失敗で相次ぐ失態が露呈。当初は嘘を隠そうと辻褄合わせの馬鹿げた話が実しやかに報じられたが、結局は米不足である実態が暴露。
実は今でも生産調整(減反政策)がはっきりと指示されている様で、米を作るな!との通知が農家に渡っているなど怖い話も出ていると聞くのです。
さらに卸業者での滞留と価格つり上げ疑惑があるけれど、日本独特の今までの一次問屋、二次問屋、はたまた三次があるとなれば中間マージンが増すだけ。物流システムは急速に大変化しているので、こうした時代遅れの方法など構造的に改革すべきで、米に関する流通にしても一向に改善しないのは利権なのか。
また組織が肥大化、複雑化して本来の目的である農業従事者のための営利組織とは言えなくなり、時代の流れにもそぐわなくなった農協。そこへ一部のドンと言われる人物が絶対権力を持ち、あたかも我が物顔で意に従わない組織や人物を排除、魑魅魍魎の如く跋扈、支配する闇の部分にメスを入れ、根本的に変えさせなければ農家が潤う訳などありません。また消費者は高い価格で買わされるだけで何も変わらない。
こうした環境変化に対応せず、票田として彼らの意向に沿う様な政策を堅持し官僚に圧力を掛ける自民党の古い体質。現場を見ず経済・ビジネス音痴なのに画を描く行政は阻害要因でしかありません。
即ち、諸悪の根源である行政の政策の欠陥、流通過程の問題、農協改革という三位一体を並行して行う必要がある。

それにしても備蓄米放出。入札なんて可笑しなことばかりやっている。農水族の二世議員を任命した時点で首相の間違い。あるいは押し切られたのかだが、緊急時なら超法規的扱いの無料で渡せばいい話。計算すれば国民一人当たり約8キロとなるが、ウチ等は現物支給で良いのですけど。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生