ベトナムには何故グローバルな民間企業が存在しないのか?

2026年9月1日(火)

‐現地紙が報じた自国の民間企業への疑問に関しての記事から‐

・上半期の経済成長は好調であったけれど

ベトナムは経済成長を続けており、6月に世界銀行が上位中所得国に格上げを認めた。これは国民所得が上位中所得国とされる基準を上回ったからであるが、一連の状況に関しては、前のコラムに詳細を記してあるのでご確認ください。
こうなると次の目標は高所得国入りすることであり、世界の先進国と肩を並べようという訳だが、2045年にこの目標を達成するためには、経済成長率を年平均10%以上にしてゆくことが必要だと計算上では出ています。
今年は高所得国に向けた元年となる訳だが、1~6月の上半期では8,18%であった。出だしが10%以下という事は、ホルムズ海峡封鎖に拠る影響が多少なりともあったのかも知れないけれど、筆者は限定的だと考えます。
ADB・アジア開発銀行が今年の成長率を予測していたのは7,2%としている。しかしこれはアジアで最も高く、製造業や輸出、安定した内需が成長を支えているとしており、中でも工業が7,7%、サービス業は7,5%成長であった。
また年初6カ月間でベトナムに対する外国企業の投資は回復しており、FDI認可額は前年同期比を61%上回り347億ドルと好調であった。
インフレ率は政府目標の4,5%であるが、4,38%となっており、このため国家銀行は政策金利を年末まで据え置くであろうと予測されている。
では何が高所得国への扉を開けるのか。インフラなどへの安定した公共投資、政府が考える科学技術立国であり、このため半導体、IT関連、AI、脱炭素にグリーンビジネス事業を促進するという訳である。だがこれを推進するためには巨額の費用が掛かるし、専門教育を受けた高度人材が多数必要になります。
しかし現時点ではこの様な技術や独自ノウハウを自国で持つ地場企業がある訳でなく、人材不足と現地報は伝えている。また一朝一夕で技術を修得できるというものでもない。政府はどのように舵取りをする考えがあるのか。あるいはこれまでの様に資金も含めて、またぞろ外国のODAや海外企業に依存する事になるのか?だが、基軸になるものとか明確な方向性は何も見えて来ません。
また成長を発表された表面上の数字だけで判断するのは正しくなく、その中身がどのような内容かを正しく把握し分析する必要がある事を心すべきです。

・ベトナム経済が今年後半に突破口を開く原動力とは

こうした中で、多くの経済専門家などが意見を表しており、現地経済紙に掲載されたのが、これから記すベトナム国立大学講師である、グエン・クオック・ヴィエット博士の今年6カ月間の経済成長への見解です。
成果としてあげているのは、制度的なボトルネックの解消で、投資とビジネス環境の改善と、そのコミュニティーの信頼強化に於いて政府は抜本的で柔軟な運営を反映しているとある。彼は年末まで成長を維持するため、まず公共投資が引き続き重要な役割を担うが、最も効果的な推進力であるとした。インフラ整備は民間投資の流れを呼ぶプライマーキャピタルとして機能するとあります。
また上半期成長率は過去15年間で最も高いレベルにあるが、今年の目標からすると依然課題が残っている。公共投資の効率化、企業への支援策、技術革新の促進が民間セクターに解放されてこそ突破口になり得るとしています。
また財務大臣のトゥアン氏は、上半期に国内約17万社の企業が市場に参入し、社会への投資額が180億VNDを超えた。FDIは61%増加したが、これは工業、建設、サービス業の成長に88%寄与した、さらに二桁成長した地域は9カ所あり、ハノイとHCM市は大幅に改善したと成果を自認している。
多くのマクロ指標も好調を維持しているという。省予算は62%に達し、税金と手数料の免除・減額を実施、また還付を行い企業や市民を支援している。
金融政策は積極的、柔軟に管理され、通貨、外貨に基本的な為替市場は安定しており、このため投資家の信頼を維持し生産や事業のためのキャッシュフローを確保していると経済紙に語ったとある。即ち企業は資金を持っている訳です。
だが大臣は、上半期成長率は年間目標から1,52ポイント低く満足できるものでない。つまり下半期で11,7%の成長を遂げなければならないとした。
達成は大きな課題であるが、国内需要の回復は予想より低くかった。また科学技術プロジェクトを含む公共投資の配分は要件を満たしていない。さらに常に質の高い労働力が不足しており、労働市場にあっては地域的な偏りが見られ、特に遠隔地での人々の生活は困難に直面している現状があると語った。

・民間企業が重要なキーになる 何を今さらという気がするけれど。

公共投資は効率化と制度改革を促進する事で成長の余地があるけれど、しかし短期的であり、長期にわたって高い成長率を維持するためには成長モデルに切り替える必要があるとした。ベトナム企業の特徴は、低い賃金と若い労動力で組立が主体という極めて低い生産性である労働集約産業に長い間甘んじて来ました。これは地場企業に経営力、資金力や技術もないからであり、外国企業の下請け的存在でしかなかったのです。上場企業であっても外国の大手企業から製造の委託をされ大量生産する所が多く、これでは多品種少量生産で付加価値のある製品を造ることが出来ない。外国留学経験のある若手経営者はこういう状況なのに、何も考えず従来のやり方に固執する役員や管理職との間で板挟みという状態。生産構造の有様を改革し利益が出る様な組織力を持ち、強い企業を作ろうとしても従業員の意識改革が出来ないままで悩みも多かったのです。
このところ幾つかのコングロマリット企業が出現しているが取るに足りない。だがベトナム企業の弱点である生産性と科学技術力の低さをイノベーションに拠る成長モデル切り替える必要性を説く識者や経営者が出て来た。
上位中所得国に仲間入りしたということは、国際社会がベトナムの経済発展を認めた事、輸出が基本となった成長モデルが効果的であった事が証明されたものと評価する声もある。となればこれまで差別化が出来た安価な労働力という競争力は新たな発展段階においては減少してゆくことになる。
そのために成長の方向性は科学技術の振興、技術革新、知識的生産性にシフトして行かなければならず、経済の質的変化、国際競争力向上を意味するものだとしている。

元統計局長であったグエン・ビック・ラム博士は。経済成長は多くの要因からなっており、公共投資、輸出、FDIの誘致、国内需要(消費)などからなっている。だが問題は、国際経験が少なく、先に充分な国内ビジネスの発展なくして長期間にわたって高成長を維持できない、と述べたとあります。
制度改革は中長期の成長を維持する要因となるので、今年度後半に実質的改革を継続する必要がある。しかし障壁の撤廃が新たな規制や手続き、事業案件を生み出すことで企業の投資意欲を低下させてはならない、ともしているのだがこれは過去の状況から見てベトナムに有りがちな特異事情かも知れません。
ラム氏は、公共投資はインフラを整備し開発をけん引する。FDIはベトナム企業の技術と市場拡大を補完すると定義した。技術の習得、ブランディング、世界的なバリューチェーンへの参画を通してこそ持続可能な競争力を築ける。
新たな開発段階に於けるベトナムの要件は、成長の加速だけでなく、世界的な変動に対応する能力を高める事であるとし、その為には民間経済が新しい成長モデルになる推進力として重要であるとしているのです。要するに民間企業の活躍と変革が必要不可欠と述べている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生